2004年度より,横浜国立大学大学院 環境情報研究院 に転任します.修士課程,博士課程の二次募集を行います.生態学を学んだ者,環境科学を学んだ者,数学や工学を学んだ者,いったん社会人となって再び学問を続けたい者のうち,下記に即した志をもつ者を歓迎します.
今流行のことをやっていても,君たちが学位を取る頃に下火になっていてはだめ.5年後の流行を予測しないといけない.それは,全く新たな課題ではなく,むしろ,今まで地道に続きながら,光が当たっていない課題のそばにある.未解決の問題とその答えへの展望を正しく見据える者だけが見ることができる夢である.具体的には以下の通り.これらを最先端で研究できるのは,私の研究室をおいて他にはない.私一人では体がいくつあっても足りないので,志ある者の参加を切望する.
私は数理生態学者だが,過去の私の院生はさまざまな研究室に修行に行き,さまざまな技術を身につけている.私が共同研究を進めるには,多角的に物事を学ぶ院生が欠かせない.
大学院生を募集しています。
独自の研究課題を考える学生は、その課題を尊重します。その場合、数理的考え方や論文のまとめ方は助言できますが、野外調査や実験計画については別の方の助言を求めてください。
私が用意する研究課題を希望される場合、「私の研究」「私の主張」をご覧ください。以下のような課題があります(2003年3月現在)
1)生態系管理の理論
私が参画して1998年から始まったエゾシカ保護管理計画。当初こそ環境団体の反対があったが、日本の改正鳥獣保護法の特定計画制度のさきがけとなり、ここで用いた順応的管理は、いまや日本の環境団体が強く支持する政策となり、生態系管理における日本の原則となった。
しかし、本当に順応的管理はうまくいくのか?うまくいかない場合もあるのではないか?
本来、エゾシカ管理計画は国際捕鯨委員会(IWC)で合意されたフィードバック管理を応用したものである。今後、さまざまな資源や生態系に応用するための課題が山積している。
石西礁湖のサンゴ被度変遷モデル、キューバのタイマイをはじめとするウミガメ類の順応的管理など
2)絶滅危惧生物の絶滅リスク評価
私が提案した計算機プログラムによって判定された植物レッドリストは、もうすぐ見直しの時期が来る。あの判定方法は妥当だったか?改良の余地はないか?
3)資源回復計画の理論
1996年にIUCN(国際自然保護連合)がミナミマグロを絶滅危惧種にしてから、レッドリストの判定基準そのものの見直しが行われた。その後、ミナミマグロは国際管理によって減少が止まり、回復に転じている。しかし、今の管理で順調に回復するとはいえない。それはなぜか?それと同じことが、いろんな資源で現実に起きている。
ミナミマグロの資源回復計画(齢構成模型)
セタシジミの資源回復計画(体長組成模型)
4)漁業管理規則の理論
水産庁では、水産資源の評価を通じて許容漁獲量を定める規則を決めている。これは、いわゆる最大持続生産量(MSY)理論に基づくものである。しかし、MSY理論は本当に役に立つのか?現実のデータと、順応的管理と予防原則に根ざした、もっと現実的実践的な管理規則が必要ではないか?特に、資源状態のわからない資源に対して、[わからないなりの管理規則」の構築が求められている。
5)環境汚染とリスク評価
ホルモンかく乱物質が水産資源や海獣に与える影響評価
これは最後の[予防原則の見直し]とも関係する。人間の健康に与えるリスクと、生態系に与えるリスクを同じものさしで計ってよいのか?違うとすれば、どう考えるべきか?現在の政策には、実は、根本的な原理がみえない。
さらに、化学物質の曝露は、毒性が強いほど、急激な耐性の進化を引き起こす。誰もこのことを直視していない。耐性が進化すれば、生物は思ったほどには絶滅しないことになる。では気にしなくてよいのか?規制すべき論拠は何か?
