生物・生態環境リスクマネジメント手続きの基本形(案)

横浜国立大学21世紀COE「生物・生態環境リスクマネジメント拠点」 理念・方法作業部会

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手続きの基本形  用語集(工事中)

手続きの基本形(案)

リスクマネジメント手続きの基本形(案)

社会的合意形成 科学的手続き
@社会的要請・科学的問題提起
A利害関係者と管理範囲の列挙
B協議会・科学委員会などの設置
C守るべき事象の科学的整理
D定量的評価指標の列挙
E影響因子の分析・モデル構築
F放置した場合のリスク評価
Gマネジメントの必要性と目的の合意
H数値目標の仮設定
Iモニタリング項目の決定
J制御可能項目・手法の選定
K目標達成の実現性の評価
Lリスクマネジメント計画の合意
数値目標の決定
Mマネジメントの実施とモニタリング
N目的・目標の達成度の評価
計画の見直し

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3.1. リスクマネジメントの流れ

 本COEで扱う生物・生態環境リスクマネジメントは、地域環境の保全などを念頭に検討されたものであり、地球温暖化対策のように地球規模での環境政策を直接対象としていない。前者は地域社会の合意によって実施した管理方策が地域環境に直接効果を及ぼすと期待される。また、多くの事業計画に対する環境影響評価のように、新たに環境に負荷をかけるものの評価ではなく、たとえば自然再生事業のように、既に損なわれたか、損なわれる恐れのある自然を保全する際に適用されることを想定している。ただし、指針の多くの部分はこれらの環境政策にも参考になるだろう。
 
生物・生態環境リスクマネジメントの方法は,いわゆる環境リスクマネジメントの方法と,生態系管理の方法を併せ持つことになる.すなわち,以下のような手順になるであろう(図 1).
 図 1では、G「マネジメント目的の合意」の前に、放置した場合に何が起きるかを明らかにするため、F「放置した場合のリスク評価」を行うことを推奨している。リスク評価を行うには、C「守るべき事象の科学的整理」、D「定量的評価指標の列挙」およびE「影響因子の分析・モデル構築」が不可欠である。けれども、これを目的の合意の前に行うことが定着しているわけではない。管理を実施したときにも必ず成功するとは限らず、その意味では上記のK「目標達成の実現性の評価」においても、「管理した場合のリスク評価」を行うことになる。その上で、実現可能な数値目標と管理の実施計画を科学的に提案し、社会の合意を図ることになる。
 いずれにしても、図 1に示した流れは基本形であり、実際の状況に応じて、リスクマネジメントは柔軟に計画され、実施される。確立しているのは、第一にC「守るべき事象の科学的整理」、D「定量的評価指標の列挙」およびE「影響因子の分析・モデル構築」というリスク評価の一連の手順であり、第二に目的の合意、マネジメント計画と数値目標の合意という少なくとも2つの段階で利害関係者による社会的合意を得ることであり、第三にマネジメントを実施し、モニタリング結果を見て計画を見直す順応的な手続きを含むことである。

社会的要請・科学的問題提起

 リスクマネジメントを行う対象は,何らかの社会的な要請によるものか,科学者がその必要性を主張することによって社会問題化する.ニホンジカが増えすぎて農林業被害が増えるような場合は社会の要請によるものであり,船底塗料に使われたトリブチルスズによって巻貝類が雄化することが科学者によって発見されたような場合は科学者の指摘による.
 これらの問題提起が、そのまま社会に注目され、リスクマネジメントの対象となるとは限らない。予備的なリスク評価を行った結果、特に対策をとる必要がないと判断される場合もあるだろう。これをスクリーニング(篩い分け)と呼ぶ。実際に大きな事件が起きてから対策をとる場合とそれを予兆させる事件が大きく報道されるなどが、その契機となると考えられる。いずれにしても、報道機関が果たす影響力はたいへん大きい。問題提起が取り上げられるに至る経緯はさまざまであり、今後、各事例を別の機会に紹介する。

