自然再生・生態系管理の30原則(案)
松田裕之 2004年 更新
自然再生事業を進める目的は,以下の通りである.
- (1) 自然の資源を持続可能な水準に回復させる(持続可能性).
- (2) 生態系の成り立ち(構成要素)を復元・回復させる.
- (3) 生態系の仕組みを復元・回復させる.
- (4) 生態系の営みを復元・回復させる.
- (5) 事業対象地域の生態系と外との健全な関係を復元・回復させる.
- (6) 人と自然との持続的なかかわりを回復させる.
この目的を達成するため,以下の諸原則が必要である.
- (7) 放置したときの将来を予測する.
- (8) 放置できないとすれば,放置できない原因を明らかにする.
- (9) 本来の生態系の成り立ちと仕組みと営みを理解する.
- (10) 復元すべき生態系の姿,回復すべき時代を明らかにする.
- (11) 自然の復元力を活かし,必要最低限の人為を加える(受動的復元の原則).
- (12) さまざまな科学分野の研究者の技術と知見を集める.
- (13) 実現可能な目標に絞って計画を作る.
- (14) 将来,地域と生態系が自立し,事業を削減,不要になるようにする.
- (15) できる限り,その地域の生物を用いる(風土性の原則).
- (16) その地域の多様性(成り立ち)を復元・回復させる(多様性の原則).
- (17) その種の遺伝的変異性の維持に十分に配慮する(変異性の原則).
- (18) 自然,伝統,生物工学的な技術や制度を尊重する.
- (19) 科学的証拠が不十分であっても,不可逆的な打撃を与える恐れがある行為を避けるべきである(予防原則).
- (20) たえず状態を監視し,変化に応じて管理計画を見直す(順応性).
- (21) 管理自身によってその仮説を実験的に検証する(実験としての管理).
- (22) 明確で,達成可能で具体的な数値目標を定める.
- (23) 計画を実行したときの将来を反証可能な形で予見する.
- (24) 将来予測の不確実性の範囲を示し,リスクの評価と管理を行う.
- (25) 継続調査し,失敗したとき後戻りできないような計画は避ける.
- (26) 計画の前提に誤りがあれば,中止を含めて速やかに是正する(説明責任).
このような計画は,以下のような手続きと体制によって進めるべきである.
- (27) 事業計画の立案段階から地域協議会で合意をはかる(市民参加).
- (28) 多様な主体の相互理解と協働を目指す.
- (29) 持続的利用のためにかつて存在した産業を復元する.
- (30) 環境教育の実践を含む計画をつくる.
参考文献(*は原著未見)
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