IUCNレッドリスト規準改定案と見直しの経緯について

松田裕之(東京大学海洋研究所)1999年9月3日

 1996年のIUCN総会で、海産魚類などのレッドリストが承認されると同時に、レッドリスト判定規準の問題点が指摘され、規準の見直し作業が行われることになりました。1998年3月のScoping Workshopから1999年7月のCriteria Review Workshopまで6回のWorkshopが開かれ、1994年に定められたIUCN Red List Categoriesの改訂作業が話し合われました(私は99年1月のMarine Workshop(東京)、6月のCriterion A Workshop(英国)と最後のWorkshopに参加しました)。

改定案 IUCN/SSC(1999)"IUCN RED LIST CRITERIA REVIEW PROVISIONAL REPORT: Draft of the Proposed Changes and Recommendations"Speciesに掲載されているそうです。その改定案と改訂の経緯を紹介します。

 改定案に対する意見、特に

1994年規準を用いてレッドリスト作成にかかわった人の意見を求めています。関心のある方は改定案および下記の私の説明などを読んで、19999月末日までに、Craig Hilton-Taylor, Red List Programme Officer, IUCN/SSC UK Office, 219c Huntingdon Road, Cambridge, CB3 0DL, United Kingdom. Fax: +44-1223-277845, Email: redlist@ssc-uk.org OR craig.hilton-taylor@ssc-uk.orgまで意見を寄せてください。

 以下の私の説明は、特に私が注目する点に絞って紹介しています。

1)CR,EN,VUの定義の変更。


1994年規準ではA taxon is {CR| EN| VU}when it is facing an {extremely high| very high| high} risk of extinction in the wild in the {immediate| near| medium-term} future, as defined by any of the criteria (A to E)…と、絶滅危惧種{CR| EN| VU}について絶滅の恐れがそれぞれ{きわめて高い| 非常に高い| 高い}絶滅の恐れが、{差し迫った未来| 近い将来| 遠くない将来}に起こるという定性的定義があり、その後にA−Eの5つの定量規準が述べられていました。
 ところが改定案ではA taxon is {CR| EN| VU}when available scientific evidence indicates that it meets any of the Criteria A to E (below), and it is therefore considered to be facing an {extremely high| very high| high} risk of extinction in the wild.と、どの程度逼迫した未来の危険かを言及する部分がなくなり、かつ、定量規準の後に定性的定義を述べるように変わりました。
 これは、特にA規準やE規準で10年または3世代時間(どちらか長い方)の間の減少率や絶滅確率により絶滅危惧のランクを判定しているため、世代時間の長い生物では数十年後から100年後の絶滅の恐れによりCRと判定されることがあったからです。私個人は、世代時間を用いるのをやめ、人間が早急に対策を講じるべきものを重視するために年数だけで判定するように改めることを主張したが、改定案では世代時間を残し、いつ頃絶滅するかについては明言を避けるようになりました。
 日本の
環境庁版植物レッドリスト判定規準では、特に植物の世代時間を計るのが難しいこともあり、年数だけで判定しています。

2)保全依存

Conservation dependentはなくなりました

3)地域集団の判定

 IUCN判定規準はもともと種全体に対するものだが、地域集団についても同様の判定をおこないます。ただし、CRの規準を満たすとEN、ENを満たすとVUというように、1段階甘く評価します。

4)不確実性の説明

 不確実性の生じる3要素、考え方、扱い方などを細かく述べています。

5)

Population, Subpopulationの定義
 個体数を(亜)種全体の成熟個体数と表すのは生態学の定義と異なります。別の用語を検討したがうまくいかず、結局、普通の用語と違うことを注意するにとどまりました

6)世代時間

 今までは成熟個体の平均年齢Σxlx/Σlx(和は成熟齢以降)としていましたが、多年生植物や魚介類では、おおむね成長しながら繁殖するため、生まれた個体の親の年齢の平均値Σxmxlx/Σmxlxとしました。また、乱獲状態では高齢個体が減り、世代時間が短くなります。よって健全な状態での世代時間を用いることとしました。多くの二枚貝では環境悪化により成長が健全な状態より遅くなり、世代時間が延びていますが、これも従来の健全な状態での短い世代時間で評価することになります。埋土種子の休眠期間のようなものは考えず、1年草なら世代時間は1年とするはずです。

7)規準E

(定量的解析)
 もとはPVAかまたはany otherの定量的解析手法と記されていましたが、定量的解析手法自身の定義が明示され、PVAはそのひとつであるというように定義が変わりました。日本の植物レッドリストでで使ったやり方も含まれるでしょう。

8)準絶滅危惧

 定義に、近い将来VUとなるものという場合を加えました。保全依存という分類を除きましたが、ここに管理下にある生物の判定を生かす考えがうかがえます。

9)規準A(減少率による判定)

 まず、過去10年または3世代の間に20%以上減っていたらVUとしていたのを、30%に緩めました。さらに、すでに減少が止まった生物や管理されている生物への配慮から、減少population reductionの要因がわかり(known)、その要因がなくなり(have ceased)、再発しない(not recur)ことがすべて満たされた場合、より極端な減少率の場合のみリストすとすることにしました。つまり、上記の条件がすべて満たされる場合、90%以上減ったらCR,70%以上ならEN,50%以上ならVUとします。