利害関係者と管理範囲の列挙 

  リスクマネジメントを行う場合,次に,その問題に関わる利害関係者 を列挙する.また,どの範囲で問題に取り組むかを定める.これは環境影響評価におけるスコーピングに相当する。環境問題は相互に関係しているから,深く捉えれば利害関係者は際限なく広がることだろう.おおむね広く捉えるほど,問題の現実的な解決を困難にするおそれがある.問題を限定すれば利害関係者を狭く捉えることもできるが,除外された人々から反発を招く場合もある.現実的に対処できる範囲で,合意形成に加わる利害関係者の範囲をできるだけ広く捉えることが望ましい.ただし、その後も必要に応じて利害関係者を加えてもよい。情報開示を早い段階で行い、利害関係者に参画の機会を確保することも重要である。要は、合意形成を安易にやり直す事態を避け、着実に信頼関係を築き上げることが重要である。
 特に利害関係者の間で深刻な対立が起きないときは,本節で示す手順すべてを逐一実行する必要はないだろう.これらの手続きは,不確実性に対し十分に備えるために有効な手段であるとともに,利害関係者間の対立を合理的に解決するために必要な手段である.また,これは環境影響評価法の基本的事項,自然再生推進法の基本方針,ならびに気候変動枠組み条約などの国際条約に見られる枠組み条約方式と対応付けることができる.さらに,複雑系に対処する手段に普遍的に見られる方法にも通じる.

協議会・科学委員会などの設置 

 その上で,利害関係者の公開の意思決定機関(以下「協議会」 と呼ぶ)および利害関係者が合意する科学者の助言組織(以下「科学委員会」 )を設け,管理計画の策定,管理実施後のモニタリング結果の解析,管理計画の見直し,意見紹介手続きで指摘された意見に対する事業者側の見解への助言などを行う必要がある.その際には,管理事業の目的や内容等を明示し,地域および外部の利害関係者,関係行政機関,有識者,環境団体などに広く参加をよびかけ,「幅広くかつ公平な参加の機会を確保すること」(2003年の環境省「自然再生基本方針」)が重要である.協議会が管理計画を立案,決定,監視,改正を行う責任を負う.その決定は全会一致を原則とするが,国際交渉の場では,さまざまな規約がもうけられていることがある.すなわち,委員の発言の自由の確保,重要案件の成立要件(たとえば3/4以上の賛成)および留保の権利などが明記されている.科学委員会と協議会の議事録は公表し,資料は原則として公表すべきである.また,インターネットなどを活用して閲覧希望者の利便性を高めることができる.このような情報開示と意見紹介の機会を通じて、透明性を確保することが重要である。
 これらは,合意した上での管理計画の実施を円滑にするための手段である.

守るべき事象の科学的整理 

 守るべき事象は、社会的要請のみから決められるものではない。たとえばシカが増えすぎて畑の農作物を食べ、森林の樹木の樹皮を剥ぐなどの被害が出るとき、社会的には農林業被害が問題になる。他方、シカは生態系の一員であり、単に駆除すればよいというものではない。科学者ならびに一般市民も含めて、起きている社会的問題の背景を明らかにし、「もぐらたたき」の弊害を未然に防ぎ、総合的な解決策を考える必要がある。そのためには、守るべき事象を科学的に整理する必要がある。
 リスクを確率的に表現する場合には、守るべき事象が実際に守られたかどうかが客観的に判断できるように事象を明確に定義する必要がある

定量的評価指標の列挙 

 その目的を達成し,特定した問題に対処するため,守るべき事象の状態もしくは確率論的リスクを客観的に評価できる指標を明確にする.「生物多様性」が「守るべき事象」だとすれば、その評価指標として、たとえばオオワシの個体数などを設定する。評価指標は一つとは限らない.むしろ,想定されるさまざまな評価指標を列挙することにより,事前にさまざまな対策を考慮することができる.

影響因子の分析とモデル構築 

 守るべき事象はさまざまな影響因子にさらされている。この影響因子を分析し,その対策を考える.たとえば,個体群の絶滅をもたらす要因には,生息地改変,乱獲,環境汚染,外来種侵入などが考えられる.さらに,乱獲にも直接その生物を漁獲対象とする漁業のほか,他の生物を対象とした漁業による混獲,無用のものとして海上で捨てられる投棄が複合的に絡んでくることがある.これらの要因により、評価指標がどのように変化するかを予測する。その予測は、通常、不確実性を伴う。不確実性を考慮した予測のための数理モデルを構築すれば、定量的評価指標の将来を予測できる。
 影響因子には、管理主体によって制御できるもの、すぐには制御困難なもの、制御不可能なものがある。これらを区別する必要がある。

放置した場合のリスク評価 

 対策をとらない(放置した)場合のリスクを評価する.これにより、対策を立てない場合に守るべき事象が損なわれるリスクを評価する.この場合の「放置」が具体的にどのような状況を指すかは場合により異なる。

