(横浜国立大生態リスクCOE第16回公開講演会)
主催:生物多様性リテラシーフォーラム実行委員会1・横浜国大COE「アジア視点の国際生態リスクマネジメント」・MAB計画委員会2
場所 横浜国大環境情報3号館101室 (交通案内 詳細図*)
講演会の参加費は無料。飛び入り歓迎します
終了後、割り勘で懇親会を開催します。
*横浜駅からお越しの方は、西口10番乗り場からの14時発相鉄バス「横浜国大」行きで終点まで(これを逃すと15:30までありません。時刻表)にお乗りください。そこから徒歩3分詳細図です。
注)
1:生物多様性リテラシーフォーラム実行委員会(趣旨案)* 生物多様性条約COP10(2010年10月名古屋)に向けた取り組みの一環として、生物多様性にかかわる環境問題を市民に科学的にわかりやすく正確に説明する技を鍛え、市民が主体的に取り組む一助とする。各講演者の提言を英文を含む報告書としてまとめ、ウェブサイトを活用して社会に発信する。COP10ではその成果発表のサイドイベントを開催する。
呼びかけ人:西宮洋(IGES)、松田裕之(横浜国大生態リスクCOE)、三浦慎悟(早稲田大人間環境)ほか
2:MAB計画委員会:MABとはユネスコのMan and Biosphere(人間と生物圏)の略語。人間(man)と環境(the biosphere=生物圏)との関係について,よりよい人間の生存のためにはよりよい生物圏を維持することが必要という趣旨で作られている(文科省公式サイト).
ワイルドライフマネジメントと生物圏保全地域の理念
三浦慎悟(早稲田大学人間科学部)
いま,人との関わりが深いシカ,イノシシ,ツキノワグマ,サルなど大型哺乳類の分布域や個体数が急速に拡大している。クマの異常出没や,シカによる自然生態系の破壊はその表れである。そしてとどまるところを知らない農林業被害は,人間の生産意欲ばかりか居住意欲さえ奪い,過疎化をさらに進行させている。それは,撤退する社会の到来と,野生動物を力でねじ伏せた時代の終焉を意味している。問われているのは,野生動物を農林業生産のたんなる疎外者,対立物とみなしてきた姿勢を改め,地域の富として新たな価値を付与していくことではあるまいか。それがわたしの問題意識である。
近年,シカやイノシシは約35万頭が,ニホンザルは約1.4万頭が,クマ類は,年変動が著しいが,数千頭が,それぞれ毎年捕獲されている。だが,その大半は焼却されたり,埋められている。それは自然への冒涜である。いずれも資源としての高い価値をもつが,利用されない一方で,現状は,大量の食肉と,多数の実験動物(アカゲザルなど)と,違法な熊胆(ワシントン条約違反)を海外から輸入している。求められていることは,自然と利用とを結ぶインターフェースであり,ワイルドライフマネジメント制度の構築である。
自然の持続的な利用はどのような形で実現されるべきだろうか。わたしはその有力なモデルが「生物圏保全地域」であると考える。日本には各地にすばらしい生態系が点在している。それらは地域自然のコアとして保全され。その周囲にはバッファーが設定されてよい。従来,バッファーは,人為影響の緩衝帯,減衰ゾーンとして位置づけられてきたが,むしろ,生態系が生み出す富の場として,人々の持続可能な生産の場として,あるいはワイルドライフマネジメントの場として活かされる必要がある。バッファーこそが核(コア)なのだ。ヨーロッパでの「生物圏保全地域」の瞥見からそのことを考えてみたい。
世界遺産の森林と生物多様性
小酒井淑乃(林野庁)
我が国が平成4年に世界遺産条約を締結し、翌年に屋久島、白神山地が登録されてから15年。様々なメディアにより紹介され、世界遺産の知名度は大変高くなっている。国内外の世界遺産を訪れる様々な観光ツアーが人気を集めて久しく、それゆえ新規登録にかける国民の期待は大きい。
しかしながら、世界遺産は登録が最終ゴールなのではない。地域の自然の世界的な価値を、人類共通の遺産として将来にわたり保全し継承していくことこそが世界遺産の本来の目的であり、我々の責務である。
いま、世界遺産候補地である小笠原諸島を舞台に、関係機関が一体となった生物多様性の保全と回復の取組が始まっている。小笠原諸島は、誕生以来一度も大陸と陸続きになったことのない海洋島であり、独自の進化の過程で数多くの固有種を生み出し、その多くが現存し、また今なお進行中の進化の過程をみることができる類い希な自然を有する。近年、様々な外来種がこの類い希な生態系の空隙に侵入し、固有動植物種の存続を脅かしている。
複数の外来種が組み込まれた生態系の管理では、特定の種のみの駆除対策ではなく、総合的な生態系管理の視点が重要である。我々は今、地域ごとに異なる複雑な種間相互の関係を紐解き、共有して、より効率的・効果的な外来種対策の戦略を展開しようと試みている。
世界遺産の概説とともに、小笠原諸島の取組を事例に、生物多様性を未来に伝えるために具体的に何をすべきかを考えたい。