Sika deer Management Policyエゾシカ管理計画

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北海道環境科学研究センター 野生動物科
エゾシカ保護管理計画(2000年)
道東地域エゾシカ保護管理計画(1998年)英語版あり

日本エゾシカ協会
鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律案 第9次鳥獣保護事業計画

Download Fortran source program for risk assessment of deer management
堀野眞一氏のSimbambiの頁
ワシ類鉛中毒ネットワーク
adaptive managementについて (Government of British Columbia)

Adaptive Management Links to other Sites of InterestGovernment of British Columbia森林局)
エゾシカのフィードバック管理と絶滅リスク評価(月刊海洋)

(以下の文書は、1997年に提案したものです。詳しくは道東地域エゾシカ保護管理計画をご覧ください)

I.はじめに
A.目的
 エゾシカ管理方針は、エゾシカの絶滅を回避し、かつ、増えすぎによる農林業被害、交通事故による被害を抑制するために、エゾシカ個体数を適正水準に維持することを目的とする。

B.背景
 エゾシカは、明治時代には乱獲のために絶滅の危機にあり、現在は分布域が拡大し、農林業被害額が年間40億円に達するほどに増えている。このような激減と大発生を繰り返すべきではない。絶滅を回避するには個体数が多い方が好ましい。しかし、今後100年間の絶滅確率は雌親の個体数が数十個体にまで減少すれば無視できないが、1000個体以上生息していればほとんど無視できる。問題は、厳冬などの環境変化、捕獲や開発による生息地破壊などの人為的要因により個体数が激減する危険性を的確につかみ、その恐れが生じたときには速やかにその危険を避ける体制を整えることである。また、狩猟と有害獣駆除によって個体数を調節するため、狩猟者に安定した狩猟機会と狩猟報酬を与える必要がある。

C.方法
 エゾシカが生きている限り、その被害を皆無にすることはできない。被害額を減らすためには、できるだけ少ない個体数に維持することが望ましい。しかし、個体数が少ないほど絶滅の恐れが高くなり、環境悪化や乱獲に対する細心の注意が必要になる。限られた予算で管理するには、絶滅を避けるために維持する個体数を高めに設定せざるを得ない。科学的かつ実現可能な管理方針として、我々は以下の管理方針を提案する。
1.エゾシカの個体数の変動は自然環境条件、餌の多寡、天敵の多寡、生息地条件、及び人間による捕獲数に左右される。本管理方針は、このうち人間による捕獲、狩猟による捕獲圧と有害獣駆除の数を調節することで実施する。
2.当面、最大規模の集団であるエゾシカ阿寒集団を管理の対象とする。阿寒集団の管理実績を踏まえ、他の集団の管理方針を引き続き検討する。
3.個体数を適正水準に維持するために、毎年精密な個体数調査を行う。しかし、絶対数の把握が難しいため、相対的な指数により個体数が減少傾向にあるか、増加傾向にあるかを把握する。
4.狩猟によって個体数を調節するためには、政策決定者、狩猟者、被害を受ける住民、及び一般市民の綿密な協力関係が欠かせない。彼らの利害は必ずしも一致していないが、エゾシカの絶滅を防ぎ、かつ大発生による被害をできるだけ抑えることが求められている。そのために、管理方針は以下の条件を満たすべきである。第一に、互いの信頼関係のもとに、情報をできるだけ公開し、管理方針を全体の合意のもとに作り上げる必要がある。第二に、管理方針は単純で誰にでも理解できるものでなくてはならない。第三に、管理方針は状況の変化に応じて柔軟に適用できるものでなくてはならない。第四に、変更の度に利害対立による相互不信を生まないように、管理方針の変更は一定の規準(algorithm)に基づいて行い、その規準自身は長く変えないことが望ましい。

