生態大会 1997年4月 北海道大学(札幌)

保全生物資源学の提唱

松田裕之(東京大学海洋研究所)

 保全生態学の理論には、持続可能な生物資源利用の視点が欠けている。国際自然保護連合IUCNの定める絶滅危惧生物の評価基準Aを機械的に適用すれば、未利用資源を3世代で半減させた場合、絶滅危惧種に該当する。しかし、生物資源を最大限有効に利用して最大持続収穫量を得るには環境容量の半分の資源量に維持すべきである。逆に、生物資源管理の理論にも絶滅危機評価の視点が落ちている。現存個体数が少ない資源に対しては絶滅の恐れを評価した最大持続収穫量を決めるべきである。
 北海道のエゾシカは近年増加傾向にあり、農林業被害額は併せて年間40億円にも上る。被害を許容範囲に留め、絶滅確率も低く維持するためには、シカを肉資源として有効に利用し、秩序ある狩猟を導入することが最も有効な資源管理につながると考えている。そのためには、資源生物学と保全生態学を統合した新たな分野として、「保全生物資源学 Conservation Bioresources」が必要である。本報告では、矢原徹一(九大理)、魚住雄二(遠洋水研)、竹中靖人(九大理)、梶光一(北海道環境科学研究センター)との共同研究の成果を紹介する。