マネジメントの必要性と目的の合意 

 これらのリスクの実態がある程度明らかになった時点で、リスクマネジメントの必要性が認識され、その目的について社会的に合意する。目的の合意は、問題の所在が明らかになった時点で、具体的な方策を定める前に行うことが望ましい。具体的な方策を定めると、それぞれの利害関係者の利害があからさまに見えてきて、全体の目的とは別の利害によって、目的がゆがめられる可能性がある。
 具体的な方策を決めるときには改めて合意を求めるとしても、管理目的自身が目先の利益によって左右される状況は好ましくない。ただし、この時点で合意することは、管理の理念や目的など、抽象的な内容であり、原則としてすべての利害関係者が合意すべき内容に限られる。
 目的は,たとえば「生物多様性の保全」などのように抽象的な理念でよい.できるだけ多くの利害関係者が意できる内容を確認することに意味がある.これは,将来,管理事業においてあきらかにこの目的に沿わない事態が生じた場合,管理計画を見直す根拠となる.先の例では、単にシカの農林業被害を防ぐという管理目的を掲げるだけよりも、総合的な視点で問題解決に当たることができるだろう。
 建設的な議論を行うために、多様な価値観をもつ利害関係者の存在を前提とした上で、二項対立を避け、より多くの関係者が納得できる解を見出す姿勢が必要である。生態系は開放系であるから、より広域を視野に入れたマネジメント計画が必要だが、同時に、地域で解決できる問題に絞ることも重要である。すなわち、「地球規模で考え、地域で活動する(Think globally, act locally)」姿勢が推奨される。

数値目標の仮設定 

 放置できないことを合意したことを受け、マネジメントの目的に即した、将来客観的に成否が判断できる数値目標を定め、それを検証するためのモニタリング項目と、それを実現する管理政策を定める。数値目標は、期限を決めて定める。たとえばミナミマグロの資源回復計画では1980年代末に、「2020年までに1980年の資源量水準に回復する」という数値目標で合意した。資源量水準の推定値に不確実性があるため、たとえば成魚300万尾などと絶対数による合意ではなく、1980年水準というように、将来の推定手法の改良に際しても揺るがない目標を定めている。また、遠すぎる将来の目標ではなく、数年ごとの見直しが可能な近未来の目標を立てることが有効である。
 設定した数値目標が妥当かどうかは、下記の一連の手続きにより、実行可能な管理計画の下でその数値目標を達成するリスク評価と費用対効果を含めた実現性を吟味する必要がある。そのため、数値目標を仮に設定し、実現可能性を確認する必要がある。
 数値目標を達成するまでの年数はさまざまであり、数日間から100年後まで考えられる。ただし、後で述べる達成度の評価と計画の見直しは定期的に行う必要がある。たとえば、毎年あるいは数年ごとに達成度を評価する。毎年の評価によって方策を調整する必要がある事態は、事前に想定してフィードバックできるようにもとの計画に盛り込んでおくことが望ましい。しかし、最初の計画にない事態も想定されるため、数年ごとに計画の見直しも含めた評価を行い、より長期の目標の実現可能性を高めるよう勉めるべきである。

モニタリング項目の決定 

 将来モニタリングを行う中で,将来の状態変化をどの手法で評価するかをあらかじめ決めておくことが望ましい.たとえばある生物の個体数がある水準を上回るという数値目標を定めても,個体数を直接観測するのでない限り,個体数の推定手法を合意しておかなければ,将来,個体数の推定値を合意できないおそれがある.これは,利害関係者どうしが深刻に対立している場合には特に必要になることがある.
 リスク評価は,必ずしも科学的に実証された前提のみに基づいて行われるわけではない.過去に前例のない事態が起こるリスクは,評価手法の前提次第で大きく変わることがある.このような場合には,用いた前提を科学委員会で十分議論し,異論があるときには両論を併記して複数の前提で評価する.そして,モニタリングの結果を見て前提を見直すことを,順応的学習 という.科学的な作業仮説の見直し方法と同じく,どのような結果が得られたらどのように見直すかも含めて事前に定めておくことが望ましい.

