共催:横浜国立大学グローバルCOE「アジア視点の国際生態リスクマネジメント」
企画者:松田裕之(横浜国大)、仲岡雅裕(北海道大)、堀正和(水産総合研究センター)
Convenors: Hiroyuki Matsuda (Yokohama National University),Masahiro Nakaoka
(Hokkaido University), Masakazu Hori (National Research Institute of Fisheries
and Environment of Inland Sea)
キーワード:生態系管理、個体群管理、空間解析、種間関係、生態系機能、保護区設計、生態リスク Keywords:ecosystem management,
population management, spatial analysis, species interaction, ecosystem
function, reserve design, ecological risk
趣旨:環境変動や外来種侵入など人間活動が生態系に及ぼす影響が深刻化する現在では,その影響を明らかにすること,その影響によって失われた自然を再生すること,残された自然を保全すること,あるいは有用な生物資源を持続的に利用するために管理していくことが生態学において重要なテーマとなっている.近年の景観・空間生態学の進歩は,膨大な地理的情報を扱うことを可能にし,地理的な空間構造の解析から個体群配置や景観利用が推定できるようになった.この空間解析の発展により,具体的な生態系機能とサービスがより評価しやすくなり,より実践的な資源管理や自然再生・保全が行われつつある.また,管理は必ず不確実性を伴うため、失敗するリスクを定評価し、そのリスクを実行可能な範囲で下げるようなリスク管理を行う必要がある。このシンポジウムでは,資源管理,空間解析,種間相互作用,生態系機能とサービスをキーワードに海・陸双方の精力的な研究を紹介し,リスク評価と管理,その活用について参加者と議論を行いたいと考えている.
プログラム案
タイトル:生態系機能の広域評価に基づく瀬戸内海のアマモ場再生プラン
講演者(所属):堀 正和(水産総合研究センター)
要旨/Abstract: 大型海藻や海草類が形成する藻場は,魚類をはじめ,様々な沿岸生物の重要な生息場所である.同時に,藻場が成立する海洋環境は人間活動にも好適なため,人為的影響により大規模な消滅・分断化が頻繁に生じる.そのため,様々な地域で藻場回復の取り組みが行われているが,その多くは生物群集と生態系機能の回復には至っていない.一因として,藻場内の多様性と生産性は単純に藻場内の要因だけで決まらないことがある.藻場の生物の多くは広域分散し,複数のハビタットを跨いで分布する.そのため,藻場を新たに移植するだけでは生物群集が形成されない.藻場の自然再生には,藻場の影響が及ぶ空間範囲や周囲のハビタットとの組み合わせなど,景観構造に関する解析も重要である.そこで演者達は瀬戸内海を対象に,GISによる藻場の長期変遷に関する解析,魚類の分布と景観構造の関係解析を行い,生物生産機能に配慮した藻場の自然再生プランを立案中である.前者の解析では,藻場を形成する海草類の遺伝的多様性と種子分散モデルの結果と併せ,海草の分布回復予測や再配置に適した海域の選定を行っている.後者では,主要魚種の空間的な集団サイズと配置を推定し,集団内の複数の景観要素との関連について解析を行った結果,各魚種の現存量は生活史を反映した藻場と周辺景観の利用パターンで説明された.この結果は,沿岸魚類の資源管理において生活史完結型の生態系管理が有効かもしれないことを示唆している.
タイトル:上位捕食者の個体群保全:生息環境モデルを用いたオオタカ保護区の抽出方法
講演者(所属):尾崎研一(森林総合研究所)
要旨/Abstract:陸上生態系における上位捕食者は一般に広大な行動圏を持つため、その個体群管理は困難をともなう。里山に生息する猛禽類であるオオタカも同様で、その保全はこれまで環境アセスメントの中で主に行われてきた。しかし、この方法で保全の対象となるのは多くてもオオタカ数つがいであり、個体群全体が保全の対象とはならない。オオタカの個体群を保全するためには、オオタカの分布や生息数、遺伝的多様性を把握し、その結果をもとに個体群が存続可能な保護区を設定することが重要である。本研究では、関東と北海道全域のオオタカの生息数を予測する生息環境モデルを作成し、このモデルを用いて両地域の生息予測図を作成した。その結果、関東全域の生息数は約3,000つがい、北海道全域の生息数は約1,000つがいと推定された。作成した生息予測図を用いて生息密度の高いメッシュを抽出した結果、関東では全域の5%、北海道では29%で保全を行えば個体群の存続が可能だと考えられた。しかし、これらのメッシュは平野部に位置するため、オオタカの保全と他の土地利用が強く競合することが予想された。そこで、既存の保護区等を含む、人間活動との軋轢の少ないメッシュを抽出した結果、関東では全域の34%、北海道では全域の67%もの地域で保全を行う必要があることが分かった。このように生息予測図を使えば、保全の有効性と地域の社会的状況を考慮した保護区設定プランが提案できる
タイトル:Fishing and variability of exploited fish populations
タイトル:系外資源流入の年変動を考慮した外来種管理
講演者(所属):*亘 悠哉1、阿部 愼太郎2、山田 文雄3、宮下 直4(1森林総研・学振特別研究員(PD)、2環境省那覇自然環境事務所、3森林総研関西、4東大農)
要旨/Abstract:外来種駆除対策においては、繁殖価の高い個体の駆除が個体群にもっとも大きな影響を与える。個体の繁殖価は、性別や齢、次回の繁殖までの時間に応じて変化する。このような繁殖価に関与する要因を考慮すれば駆除の効果はより向上するであろう。
本研究では、奄美大島に移入され、数多くの在来種を減少させた外来捕食者ジャワマングースを対象に、駆除効果の季節推移をシミュレーションにより推定することを目的とした。奄美大島のマングースの特筆すべき特徴として、冬鳥シロハラの飛来数がシーズンによって大きく変動することが挙げられる。大量飛来時にはマングースの主要な餌資源となることから、マングース個体群の繁殖価の季節推移に影響を与えている可能性が考えられる。そのため、本研究では系外資源であるシロハラの年変動も考慮して解析を行った。
