環境影響評価会委員の辞任について

 3月8日付朝日新聞朝刊(名古屋34面)の私の評価会員の辞意に関する記事はかなり不正確であり、私の名が見出しにでていたにもかかわらず、事前に記事を確認するどころか、記事にしたことの説明も受けていません。8日夕方に知人より記事をみたと知らせが入り、経産省より記事の複写をいただいて初めて内容を知った次第です。

 辞意を伝えたことは間違いありません。

記事には「審議で反対意見がまったく考慮されなかった」とありますが、私は、3月4日付メールで以下のように述べました。この記事は不正確です。

「森嶌先生には、私の度重なる反論にも発言の機会を与えていただき、ありがとうございました。私の希望をかなえていただけなかったのは残念ですが、評価会委員の多数の方のご意見とあれば、しかたありません。」

また、記事には、現在の案では以前の計画に比べて環境負荷が減ったとはいえないと私が不満を述べたようにありますが、これも不正確です。3月4日付資料にある修正評価書案にかかれた方法では、負荷が減ったとはいえないと述べたつもりです。

 理由

1)もともと、実施計画書では関連事業が造成した部分に万博施設を建てる場合、その負荷は関連事業の負荷と見なし、万博独自の負荷とは見なしていません。これは万博の正味の環境負荷を反映していないとも言えますが、関連事業の負荷を並記することで了承されました。

2)評価書ではI案(海上地区だけを使った案)とII案(オオタカ営巣後海上地区と青少年公園地区等を使った案)を比べましたが、万博独自の改変域でのみ比較しているため、海上地区の造成面積はほとんど減らず、青少年公園地区等での負荷は熟度・調査が不十分で評価書には記載されていなかったため、負荷低減は明らかではないと当時私は主張しました。しかし、5月登録はBIE(パリに本部を置く博覧会国際事務局)の「要請」(2000.1.13評価会終了直後に「期待」と変更)という説明を受け、第II案の「方向」で評価書の修正を求めることで合意したと理解しています。

 II案でも正味の負荷は減っていたと思いますが、関連事業とあわせた全体としての負荷は必ずしも減っていたとは言えません。せっかく万博として保全を図った北地区が、依然として関連事業の造成対象となっていたからです。

3)その後、関連事業そのものが取り下げられ、全体としての負荷は大幅に減ったと思います。また、検討会議によって会場計画そのものも大幅に変わり、200012月にBIEに登録されました。ところが、相変わらず正味の負荷を評価せず(評価書、修正評価書をみても、正味の負荷は記されていません)、I,II案の万博独自の負荷と比較しています。この方法では負荷が低減したとはいえないと指摘し、またこの比較は関連事業なきあと意味をなさないと主張しました。私はこの比較手法の問題を2000年検討会議後の評価会から指摘してきたつもりです。そのころは明確なお返事がありませんでしたが、今回、やはり独自の負荷のみを比べる修正評価書案が、評価会として評価手法を確定しないままに協会側から提示されました。かつ、BIE登録時の案と比較するよう指摘されたにもかかわらず、今のところ比較されていません。

4)せっかく関連事業が断念され、万博として保全を図った南地区が、いつのまにか砂防工事などでゲンジボタルが激減するほどの影響があると言う情報が寄せられました。詳細は工事の内容が明らかではないので不明ですが、全体としての負荷低減を望んでいた者として、たいへん残念です。

5)以上より、私としては正味の負荷を比べなかったこと、万博独自の負荷を過去の案と比較して低減と結論づけることに賛成できません。これ以上評価会において私がお役にたてることはないと判断し、委員を辞任したいと申し出ました。

そのときのメールの抜粋は下記のとおりです。

すでに辞めた身ですので、勝手ながら、これ以上のお問い合わせにはお答えしかねます。よろしくお願い申し上げます。

200234日付電子メール(抜粋)

森嶌先生、武内先生、通産省○○様、関係各位

 東大海洋研の松田裕之です。

 本日の評価会終了後にも申し上げましたが、2005年日本国際博覧会に係る環境影響評価会委員を辞任させていただきます。なにとぞお認めいただきますよう、お願い申し上げます。(中略)

 森嶌先生には、私の度重なる反論にも発言の機会を与えていただき、ありがとうございました。私の希望をかなえていただけなかったのは残念ですが、評価会委員の多数の方のご意見とあれば、しかたありません。

