捕鯨問題での対話の流れを止めることはできない

松田裕之 April 7, 2002

WWFジャパン200241日発行会報にて公表した主張を巡る内外の報道

WWFジャパンが条件付きで商業捕鯨を容認」などと主張した国内の最初の報道

朝日新聞2002.4.1) 毎日新聞2002.4.2) 水産経済新聞2002.4.2

これらの報道は正確なものでしたが、以下の海外の報道は全く異なる印象を与えました。

ENN by Reuter "WWF Japan proposes partial lifting of commercial whaling ban"2002.4.2

Guardian Unlimited "Japanese branch outrages WWF with whaling plea"2002.4.2) 


 これらの海外の報道はWWFジャパン会報の内容を引用せず、厳しい条件付きで商業捕鯨再開を否定することができないと主張したことをあたかもWWFジャパンが商業捕鯨容認をWWF国際本部に逆らって独自行動をとったかの如く報道したようです。他方、

BBC by Alex Kirby "Japan green group softens on whaling" (2002.4.2)

は上記のような不正確な引用にWWFジャパンが遺憾に思っていることを紹介し、また News24(2002.4.2) も、見出し以外は比較的正確に会報の内容を紹介し、WWFジャパンが賛否どちらの一方的立場にも加担しないと紹介しています。APとロイターの誤報と混乱を受けて、WWFジャパンは声明英文)を出しました。この経緯については、産経新聞2002.4.5)「捕鯨 過剰反応?」が報じました。

 もともと、WWF国際本部は生物多様性保全と持続的利用をともに自らの使命とし、いわゆるアイルランド提案に理解を示しIWCでの対立を解決する道を探ってきました昨年7月の声明でも、反捕鯨で合意できない現状を直視し、対話再開の必要性を訴えていましたし、同日のBBC記事ではWWF本部が商業捕鯨容認に転じたと報じていました。今回のWWFジャパンの主張は、これら一連の本部の方針に即していると思います


適正管理という条件なしに捕鯨の賛否を問うことは意味がない

 私は以前から、「取材については事前に過去の記事をみせてほしい」「私への取材に基づいて記事にする場合は事前に原稿を確認させて欲しい」「署名記事以外は原則としてお断り」という条件をつけています。その趣旨は別項をご覧ください。上記のような微妙な問題で不正確な報道をされたことはたいへん残念であり、私は今後もこの条件を求めます。

 いずれにしても、今回の騒動は、問題解決に資するどころか、正反対に新たな混乱を呼び起こしたと言わざるを得ません。あるいはそれが配信元の意図だったのかもしれません。2002.3.30朝日新聞に結果が掲載された捕鯨の賛否を問う世論調査でもそうですが、適正な管理という条件をつけずに捕鯨の賛否を問うことは意味がありません。通販生活の20016月号では、賛否それぞれ3人ずつの意見を載せてどの見解を支持するかを問う「国民投票」を行っていて、回答者が無作為抽出ではないものの、最も適正な調査といえるでしょう。そのときは捕鯨賛成のC・W・ニコル氏の意見が最も支持が多く、全体の7割が(条件付き)賛成でした。しかし、女性や若者では賛成が比較的少なく、男性や40歳以上で賛成が多いという傾向は、今年の内閣府や朝日新聞の調査でも裏付けられています。

 すでにDNAによる種・系群判定の技術は確立しています。絶滅の恐れのない鯨類資源に関しては、適正な管理ができないという懸念が、反捕鯨の論拠の一つです。それ以外の理由は、野生生物資源の持続的利用という国際合意に矛盾するものです。グリーンピースジャパンでさえ、適正管理が実現できないと言う趣旨では反対し続けるでしょうが、適正な管理ができればという条件付きの世論調査(内閣府が実施)ならば、反対とは言わないでしょう。WWFジャパンの会報には、「科学的な根拠に基づいて、現時点において絶滅が危惧されない程度の個体数を保っていると判断されるクジラ種については、次の(3つの)条件がすべて満たされた場合には、商業捕鯨の再開が可能であるという論理を否定することはできない」と述べています。3つの条件とは、「(i)個体数やその増減に関するデータが十分に把握されている。(ii)有害物質や地球温暖化など、捕獲以外の影響も慎重に考慮されている。(iii)持続可能な漁獲量が注意深く推定されている実行可能で効果的なRMS(改定管理制度)が完成している(RMSは、厳格に適用されれば、クジラ類の乱獲を防ぐ上で有効な手段となる)」ことです。これは、合意形成のための条件を明らかにしたものと言えます。RMP(改訂管理方式)は科学委員会で合意されていますが、RMSはIWCで完成していませんから、直ちに商業捕鯨再開を主張するものではありません。

 しかし、今回の海外の反応は、条件を問わず、頑なに捕鯨に反対するという姿勢が根強いことを示しました。それでも、BBCなどいくつかの記事は、WWFジャパンの主張、特に上記の商業捕鯨再開の条件と、「日本政府が、国際社会での信頼を高めるべく努力するよう強く求める。国際的な信頼向上のためには、日本政府はクジラ類とその他の水産資源の、保全と管理に積極的に貢献することを明瞭に宣言し、具体的な貢献策と、その実施計画を示すべきである」と言う主張を紹介しています。

 海外の世論があくまで対立を煽り、持続的利用に向けた管理捕鯨に無条件に反対し続け、捕鯨再開の条件を示すこと自身に反発しても、国内での真摯な対話の動きを止めることはできません。これはむしろ、生物多様性保全と持続的利用の両立を目指す科学的な取り組みに棹差す、歴史の流れに逆行するものです。それは、CITES(絶滅危惧種の国際取引に関するワシントン条約)附属書掲載基準を巡る最近の議論においても現れています。CITES事務局原案(動物・植物両委員長の共同提案)を日本政府はおおむね支持しており、欧米諸国と環境団体がこれらに反対する構図を浮き彫りにしています。これは、今までの日本政府の主張や行動が正しいことを意味するものではありません。

 持続的利用に反対する動きと、適正に管理しない利用はともに批判されるべきものです。必要なのは、科学的で適正な管理を実行する体制を整え、過去の誤りを率直に反省し、環境団体を含めた合意形成を行うことです上に紹介した点について、WWFジャパンの主張を、私は全面的に支持します。