6)個体群生態学:(→資源管理も参照)
私が1991年に提唱したマイワシなど浮魚類の3すくみ説。予想通りカタクチイワシの天下が続いたが、そろそろマサバの復活のときだ。復活するとき、何がおきるか。それはどんな理論によって説明できるか?
海洋生物資源の個体数変動機構
7)群集生態学
タンガニーカ湖と琵琶湖における右利きと左利きの襲い分けによる共存(京大の堀道雄氏との共同研究)。これはいわゆる変動非対称性(fluctuating
asymmetry)ではなく、右利きと左利きが頻度依存淘汰によって維持される分断非対称性(antisymmetry)であることがわかってきた。しかも、1種だけでなく、生物群集全体が連動しているという驚くべき指摘がある。他の専門家が信じられないような突拍子もない仮説ほど、魅力があるものだ。群集丸ごと左右性のあるダイナミクスの進化と維持機構を、進化ゲームから進化力学を先駆けて提唱した私とともに、数理モデルで考えてみよう。
生態系管理の説明も参考にして下さい。
8)異型配偶の進化(千葉大の富樫辰也氏との共同研究)
異型配偶は、進化力学(同形配偶の収束不安定性)を考えて説明できる。ところが、緑藻類では少しだけ大きさの違う異型配偶がたくさん見られる。それはなぜか?考えてみよう。
9)予防原則の見直し!
1992年地球サミットで合意されて以来、環境問題では科学的実証を待たずに対策を立てる予防原則が幅を利かせている。しかし、本当に実証なくしてよいのか?他に代わる原則はないのか?また、現在の環境政策が、予防原則を本当に必要なところに適用しているのか?
予備知識。特に制限はありません。上記のホーム頁を参考にして下さい。また、私が行っている講義を参考にして下さい。
私が関わっている上記の問題の中には、社会的にも重要なものがあります。博士や修士課程だけでなく、卒業研究でもそれに答える研究を行うことは可能です。たいせつなのは、問題の本質をつかみ、多方面の意見を尋ね、明快な数理的研究を行って具体的に提言することです。多くの学生、研究者の助けを必要としています。
学生にやる気があり、使命感と能力があれば、研究は進みます。学生が優秀ならば、教官は安心して社会に提言する時間的ゆとりができます。たとえ学生たちが直接社会に提言する研究をしなくても、学生たちが私の社会活動を支えているのです。
インターネット時代になって、ウェブサイトを見てたずねてくる学生が増えました。ときには、「なぜ私の研究室を訪ねたか?」動機がわからない人もいます。大学院に進学する際、どんな研究室を選んだらよいか、私の評価基準を紹介します。
流行している分野や単語(たとえば、進化、環境リスク、保全、管理など)のうち、自分の気に入った単語をウェブで検索しても、本当にやりたい研究ができるかどうかわかりません。あなた自身、自分のやりたいことがわかっていない場合が多いのです。流行を追うなら、今の流行より、あなたが学位をとる5年後に盛んになる分野を選ぶべきです。研究室を訪ねたら、その展望を聞くべきでしょう。そして、自分がやりたいと思っていたこととあっているか、考えてみましょう。
社会に役に立つ研究もたいせつですが、まず、それを好きになれるかどうか、面白いと思うかどうかが先決です。すきになれない研究は、役に立つとしても、長続きしないでしょう。
研究室の活躍ぶりを調べるには、まず(英語の)論文リストを見ればよい.論文リストがない教官,査読付原著論文数の少ない教官の下にいても,これから評価を受ける院生が研究者になることはできない。教官のリストだけでなく、研究室のサイトも覗いてみて、助手や大学院生などの論文リストもみるべきです。
すべて教授・助教授との共著になっている研究室では、独立した研究はやりにくいかもしれません。
学生の人数も重要です。人数があまりに少ない研究室は、何か原因があるはずです。人数があまりに多い研究室は、先輩後輩の間で指導が行き届かなければ、教官の指導は徹底できません。新しい教官にとって重要なのは、最初の学生を育てることです。
単刀直入に、そこに所属している大学院生にメールや電話をして尋ねてみればよいでしょう。