NHKクローズアップ現代「魚が消える?環境にやさしい漁業をめざす」 2007.7.23

論点:日本はかつては世界一の漁獲量を誇り、現在でも世界一の水産物輸入量をもつ漁業国家である。しかし、中国を始めとする途上国での水産物消費の増加、欧米での魚食の流行により、世界の水産物需給はひっ迫してきた。また、高級魚については世界的な乱獲がすすみ、ワシントン条約で規制される魚種も増え続けることだろう。もはや、日本は魚を独占できない時代になりつつある。
 その中で、今まで通りの不完全な管理漁業を続けることでは、より安い、より管理された輸入品に押されて、日本の漁業は生き残れない。今のうちに、より厳しい管理漁業を確立し、環境にやさしい漁業を旗印に、海外から乱獲された水産物の輸入を制限する必要がある。私たち消費者もまた、輸入・流通業者に働きかけ、健康と環境にやさしい魚食文化を世界に訴え、環境にやさしい水産物を選ぶ目を持つ必要がある。世界一の水産消費国だからこそ、世界の海の生態系を守ることができるのだ。

(以下は私が事前に準備した「台本」だが、生放送で指摘できなかった部分(斜体)が多々ある。

○スタジオには生態系の管理がご専門で、水産学にも大変お詳しい 横浜国立大学松田裕之(まつだ・ひろゆき)さんにお越し頂きました。
○いままでワシントン条約といえば、アフリカ象やパンダなど、貴重な野生生物の話だと思っていたが、その規制にウナギが入るというのは、意外な印象だが?
●激減したウナギは絶滅危惧種の掲載基準を満たしています。海の魚だけ特別とは言えません。むしろアフリカ象は現在では十分利用可能です。持続可能な利用を促すFAO(国連食糧農業機関)はワシントン条約事務局と掲載種に関して協議するという覚書があり、サメなどでは両者の意見が違いますが、ウナギについてはFAOも掲載に賛成しています
●ニホンウナギも激減していますが、ヨーロッパウナギが出回って値上がりせず、生産者を追い詰めている側面があります。これに対してはワシントン条約で規制したほうがウナギ漁業のためにも有効でしょう。ファーストフードでウナギを食べるのは難しいかもしれませんが、土用丑の日に食べる分は、十分確保できると思います。
海の生物は漁業者だけのものではありません。生態系がもたらす経済価値のうちで、農林水産業がもたらす価値はごく一部であるというのが最近の生態学と環境経済学の定説です。今後もワシントン条約で規制される魚は増え続けるでしょう。
○もうひとつ、海のエコラベルという取り組みについては?
●大変良いことだと期待しています。ワシントン条約は国際機関が行うものですが、MSCは消費者が選ぶことによって漁業管理を促すものです。両方組み合わせることで、よりきめ細かく、海の資源を守ることができるでしょう
●ただし、MSCは認証に費用がかかるので、実績の少ない、あるいは小規模の漁業者では実行できないでしょう。まじめに貧しくやっている地産地消の漁業を消費者が支援する仕組みが必要です。
○日本の漁業者ではまだ参加がないということだが?
●京都のズワイガニ漁業が審査を受けていると聞いています。ここは海洋保護区を設けて資源管理に成功した日本では数少ない例です。
・・・・
○日本はどうすればよいのか?
総量規制は国連海洋法条約から始まったもので、網目を大きくして子供を取らないような規制は、日本では古代から知られていました。むしろ近代漁業がそれを忘れています。ある年に補助金を出して漁獲を制限しても、翌年からはまた根こそぎ取っている。1年間補助金を出す代わりに、翌年からは1歳魚以上だけを取らせるようにすればよい。補助金を出すにしても工夫が必要です
○ノルウェーは割当制度などで劇的な変化。
●私も沖合や遠洋漁業については、ノルウェーのように割当制度が有効だと思います。しかし、これを沿岸漁業に適用するには、自由参入を認めない日本の漁業権制度そのものを見直さねばなりません。ビデオにあったように、この制度は性悪説に基づいた徹底した監視が必要です。欧米以外の世界の国では政府でなく、漁業者が相互に監視しながら自主管理してきました。欧米でもそのほうが有効ではないかという意見があります。来年、横浜で世界水産学会議を開きますが、その場でも漁業権制度を議論する予定です。

○ただ遠洋漁業で取り入れるにも、周辺国との調整など、難問も多そうだが?
放っておいても新興国が参入してくるのですから、むしろ日本が、持続可能性を旗印にして、国際管理を積極的に提案しなくてはいけない。環境外交問題は、逃げ腰ではだめなんです

○日本は世界で獲られている漁獲量の1割近くを消費している。その責任は重大。
●日本が消費大国であるということは、逆に言えば日本が変われば世界の漁業と海洋生態系も守ることができるということです。日本の漁業制度のよい面、世界一の長寿国である日本の魚食文化のよい面を説明していけば、リーダーシップを発揮できる立場にあります
 日本の漁業制度の特長を生かしつつ、欧米の管理制度を見習い、加工流通業者や消費者、環境団体が協力していけば、海に囲まれた日本の漁業資源をたくさん利用することができ、自給率も上がるでしょう。むしろ諸外国より厳しい管理をして、日本の沿岸漁業を見習ってもらえば、事態は好転すると思います。

補足