マングースの繁殖期は、シロハラ年では1月に始まり、通常よりも2ヶ月ほど早まっていることが明らかになった。駆除シミュレーションの結果、通常年とシロハラ年ともに5〜8月は駆除効果が最も低い時期として共通していた。一方で、通常年では12〜3月、シロハラ年では12〜1月、4月、11月の駆除効果が高くなった。作業ルートの整備など、マングースの駆除に直接は関わらない作業を駆除効果の低い時期に可能な限り行い、実際の駆除作業を駆除効果の高い時期に集中させれば、駆除の効率はより高まると考えられる。
タイトル:Fishing and variability of exploited fish populations
講演者(所属):謝志豪(國立臺灣大學)
要旨/Abstract:Separating the effects of environmental variability from the
impacts of fishing on the dynamics of fish populations is essential for
sound fisheries management. We distinguish environmental effects from fishing
effects by comparing variability in the abundance of exploited versus unexploited
species living in the same environments. Using the 50-year-long larval
fish time series from the California Cooperative Oceanic Fisheries Investigations,
we regard fishing as a treatment effect in a long-term ecological experiment.
We show clearly that fished populations tend to fluctuate more than unharvested
stocks. Furthermore, we distinguish among three major competing mechanisms
explaining why fishing magnifies variations of exploited populations. First,
variable fishing pressure directly increases variability in exploited populations.
Second, commercial fishing can decrease the average body size and age of
a stock, causing the truncated population to directly track environmental
fluctuations. Third, age-truncated or juvenescent populations have increasingly
unstable population dynamics due to changing demographic parameters such
as intrinsic growth rates. We find no evidence for the first hypothesis,
limited evidence for the second, and strong evidence for the third. Therefore,
in California Current fisheries, increased temporal population variability
does not arise from variable exploitation, nor does it reflect direct environmental
tracking, but more fundamentally, it arises from increased instability
in dynamics. This finding has implications for resource management as an
empirical example of how selective harvesting can alter the basic dynamics
of exploited populations.
タイトル:生態リスク管理におけるアジア視点−知床世界遺産におけるシカとトドの管理
講演者(所属):松田裕之(横浜国大)
要旨/Abstract: 知床世界遺産では、核心地域である知床岬でシカの大量捕獲を進めている。世界各地で自然公園は禁猟区となり、シカ類が増加している。ニホンジカ(Cervus
nippon)による自然植生への影響は各地で深刻である。知床世界遺産科学委員会では、激論の末、自然植生への影響を監視しつつ、遺産地域内でシカ密度を下げる実験を始めた。2008年2月にIUCN視察団が来たときにこれを説明し、理解を得た。
知床の海域では同時に通常の漁業が営まれ、漁網を破るトド(Eumetopias jubatus)を駆除している。海獣類保護の国際世論を受けて、北海道はトド採捕枠を設け、漁業とトドの共存を目指してきた。昨年からPBR(生物学的間引き可能量)に基づく採捕枠を設定された。トドについては、上記視察団から遺産海域での採捕より追い払いなどの措置を優先させ、捕獲個体の利用は奨励されないとの勧告を受けた。
1998年に北海道が道東エゾシカ保護管理計画を策定したとき、海外の研究者から「よく合意できた」といわれたという。野生動物を保護することで、生態系の他の構成要素に負の影響がでることがある。利用することで管理の資金を得ることもある。このような人と生態系の共存を図る管理に必要な個体群動態モデルを、上記の例で紹介する。