日本生物地理学会第59回年次大会ミニ・シンポジウム

オーガナイザー:森中定治(日本生物地理学会会長)・三中信宏(農業環境技術研究所)
日時:2004年4月11日(日)15:00〜17:00
場所:立教大学(豊島区西池袋)
参照:日本生物地理学会サイト(http://wwwsoc.nii.ac.jp/tbsj/)

演者・演題

15:00 - 15:15 森中定治(日本生物地理学会会長)
「趣旨説明――蜂須賀正氏から現代へ」

15:15 - 16:00 長谷川眞理子(早稲田大・政経)
「人間は環境を変え、環境は人間を変える」

16:00 - 16:45 松田裕之(横浜国大・環境情報)
「風土・健康・平和とそれらを繋ぐ創意工夫」

16:45 - 17:00 総合討論

「風土・健康・平和とそれらを繋ぐ創意工夫」
松田裕之(横浜国大・環境情報) 発表スライド
 私たちは地球という資源を食いつぶしている。自然保護の最大の根拠は、私たちが現在享受している自然の恵みを後世の人々にも残すという「持続可能性」である。けれども、それぞれの絶滅危惧種を守ることがどれだけ「価値」のあることかといえば、明確な答えはない。つぎの根拠は、自然を守ることの科学的根拠が不十分であっても、地球規模の不可逆的影響を避けるという「予防原則」である。地球温暖化と生物多様性保全条約は、この予防原則に基づいている。/こうした論理と裏腹に、私たちは大事なことを忘れていないだろうか。最もたいせつなものは、人が他者なくしては生きていけないこと、自然の恵みなくして生きていけないことそのものである。昔の人は、自然が恵み豊かだが同時に恐ろしいものであることを知っていた。安全を追い求めるあまり、自然と死に対する畏敬の念を忘れてはいないだろうか。なぜ、ほんのわずかなリスクを避けるために今まで世話になってきた野菜や牛肉の農家を破産の危機に追いやるようなことをするのだろうか。いちばん大切なのは、自然よりも人間同士の信頼関係である。自然が厳しいだけでなく、人間同士の関係も複雑で、難しい。生物多様性と同じように、人間の価値観の多様性もたいせつである。身の回りの風土は地域ごとに多様であり、それ自身が人の社会を豊かにするものだろう。自分と違うものと上手につきあう術こそ最も価値あることである。