制御可能項目・手法の選定 

 数値目標を定めたら、それを達成するために必要な管理方策を科学的現実的に立案する必要がある.リスクの影響因子には、管理主体が制御可能なものと、そうでないものがある。また、リスク評価の社会的周知により、社会の合意によって初めて実行可能な手段もある。数値目標達成のために必要な管理手法を選定する。リスクの評価手法は,必ずしも既成の手法にとらわれることなく,マネジメントの目的,評価指標,数値目標により,自由に決めてよい.しかし,その手法の科学的妥当性を客観的で科学的な外部評価を経て十分吟味し,科学的成果を公表し、公開の科学委員会の合意を経て意見提出手続きによる住民参画(後述)を図るべきである.

目標達成の実現性の評価 

 管理計画には不確実性が伴うため、その数値目標がつねに達成できるとは限らない。あるいは、その達成が現実的にきわめて困難なこともあるだろう.これは、ある政策を実施した場合のリスク評価に該当する。達成が困難な場合には,困難であることの根拠を示し,仮に設定した数値目標の見直しが必要である.すなわち,計画を実施する前に,目標達成の実現性(feasibility)を評価する必要がある.その評価には,経済的社会的制約も含まれる.実現困難な場合には、具体的目標の仮設定を変更するなど計画を練り直す。
 将来のモニタリングから意思決定手続きまでの実現可能性や問題点を検討するために、運用モデル という数理モデルを用いることもある.これらいずれかにより,さまざまな管理方策のもとでのリスクを評価できるようになる.
 このようにして、リスクマネジメントは「モニタリング」と「リスク評価手法」と「数値目標 」とそれを達成するための「管理方策」を定めることによって実行される.
 不確実性が大きい状況でのリスクの大きさは,一度決めた管理方策をその後のモニタリング結果に関わらず実施した場合,かなり大きくなる.しかし,モニタリングの状況に応じて将来も柔軟に管理方策を変えれば,深刻な事態に陥る前に保全策をとることができ,リスクを大幅に減らすことができる.このような管理を「フィードバック制御」と言う.また、リスク評価に用いた未実証の前提を、管理計画の実施後のモニタリングによって絶えず検証し、見直す(順応的学習)ことが必要である。すなわち、順応的管理により、リスクを減らすことができると期待される。

リスクマネジメント手法の合意と数値目標の決定 

 マネジメント計画・数値目標の設定などを含むマネジメント手法は、科学者だけで決めるものではなく、社会的に合意されるものである。したがって、科学委員会は、複数の手法を準備するなど、協議会の意思を反映できるようにし、協議会と科学委員会で互いにマネジメント計画を洗練させるべきである。
 このような管理計画,リスク評価とリスクマネジメントの方法を科学委員会と協議会で合意した後,管理を実施する前に,その管理計画を公表し,利害関係者だけでなく,一般市民を含めて意見提出手続きを行い,利害関係者の意見を踏まえて合意形成を図る必要がある.この手続きは段階的に行い,たとえば目的を定めて合意し,その後で目標を定めて合意し,さらにその後で管理計画案全体を定めて合意を図ってもよい.このように節目節目で住民参画を行い、合意形成を図るほうが,結果を見てから合意を図るよりも円滑に進む場合が多い.合意が難しいときほど,小刻みに合意形成を繰り返すことが望ましい.小刻みに合意するほど,互恵的な協力関係を築くことが容易になる.合意無しで先に進むと,いつまでも合意前の段階に遡って議論が蒸し返されるおそれが高い.
 合意できない場合,数値目標を含めた管理計画を再検討する必要がある。こうして、科学的に実行可能で、社会的に合意できるマネジメント計画を立案するまで、この作業を繰り返すことになる。

マネジメントの実施とモニタリング 

 管理計画を実施し,モニタリングを続ける中で,リスク評価に用いた未実証の前提の妥当性を検証することが必要である.すなわち,管理の実施それ自身が仮説検証実験となる.結果次第で迅速に前提を変え,リスク評価手法を見直し,必要なら管理計画そのものを改めるべきである.これは管理実施者の説明責任である.

