全種保全を考慮した食物網からの最大持続収穫高(公式サイト要旨)

松田 裕之・Peter A. Abrams

ポスター HTML(音声説明付き)

多種の被食者・捕食者系を考え、各魚種への努力量を独立に調節できると仮定した(漁業費用は無視した)。各種への漁獲努力量を,そのときの全漁獲高Yを多魚種MSYということにする。ランダムなパラメータ値をもつ仮想生態系を1000例選び,そのうち漁獲がない状態で共存平衡点がある系に対して,多魚種MSYを求めた.また、全種を存続させるという制約の下でのMSYを求めた.そのため,
dNi/dt = (ri + ΣaijNj -qiEi) Ni
という多種の被食者・捕食者系を考える(i=1,...,6の6種系).ただしNi,ri,qi, Eiはそれぞれ種iの生物体量,内的自然増加率,漁獲効率,漁獲努力であり, aijは種間関係の係数である.混獲せずに、漁獲努力Eiを自由に調節できると仮定する。平衡状態Ni*において、多魚種から得られる全漁獲高はpiを魚価としてY = ΣpiqiNi*と表される(漁業費用は無視した)。これを最大にする各種への漁獲努力量Eiを考え,そのときの全漁獲高Yを多魚種MSYということにする。6種系においてランダムにパラメータの値をもつ仮想生態系を1000例選び,そのうち漁獲がない状態で共存平衡点がある系に対して,多魚種MSYを求めた.その結果,
1) 多魚種MSYにおいては,しばしば3種以上が絶滅し,全種が存続した例はわずかであった.
2) 最上位捕食者を存続しつつ禁漁にする解は得られなかった.
3) 大半は1種または2種だけを利用する解でった.
 今度は,6種すべてが存続するという制約の下での多魚種MSYを求めた.
1) 多栄養段階を利用する解の頻度が増えた
2) 最上位捕食者を禁漁のまま保全する解が低い頻度ながら得られた.
3) MSYは制約なしの場合に比べて半分以下になることもあった.
 したがって,MSY理論と生物多様性保全は,単一種理論で考えているほどには両立せず,漁業のおいては,多様性を保全することに常に注意すべきである.