II.管理方法
A.回授(Feedback)管理
 本来、野生生物の個体数を管理するにはその生物の寿命、生存率、繁殖率(及びそれらの環境応答、密度効果)などの生活史特性を知る必要がある。しかし、これらの情報が完全に得られている生物はいない。回授管理はこれらの情報が不完全な場合にも、生物集団が増加傾向にあるか、減少傾向にあるかを把握するだけで管理を行う手法である。したがって、最低限必要な情報は個体数の相対指数の年変動である。エゾシカ阿寒集団の場合、個体数指数はヘリコプターによる目視調査などの調査情報、農林業被害などの経済情報と一日一人当たり捕獲数(catch per unit effort=CPUE)などの狩猟情報から個体数指数を推定する。
 本来の回授管理は個体数指数が目標値を上回るときには前年より捕獲圧を増やし、下回るときには捕獲圧を減らす。増減の程度は通常個体数指数と目標値の差に比例するように決める。これを繰り返して個体数指数を目標値に誘導する。ただし、この方法は生物と捕獲圧が丁度被食者と捕食者の関係のように振動し続けることになり、個体数指数を目標値近くに維持することは難しい。そのため、今回は以下の方法を提案する。

B.四段階管理
 大発生水準Nob、目標水準Ntar、許容下限水準Ncrと名付けた3種類の個体数指数を定める。大発生水準とは、個体数指数がそれを越えると1995年のように農林業被害額が許容水準を超えたと思われる状態を指す。許容下限水準とは、個体数指数がそれより下がると持続可能な狩猟が不可能な状態を指す。そして、緊急減少措置、減少措置、増加措置、禁猟措置の4種類の捕獲圧を設ける。捕獲圧はこの順に低くなり、緊急減少措置は個体数が確実に減少し、かつ短期間で絶滅する恐れのない程度の捕獲圧、減少措置は個体数が平年の環境条件で徐々に減少に向かうと期待される捕獲圧、増加措置は平年の環境条件で徐々に増加に向かうと期待される捕獲圧、禁猟措置は個体数指数を把握する目的以外の雌鹿の捕獲を全面的に止める措置を指す。
 最近の個体数指数Ntが大発生水準Nobを超えた場合(Nt>Nob)は緊急減少措置をとる。目標水準Ntarと大発生水準の間にある場合(Ntar<Nt<Nob)は減少措置をとる。目標水準と許容下限水準Ncrの間にある場合(Ntar>Nt>Ncr)は増加措置をとる。個体数指数が許容下限水準より下がった場合(Nt<Ncr)は禁猟措置をとる。緊急減少措置や禁猟措置は極力実行せず、増加措置と減少措置を繰り返す状態が望ましい。
 捕獲圧を変えてもその翌年に効果が現れるとは限らない。エゾシカは2歳で出産を始め、条件が良ければ毎年1個体ずつ出産する。そのため親鹿に対する捕獲圧を上げても子鹿がたくさんいればその翌年はなお個体数が増え続けるかもしれない。同様に、捕獲圧を下げても子鹿が少なければ翌年はさらに個体数を減らすかもしれない。しかし、2年後に効果が期待できるというのは他の世代時間の長い生物の管理よりも恵まれている。
 現在の個体数、及び生存率や繁殖率などの生活史特性が不確実な状態では、これらの水準や各措置に対応する捕獲圧をどのように定めるのが最善かはわからない。個体数と生活史特性が正確にわかるほど、目標個体数指数も低く、増加措置と減少措置の格差も小さくすることができる。また、目標個体数を低く定めると禁猟措置を発動する頻度が増え、狩猟者の狩猟機会が不安定になる恐れがある。
 捕獲圧変更の効果は2年後から顕著になるため、毎年捕獲圧を変更すべきではない。捕獲圧の見直しは原則として西暦で5の倍数の年(2000年、2005年・・・)とその2年後(2002年、2007年・・・)に行う。後者の年には同時に減少措置、増加措置時の捕獲圧についても見直しを行う。ただし、減少措置に環境条件の悪化や伝染病の流行が重なると個体数が急減する恐れがあるため、禁猟措置は個体数指数が許容下限水準を下回った時点で直ちに発動できる。また、個体数が危機的水準以下にまで減る恐れがあるため、緊急減少措置は3年以上連続しては実施しない。
 どの程度の雌鹿捕獲率を加えると個体数が減少したり増加するかは、生活史特性(生存率や繁殖率)の推定値のその推定誤差から計算できる。ただし、捕獲率は捕獲頭数と集団全体の雌鹿個体数の比で求められ、全個体数が不明である以上、現在の捕獲率も不明である。したがって、捕獲圧を現状のどの程度にすべきかについては、全個体数の推定値とその推定誤差も考慮しなくてはならない。


