一般講演
小池(1992)は遺跡資料から縄文時代のニホンジカの狩猟率を推定し、乱獲であったかどうかを議論した。野生生物を狩猟するとき、幼獣を捕っても得られる食料は少なく、妊娠中の雌を捕れば次世代の個体数を減らしてしまう。本講演では、下記の文献に示された雌シカの成長曲線、年齢別死亡率、齢別繁殖率及び繁殖季の基礎情報をもとに、持続可能でかつ最大の収穫量を得るための狩猟季と狩猟年齢を求める一般理論の結果、「ある齢の体重」>「そのとき見逃して将来成長して捕獲できる体重の期待値(収穫価)」+「その齢の繁殖価」×「狩猟インパクト係数」のときのみ捕獲すべきである。未成熟の子鹿は捕るべきではなく、狩猟季節は子鹿が親から独立できる秋季に親だけを狩猟すべきであり、寿命間近の高齢獣は通年狩猟しても持続可能なシカ狩猟が可能であるという結果が示唆された。
梶光一(1995)ヒグマ・エゾシカ生息実態調査報告書I 野生動物分布等実態調査(1991〜1993年度)北海道環境科学研究センター 164pp.
小池裕子(1992)生業動態から見た先史時代のニホンジカ狩猟について.国立民族博物館研究報告42集15-44.
鈴木正嗣(1994)野生ニホンジカ(Cervus nippon)における不動化、成長および繁殖に関する研究.北海道大学獣医学博士論文 139pp.
自由式シンポジウム(企画担当:大串隆之・齊藤隆)
(6)やっぱり手がでる個体群:「理論と個体群」(その1)
プランクトン食浮魚類は個体数が数十年の尺度で大変動することが知られていて、マイワシの変動幅は漁獲量で見て500倍に達する。最盛期にはマイワシの全国漁獲量は450万トンに達し、日本の全漁獲量の約1/3を占め、食用だけでなく、家畜飼料や養殖魚餌料としても利用されていた。このような非平衡有用生物資源に対する持続的利用の問題は、その変動機構の解明とともに理論個体群生態学の興味ある研究課題である。
短期変動は海洋環境に大きく依存するが、マサバの次にはマイワシが増え、その次にはカタクチイワシが増えるという「魚種交替」現象が指摘され、来年の個体数は予測困難でもむしろ将来の優占種が予測できるかも知れない(Matsuda
et al. 1992b)。このような大変動は乱獲によるものではないが、個体数が激減した1980年代のマサバをとり続けたのはあきらかに乱獲であった。非平衡生物資源の平均漁獲量を最大にする方策として、漁獲後資源量一定方策が知られている。仮に150万トンを臨界値とし、漁期前の資源量がそれよりC万トン多ければC万トン漁獲し、漁期前に150万トンより少ない年には全く漁獲しないと仮定すると、1980年代には現実よりはるかに多くの資源を保全でき、しかも累積漁獲量も高かったと試算されている(Matsuda
et al. 1992a, 松田 1995)。
太平洋マサバ漁業は主に1〜6月(産卵期)の伊豆諸島沖のたもすくい網漁業と、7〜12月(索餌期)の三陸沖のまき網漁業がある。漁獲量は後者が多いが、前者は産卵期に漁獲するため、どちらが個体群に大きな打撃を与えているか自明ではない。そこで、両者が漁獲する魚の1尾あたり繁殖価を計算し、その漁業インパクトの定量評価を行った。その結果、漁獲量の多いまき網漁業のインパクトが一貫して大きいことが判明した。また、1尾あたり及び単位漁獲量あたりの平均繁殖価は漁獲物の齢構成の違いから必ずしもまき網漁業の打撃が少ないとは言えなかった(Matsuda
et al. 1994)。
最後に、持続可能な漁業を行うには何歳魚から漁獲し始め、漁期をどうすべきか?それは最大原理により導くことができる。それについては松田たちの今年の一般講演の鹿の話を参考にしていただきたい。
Matsuda H, Kishida T & Kidachi T (1992a) Optimal harvesting policy for chub mackerel in Japan under a fluctuating environment. Can. J. Fish. Aq. Sci. 49:1796-1800.
Matsuda H, Wada T, Takeuchi Y & Matsumiya Y (1992b) Model analysis of the effect of environmental fluctuation on the species replacement pattern of pelagic fishes under interspecific competition. Res. Pop. Ecol. 34:309-319.
Matsuda H, Mitani I & Asano K (1994) Impact factors of purse seine net and dip net fisheries on a chub mackerel population. Res. Pop. Ecol. 36(2):201-207.
松田裕之 (1995)「『共生』とは何か−搾取・競争をこえた生物どうしの第三の関係」現代書館 230頁
松田 裕之