保全生態学研究会自由集会

 

環境影響評価に関する保全生態学からの提案

−ツールとしての数理モデルをアセスにどう取り込むか

 

時間3時間 (保全生態学研究会ミーティング15を含む)

企画概要

今年6月からアセス法が施行されます。評価項目には、動物・植物・生態系が取り上げられますが、「影響評価」をどのようにすべきかは、環境庁の「基本的事項」でも明確にはされていません。また、アセス法の先取りとの触れ込みの「愛知万博」アセスの実施計画書でも、個別の調査項目は詳しくあげられているものの、もっとも肝心の評価については、「質的な評価を行う」とあいまいな表現で記されているだけです。現状では、生物・生態系に関する影響評価における客観的・科学的基準や方針が不明確であり、アセス法が施行されたとしても、生態学/保全生態学の科学としての発展の現状が十分に反映されない「主観的な評価」が横行するおそれがあります。この自由集会では、生態学の各分野の現発展段階を十分に踏まえた「動物・植物・生態系に関する環境評価」はどのようなものであるべきかを考えます。具体的な議論をするために、愛知万博の事例に即して「評価につかえる数理モデル」を提案するという形式で、アセスのツールとしての数理モデルの役割を検討します。

 

鷲谷いづみ(筑波大学・生物科学系) 要旨
生物・生態系への影響評価の科学的「基準」と「手順」:
万博候補地「海上の森」をモデルにした研究の提案

松田裕之(東大海洋研) 要旨
新アセス法基本的事項の問題点、新たなrisk評価手法と将来の課題

波田善夫(岡山理科大・総合情報学部) 要旨
海上の森の自然:多様性を支える地質と水

佐藤一憲 (静岡大・工学部) 要旨
時間的・空間的に不均質な環境によって維持される稀少種のダイナミクス

竹中明夫 (国立環境研究所) 要旨
木々の知識を集めてみれば − 個体ベースモデルによる森林動態の再現と予測

コメンテーター
巖佐庸 (九州大学・理学部) 要旨
まだまだ手法はいろいろある:数理モデルの無限の可能性


 

講演要旨

 


鷲谷いづみ(筑波大学・生物科学系)

生物・生態系への影響評価の科学的「基準」と「手順」:

万博候補地「海上の森」をモデルにした研究の提案

 


新アセス法基本的事項の問題点、新たなrisk評価手法と将来の課題

松田裕之(東大海洋研)

 新アセス法の「公害」関連の評価項目とその手法では、数理モデルも確立し、環境中の許容水準もほぼ確立している。今後の問題は、環境負荷を絶対規準だけで評価するのではなく、事業の便益と比べるrisk/benefit(危険性・便益性)評価である。環境庁も、戦略評価strategic environmental assessment研究会を発足させており、近い将来定着するだろう。

 それに対して、生態系への影響評価は定量的な評価手法も、その規準も確立していない。きわめて不確実性で不十分な情報から、合理的な評価規準を定める必要がある。当面は公害関連に匹敵する許容規準、近い将来に備えて危険性・便益性評価を行う方法の提案準備が欠かせない。

 それどころか、今年施行される新アセス法の基本的事項は、現代の生態学からはるかに遅れた自然観に基づいている。生態学者は、(1)この時代遅れの基本的事項の法的実態を知り、(2)公害関係に匹敵する評価手法を提案し、(3)戦略評価SEAに備えた危険性・便益性評価の手法を実現する準備をすべきである。

 


海上の森の自然:多様性を支える地質と水

波田善夫(岡山理科大・総合情報学部)


 

時間的・空間的に不均質な環境によって維持される稀少種のダイナミクス

佐藤一憲 (静岡大・工学部)

 


木々の知識を集めてみれば

個体ベースモデルによる森林動態の再現と予測

竹中明夫 (国立環境研究所)

森林の個体ベースモデルは、森林をひとまとまりのものとして扱うのでなく、一本一本の木が寄り集 まったシステムとして扱う。個々の木の振る舞いの総体として森林を再現するのである。となりあう 木々は光などの資源を奪いあう。それぞれの木は、大きさ・樹種・光、水分等の物理環境などに応じて 成長し、死亡し、繁殖する。木々のこれらの振る舞いが諸条件にどのように依存するかがモデルの構築 に必要な「木々の知識」だ。構成要素についての知識を集めることでシステム全体を再構成するのであ る。

もちろん、われわれが持つ「木々の知識」は不完全だから、モデルとして再構成された仮想森林もまた 不完全なものである。また、自然界のできごとにはつねに確率的な、サイコロをふってみないと分から ない部分がつきまとうから、100%の確率でなにごとかを予想するのは無理なことだ。それでも、人間 が持っている科学的知識をフルに動員しておこなう一種の確率予報の道具として、個体ベースモデルと いう仮想森林は有用なものと考える。

コンピュータの中に仮想の森林をつくることのメリットのひとつは、簡単に実験ができることである。 開発にともなって森林の面積を半分にすることの影響が論点になっているとき、実際に木を切ってし まっては事前アセスメントにならない。ほんものを使って実験するわけにはいかない。コンピュータの 中の森林なら面積を半分にするのも2倍にするのも容易だ。択伐の影響や外来種の導入の影響などもシ ミュレーションにより予想してみることができる。

本講演では、わたしが開発した森林の個体ベースモデルについて説明し、これを使ったシミュレーショ ン実験の例をいくつか紹介する。


 

まだまだ手法はいろいろある:数理モデルの無限の可能性

巖佐庸 (九州大学・理学部)

 

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