1996年度環境庁版植物レッドデータブック(日本植物分類学会・絶滅危惧植物問題検討委員会、とりまとめは新潟大学加藤辰巳氏)は、世界自然保護連合(IUCN)が1994年に改訂した新しい評価体系(IUCN Red List Categories)に基づいている。それ以前の評価体系に基づいて作成された1989年版とは異なり、(1)絶滅危惧種のカテゴリー体系はIUCNの新体系を準用し、(2)カテゴリー評価に際しては文字情報に基づく「定性的要件」と数値情報に基づく「定量的要件」とを併用することで、とりまとめが進められている。
このうちの「定量的要件」がIUCNの新体系の客観的な評価基準に相当する新しい概念である。日本の植物RDBでは調査員へのアンケート調査によって2000種あまりの植物について25000分の1地図ごとの(1)分布情報、(2)個体数情報、(3)過去10年間の減少・絶滅傾向についての情報を集計した。本発表では、それらに基づき(A)現存個体数Np、(B)最近の年あたり個体数減少率R、(C)10年後、20年後及び100年後までの絶滅確率を試算する方法を紹介する。
さらに、現存個体数Npと減少率Rから絶滅リスクを評価する方法(IUCN新基準のA、C1、D1を統合した基準)と、絶滅確率(新基準Eに相当)の2つの方法で各種がCRitically endangered, ENdangered, VUlnerable, Lower Risk, Data Deficientのいずれに該当するかを判定できる。今回は、各種への適用結果についてではなく、上記判定方法の概要を紹介する。
また、この判定方法に基づけば、ある生息地への開発行為、局地的な個体数減少がその種の絶滅リスクをどの程度押し上げるかを定量的に評価することができる。その方法を紹介し、問題点を議論したい。