C.捕獲圧の調整方法
 捕獲圧の調整は狩猟可能期間及び狩猟可能区(以下、それぞれ可猟期と可猟区と呼ぶ)の伸縮により行う。  狩猟による捕獲頭数は狩猟努力E、狩猟効率Qと個体数Nに左右される。狩猟努力Eと狩猟効率Qの積をここでは捕獲圧と呼ぶ。捕獲率は概ね捕獲圧に比例すると考えられるが、捕獲率が50%を越える場合、捕獲圧を2倍に増やしても100%以上の捕獲は不可能である。Nicholson-Bailey模型 によれば、捕獲率Hは1-exp(-EQ)と表せる。狩猟努力Eは猟師の延べ人数(人日)で評価される。可猟期間や可猟区面積を変えると、毎日皆が平均して同じ狩猟行動をとるとは限らない。だから可猟期間の長さや可猟区の面積を2倍にしても捕獲圧が2倍になるとは限らない。さらに、狩猟効率も積雪量などの気候条件に左右される。したがって、可猟期と可猟区及び実効的な捕獲努力の関係についても毎年調査する必要がある。毎年の捕獲頭数はかなり正確に把握できる。狩猟努力も狩猟日誌によりかなり正確に把握できる。しかし鹿の総個体数が不明かつ毎年変化するために、実際の捕獲圧は正確には把握できない。
 禁猟区の設定と変更は過度の狩猟圧を避けること、シカに安全な場所を学習させずに毎年一定の狩猟圧を確保する点で効果的である。阿寒湖周辺の国立公園内は永久保護区となっているが、これは一定数の越冬を確保し、過度の減少を防ぐために効果的である。
 後で述べるように四段階管理の下では雌鹿(牝鹿)捕獲数は増加措置期と減少措置期で大きく変動する。そのため、狩猟者の捕獲数を安定にするため、雄鹿(牡鹿)あるいは他の獣の捕獲制限を変える措置が必要がある。
 雌鹿狩猟期を現在の雄鹿狩猟期(11月中旬から1月中旬の2ヶ月間)の初めか終わりに設ける。どちらに設けるのが適当かは鹿の分布などによる。

D.個体数指数の推定方法
 できるだけ多くの情報からできるだけ正確な推定値を得るために、個体数指数は、ヘリコプターなどによる目視調査(調査情報)、狩猟及び有害獣駆除などの捕獲情報、及び農林業被害額や交通事故件数(経済情報)による推定値を併用する。個体数指数の推定方法は未確立のため、北海道環境科学研究センターが毎年推定値と共に推定方法についても検討を加え、報告する。推定方法を変更する場合、前年に採用していた推定方法による推定値と新たな方法による推定値を併記する。
 異なる情報から推定される個体数指数が互いに矛盾する場合、個体数指数を推定する明確な方法はない。個体数指数の推定は北海道環境科学センターが行い、その結果と根拠を報告書に明記すべきである。
 過去と異なる推定方法を採用した場合、個体数指数の整合性を計るため、個体数指数は1995年水準を100とするよう基準化する。たとえば過去の推定個体数が過大評価であったと判断された場合、現在の推定個体数と同時に1995年の推定個体数も下方修正されるため、管理基準の一貫性を保つことができる。

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