1999年末の評価書の審議の頃から申しているとおり、万博独自の改変域のみを比べるのでしたら、評価書I案とII案を比べても、評価書において負荷軽減が明らかとは言えません。あの時点では青少年公園地区の新たな負荷がどの程度発生するか、明らかではありませんでした。また、あくまで万博独自の改変域でのみ比べるなら、今回の案もI案とII案より軽減したとは限りません。そのことは今年の3/22分科会で指摘したとおりです。

 もともと万博独自の自然への負荷が西地区の造成と森林体感地区であり、後者は海上からYPに移動しましたが規模はあまり変わらず、西地区は依然として造成され、既存施設が多いとは言え、YPが新たに造成されていることからも理解していただけると思います。
 本日の評価会で述べたように、I案とII案は関連事業による事前造成がなくなった今、かりに同じ図面を引いても、このとおりの負荷にはなりません。本来、評価書時点でも万博の正味の負荷(すなわち、関連事業による事前造成の負荷を含める)を比べるべきであったと思います。それをしなかったツケが、関連事業がなくなった今日に至るまで、評価基準の歪みを是正できないことは、大変遺憾です。評価書修正段階でも、過去の評価基準を改め、正味の負荷低減を示すと言う態度をとれば、負荷低減は明らかにできたはずですが、たいへん残念です。

 この評価方法の問題は、一昨年の評価会でも繰り返し指摘してきたつもりです。本日まで望みをかけていましたが、今回最終的に採用いただけず、残念です。

 また、(中略)BIE登録時の案と比べることも必須だと思いました。今回特に異論があったとは認識していませんが、これも合意に至らず、残念です

・さらに、ゼロ案との比較(中略)も合意されず、残念です。(中略)いずれにしても、何らかの方法で規模の多少を複数案として比較することは必要だと思います。

・もともと、2000年1月13日の評価会で、拙速を避けて評価書を差し戻していれば、その後の検討会議による会場案変更という経緯とは、かなり変わっていたと思います。

(中略)

たしかに正味の負荷は減ったと思いますが、減ったのは関連事業の負荷であり、万博独自の負荷ではありません。それで十分かもしれませんが、それなら負荷低減と無理に言うことなく、率直に現状分析をすべきだったと思います。

(中略)

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松田裕之
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万博関係の印刷物、記事など

Oka T, Matsuda H, Kadono Y (2001) Ecological risk-benefit analysis of a wetland development based on risk assessment using `expected loss of biodiversity'. Risk Analysis 21:1011-1023.
Matsuda H, Hada Y, Moriyama A & Washitani I (2001) 'SATOYAMA' and environmental impact assessment for the World Exposition 2005: A conservation ecological evaluation. Global Environment Research 5:183-192.
Matsuda H (2001) Application of the EIA law system to the 2005 World Exposition. Built Environment 27:51-56.
・松田裕之 (2001)愛知万博環境影響評価の問題点.生物科学52(4): 237-244.
・松田裕之(2000)環境政策と市民社会・愛知万博の迷走から何を知るか?BioCity 19:77-78
・松田裕之(2000)環境影響評価の諸問題.アクアネット(湊文社)3(4)82-84.
・松田裕之(1999) 愛知万博に係わる環境影響評価準備書の諸問題:オオタカをめぐる説明責任、順応性、反証可能性.保全生態学研究 4:107-111.
・松田裕之(1999)万博の環境影響評価と今後の環境政策の動向.日本の科学者34:320-324.
・松田裕之(1998)愛知万博が突きつけた環境影響評価法の諸問題.科学 68(8)632-636.
・松田裕之(1997) 多様性が維持する生物世界. 「自然・文化・技術の交流科学と文化の3つの未来」パリ国際シンポジウム報告書、愛知・名古屋・パリ国際シンポジウム実行委員会. pp.33-39.
・松田裕之(1999):愛知万博の環境影響評価について、環境動物学会シンポジウム、615日、大阪梅本町
・松田裕之(1999):愛知万博と説明責任。万博アセス市民の会シンポ、名古屋・生協生活会館、88
万博は開発と共生できるか?”1999/3/15放映 東海テレビ「NEXT21」出演