水産学会1997年春季大会 1997年4月 東京水産大学

多栄養段階の魚種をすべて利用する方が効率的か?単純な数理的評価

松田裕之(東大海洋研)

【目的】世界食糧農業機構FAOは1995年京都会議の決定に基づき、海洋生態系の多栄養段階の資源をまんべんなく利用することを主張している。しかし、多くの栄養段階からから持続的に資源を利用するのは一つの栄養段階だけから利用するのに比べて必ずしも総漁獲量が増えるとは限らない。簡単な数理模型で、持続可能な総漁獲量を比較する。
【方法】被食者・捕食者の関係にある(1)2魚種系と、(2)被食者が2種いる3魚種系を考える。系が安定平衡状態にある場合は平衡状態での漁獲量と漁獲高を、各魚種ごとに独立の漁獲努力を仮定して比較する。また、現時点で被食者を十分利用していない場合に被食者、捕食者どちらの漁獲努力を増やすべきかも検討する。さらに、非平衡状態にある場合の平均総漁獲量も検討する。
【結果】(1)単純な2魚種系で完全選別漁業ができる場合には、Clark(1988:「生物資源管理論」197頁)にあるように2種両方を漁獲する状態は最大持続漁獲になり得ない。捕食者を根絶して被食者だけを利用する状態が最適となる場合もある。さらに、捕食者を乱獲して被食者を十分利用していない状況では、捕食者への乱獲を抑えることが望ましいことがある。(2)3魚種系では捕食者を漁獲しても被食者の資源量が増えるとは限らず、間接効果によりさまざまな平衡資源量の増減が考えられる。