多魚種系から得られた最大持続漁獲高と多種共存条件

○松田裕之(横国大・環境情報)・Peter A. Abrams(トロント大)

[目的] 単一種の資源動態模型に基づく最大持続生産量(MSY)理論は,中庸な漁獲率を推奨し,資源の絶滅をもたらすことはないと考えられてきた.しかし,相互作用する複数の魚種を利用する場合,一方を根絶して他方を持続的に利用することがある.また,1995年京都宣言には,「適当な場合には,資源の持続的開発と合致した方法で,生態系における複数の栄養段階にある生物を漁獲することを検討する」とあるが,多段階漁獲が適当になる頻度と条件を明らかにする.
[方法] 多種の被食者・捕食者系を考え,各魚種への努力量を独立に調節できると仮定し,漁業費用を無視した.長期的な全漁獲高Yを最大にする各種への漁獲努力量を求め,そのときのYを多魚種MSY,全種存続という制約下で最大化するYを保全MSYということにする.ランダムに群集構造のパラメータの値をもつ仮想生態系を1000例選び,そのうち漁獲がない状態で共存平衡点がある系に対して,多魚種MSYと保全MSYを求め,その性質を明らかにする.
[結果] 多魚種MSYにおいては,6種すべてが存続した例はごくわずかであった.また,最上位捕食者を存続させつつ禁漁にする解は得られなかった.これに対して,保全MSYではより多くの栄養段階の魚種を利用する傾向が見られ,多魚種MSYの半分以下の漁獲高しか得られない場合もあった.したがって,MSY理論と生物多様性保全は,単一種理論で考えているほどには両立せず,漁業のおいても,多様性を保全することに常に注意すべきである.