目的・目標の達成度の評価 

 このように,用いた前提を実証しつつ管理を実行することが望ましい.実証がどこまでできるかはさまざまで,他の仮説を排除して正しいことを証明することができる場合(検証可能性)と,ある事態が出現すればその前提が誤りであることがわかるが,予想の範囲内の事態でも他の仮説を排除できない場合(反証可能性)がある.
 順応的管理においては,モニタリングが必須である.調査項目は事前の評価手法で定めるが,場合によっては調査の実施方法や担い手についても合意が必要であり,調査自身の相互監視も必要になることがある.
 計画を実施する中で、数値目標が実現可能かどうか、初期の目的に反する想定外の問題点が生じていないかを検証する。数値目標が満たされていても、明らかに管理目的自身に照らして成功とはいえない問題が生じた場合には、成功とはいえない。

マネジメント計画の見直し 

 管理を実施して評価をした結果,管理計画の想定外の事態がおきたとき,その原因を分析し,それを事前に想定できなかったかどうかを顧みた上で,必要ならば管理計画の見直しを図る.そのためには,モニタリングと管理計画への関心が持続することがたいせつである.大きな見直しを行う際には,原則としてあらたに作るのと同じ合意形成の手続きをやり直す.対立が予想される場合には,環境影響評価法のように,どのような場合に合意形成をやり直すかをあらかじめ決めておくべきである.
 管理計画は必ずしも永久に続けるものではない.数年単位で見直しを図り,所期の目的を達成もしくは失敗したらいったん解散し,あらたな問題に利害関係者の努力を向けることも考えられる.逆に、目標を達成した場合にはさらに高い目標を設定し、管理計画を見直すことも可能であろう。また,利害関係者の日常活動と一体のものとなり,経済的にも自立した活動の一環として管理を実施していくこともあるだろう.


 以上、リスクマネジメント手続きの基本となる流れを説明した。抽象的な目的,検証可能な数値目標,それを実行する管理計画と3段階に分け,それぞれを合意した後で次の段階に進むことで,合意形成を円滑に進めやすくなる.深刻な対立がある場合には,利害関係者(特に事業者)は,しばしば結論を決めてから論争に望む.しかし,抽象的な「目的」の段階で相手の非を明確にすることは難しい.一方的に席を蹴ることはできるが,相手の非を明確にしてから席を蹴るのに比べて,その行動は世論の支持を得られにくいだろう.このように,具体的な規制措置や基準,資金分担などについて定めずに目的について合意し,その後で具体的な実施方法や基準や計画を定めていく合意形成の方法は,気候変動枠組み条約や生物多様性条約などでも行われ,枠組形式と呼ばれる.これらの国際条約では,目的は条約で採択され,実施計画は議定書などで定めている.
 このような合意形成の手順は,利害関係者の中に計画の中止のみを求める者がいるときには難しい.しかし,その場合でも,理不尽な形で席を立てば,残りの関係者で合意を図ることができるだろう.その是非を決めるものは,結局は世論である.理不尽な理由で決裂すれば,決裂した側が世論によって批判されるであろう.したがって,初期の理念を決める段階では容易に決裂はしないだろう.目的を合意したあとで数値目標や実施計画で合意を拒むなら、拒む側が実現可能な対案を示す道義的義務が生じる。したがって,合意形成の努力を図ることがすべての利害関係者に求められることが期待できるであろう.それぞれの対案は、科学委員会によって実現可能性や問題点が吟味され、その結果をもとに協議会が議論する。科学委員会が実現困難と答申した管理を実施しても、後でその計画の見通しの甘さが明らかになれば,強引に管理を実施した側の責任が問われることになる.
 いずれにしても,現在では,情報公開法の施行,1998年に閣議決定された意見提出手続き(パブリックコメント)制度の定着など,市民が直接意見を述べる機会が確保されるようになりつつある.後者は,行政施策に対する住民の多様な意見を反映する機会を確保し,施策を形成する過程の一層の透明化を図り,行政の説明責任をまっとうするためのものと言われる.インターネットなど新しい情報媒体の普及とともに文書公開が技術的に手軽になったことも,意見紹介手続きの普及に役立ったと思われる.自然保護についての目的や評価基準の設け方に任意性があるとすれば,このような合意形成の手続きはいっそう重要である.
 いったん決めた内容を改める場合は,再び方法書段階などに戻って合意形成をやり直す必要がある.環境影響評価法では,この手続きが「環境影響評価に係る基本的事項」および「施工令」によって詳細に定められている.図 1には記していないが,利害関係者を新たに加える場合は,本来これに相当し,マネジメント目的に戻って合意をやり直す必要がある.
 環境影響評価では,利害関係者の協議会に相当するものとして,住民説明会とパブリックコメント,および関係行政機関(省庁,地方自治体)の意見を求める.図 1に準じて,マネジメント目的に相当する方法書とマネジメント手法に相当する準備書の2段階でパブリックコメントを行い,合意形成を図っている.


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