主催 森林再生支援センター
後援 奈良教育大学・奈良新聞社・奈良県教育委員会・総合地球環境学研究所(予定)

エクスカーション

大台ヶ原の森の「今」をたしかめる

参加費 2000円(要予約)
とき 2004年11月27日(土)

07:30 JR奈良駅前で受付開始
08:30 JR奈良駅前出発
12:00 大台ヶ原駐車場到着
柵のなかのブナ林コース
正木ヶ原のトウヒ林コース
16:30 大台ヶ原駐車場出発
20:00 JR奈良駅前到着

現地解説 湯本貴和・松井淳・高田研一ほか


シンポジウム
シカと森の「今」をたしかめる

参加費 無料
とき  2004年11月28日(日)
ところ 奈良教育大学講堂 http://www.nara-edu.ac.jp/NUE/kotu.htm
(〒630-8528 奈良市高畑町,JR奈良駅・近鉄奈良駅よりいずれも市内循環バスにて約10分「高畑町 奈良教育大学前」下車すぐ)


司会
湯本貴和(総合地球環境学研究所)

9:30 開場
10:30 開会
村田源(森林再生支援センター) 開会の辞
松井淳(奈良教育大学) シンポジウムの趣旨説明

10:40〜12:00 セッション1 奈良の森で起こっていること
座長 村上興正(同志社大学)
演者
横田岳人(龍谷大学) 林床からササが消える稚樹が消える
岩本泉治(森と人のネットワーク・奈良) 大台大峰の山麓から
前迫ゆり(奈良佐保短期大学) 世界遺産春日山原始林の現状
コメンテーター 菅沼孝之

12:00〜13:00 昼食休憩

13:00〜14:40 セッション2 エゾシカの個体数変動と植生変化 30年間の追跡
座長 松井淳
演者
常田邦彦(自然環境研究センター) シカの増加と植生の変化はどう対応するのか
梶光一(北海道環境科学研究センター) エゾシカ管理30年間の実践
松田裕之(横浜国立大学) シカはどう増える・なぜ増える

14:40〜14:50 休憩

14:50〜16:00 セッション3 世界遺産屋久島の現状と取り組み
座長 湯本貴和(総合地球環境学研究所)
演者
矢原徹一(九州大学) すぐに囲わなければならないか
立澤史郎(北海道大学) 照葉樹林のシカたち
手塚賢至(ヤクタネゴヨウ調査隊) 屋久島の森から

15:50〜16:00 休憩

16:00〜17:00 パネルディスカッション
座長 松田裕之
パネラー
村上興正
矢原徹一
岩本仙治
手塚賢至
常田邦彦
梶光一
環境省


シカはどう増える・なぜ増える

松田裕之(横浜国立大学 matsuda@ynu.ac.jp)

 ニホンジカは体重が雄成獣で約80kg以上になるにもかかわらず,多くは1.5歳で成熟し,2歳から毎年ほぼ1頭ずつ子どもを生む.雌雄1:1として,娘を産む率(繁殖率)は毎年ほぼ0.5個体とみてよい.雌成獣の死亡率はかなり低い.増加率は年率で15%から20%くらいだろう.消費者金融の利率上限よりは低いが,かなりの高利である.
 生物は,借金と違って,過密になると増加率が落ちる.生物が利用する餌や住処などの資源は有限であり,無限に増え続けることはありえない.しかし,放置しても一定の個体数に落ち着くとは限らず,変動し続けることがある.宮城県の金華山や洞爺湖中島に棲むシカは大発生を起こすと多くの草を食いつくし,樹木の若芽を食べ,やがて餌がなくなって大量死を引き起こした.自然の調節に期待する前に,シカの大発生は人間の周囲の生態系を回復不能なほど改変してしまう.
 借金の返済と同じで,自然の個体数調節を待たずにシカの数を減らすのは,増える以上に捕獲する必要がある.借金が元金×利率で増えるように,個体数増加は個体数×増加率で増える.けれども,個体数は不確実である.ふつう,絶滅危惧種の個体数は少なめに見積もるが,シカを減らすには多めに推定し,それに見合うだけ捕獲しないと,不良債権と同じく,減らすことはできない.大発生を抑えるためには,大胆かつ1年でも早く捕獲する決意が必要である.また,雌を取らなければ一夫多妻のシカを減らすことはできない.
 個体数の自然変動は,他の生物でも知られている.マイワシは数十年単位で千倍以上に増減し,古くから自然変動することが知られている.サンゴを食べるオニヒトデは昔から局所的には大発生していたかもしれない.けれども,オニヒトデは現在では,深刻,頻繁かつ広域に大発生するようになり,サンゴ礁に深刻な影響を与えている.
 では,ニホンジカの大発生や大量死は自然現象だろうか?ある程度の変動は有史以前からあったかもしれないが,十分な証拠は得られていない.オニヒトデとサンゴ礁の関係と同様,現在のシカの大発生は森林や自然植生に対しても見過ごせない影響がでているといえるだろう.だとすれば,有史以前あるいは近代以前とは異なる,たとえば以下のような条件があって,自然変動が許容範囲を超えるようになってしまったといえる.
 @自然はもともと定常状態になく,シカは増減を繰り返してきた.人工物とは異なり,一定の方策で定常状態に誘導するという管理方策は,生態系には有効とはいえない.A造林・林道建設・草地拡大などを経た森林は原生林とは大きく異なり,シカが広域に大発生する条件がそろっている.B四半世紀ほど前までは森林は人が利用し,シカも捕獲され続けていた.C現在では森林に入る人が減り,狩猟が減ってシカは人を恐れなくなり,放置された森林は「シカの楽園」となっている.
 北海道では豪雪も大量死を引き起こした.捕食者であるオオカミの絶滅は,大発生の主たる原因とは考えられていない.狩猟は大発生を抑える上で有効だっただろう.年率15%で増えるなら,毎年,雌成獣の約2割を捕獲していれば,個体数増加を抑えることができるだろう.
 原生自然が残されていて,自然の遷移に任せるという大方針を定めた世界自然遺産候補地となった知床半島でも,シカが大発生し,個体数調整が必要という意見もある.屋久島は世界遺産に指定されたあと,捕獲が減ったと考えられ,近年はシカが大発生し,自然植生に甚大な影響を与えている.
 原生に近い生態系は,もともと有史以前から成り立っていたのであり,捕獲のみで問題が解決するとはいえない.しかし,手がついた自然を放置しても林道は残っており,少なくとも昔と同じ程度にシカを取り続けなければ,大発生に拍車がかかることだろう.