地球環境研究総合推進費  H21地球環境問題対応型研究課題(H-092)

里山・里地・里海の生態系サービスの評価と新たなコモンズによる自然共生社会の再構築 (FY2009−FY2011)

Ecosystem Services Assessment of Satoyama, Satochi, and Satoumi to Identify New Commons for Nature-Harmonous Society

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渡辺 正孝 国際連合大学高等研究所客員教授

グループ、メンバー構成

1 生物多様性・生態系サービスの保全・利用の戦略展開 渡辺 正孝 国際連合大学高等研究所 客員教授
武内 和彦 国際連合大学高等研究所 副所長
サム・ジョンストン 国際連合大学高等研究所 シニアリサーチフェロー
中村 浩二 国際連合大学高等研究所 客員教授
2 生態系サービスの変化に関する直接・間接的要因の分析 岡寺 智大 国立環境研究所 アジア自然共生研究グループ アジア水環境研究室 研究員
藤田 壮 国立環境研究所 アジア自然共生研究グループ 環境技術評価システム研究室 室長
3 長期的・広域的な視点からみた里山・里地・里海の定量的な評価 松田 裕之 横浜国立大学 環境情報研究院 教授
嘉田 良平 横浜国立大学 環境情報研究院 教授
撤退の農村計画 林 直樹 横浜国立大学 環境情報研究院 産学連携研究員
白山ユネスコエコパーク地域里山風土資産調査調書 堀 優子 横浜国立大学 環境情報研究院 研究補佐員
渡邉 絵理子 横浜国立大学 環境情報学府 大学院生
4 里山・里地における生物多様性と多面的機能の統合的な評価 大黒 俊哉 東京大学 大学院 農学生命科学研究科 准教授
井上 雅文 東京大学 アジア生物資源環境研究センター 准教授
5 里山・里地・里海の文化的価値の評価 湯本 貴和 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所 教授
秋道 智彌 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所 教授

<研究の背景>
背景:ミレニアム生態系評価(MA)は、過去50年間で人類が地球上の生態系を急速かつ大規模に改変させた結果、人々の生活に総じて利益をもたらしたが、将来世代に大きな負荷を与えてきたことを示した。現在、特に開発途上国で、人口増加、科学技術の進展、急激な経済発展に伴い、自然資源の搾取と枯渇化が進んでいる。一方日本では、里山・里地・里海で人間活動と環境が調和的に存在していた歴史を有するものの、近年では、過疎化や高齢化、農林産物の輸入、所有権の細分化などにより、管理粗放化が進み、生態系が質・量的に変化している。さらに、気候変動、食料危機、金融危機など、地球規模での変動が生態系に大きな影響をおよぼす可能性が高まっている。こうした状況を克服し、生物多様性や生態系の価値を損なわず、自然資源を有効活用する方策を科学的に提示することは、国際社会における急務の課題である。
科学的・技術的意義:これまでの日本における生物多様性・生態系保全に関する研究は、自然科学的なアプローチが主流で、人文社会科学的なアプローチとの統合を目指す研究は極めてわずかな状況にとどまっている。本研究は、国連が推進したミレニアム生態系評価のフレームワークを活用し、生態系サービスという概念のもとで、里山・里地・里海の自然科学的な評価と、経済的、文化的価値を含む人文社会科学的な評価を統合させ、そのうえで自然共生社会の再構築に至る道筋を示そうとするものであり、その科学的・技術的意義はきわめて高い。
社会的・経済的意義:地球環境の持続性の喪失が懸念されるなか、人間の適正な関与に基づき生物多様性の保全と生態系サービスの享受を両立させるという伝統的な日本の里山・里地・里海に見られた自然と人間の共生関係を再評価し、自然共生社会の再構築につながる政策提言を発信することは、日本国内のみならず、アジアをはじめ国際的にも大きな社会的・経済的意義を有すると考えられる。本研究では、伝統的な里山・里地・里海に見られる日本型コモンズを評価することにより、「公」と「私」の対立構造を超えた、新たな「共」(コモンズ)の提唱を通じた自然共生社会の再構築を目指した政策提言を行い、そのアジアへの展開の可能性を提示しようとする点に大きな特徴がある。
国際的取組との関係・位置付け:2010年に名古屋で開催される生物多様性条約第10回締約国会議は、里山・里地・里海の概念とそこにみられる自然と人間の共生関係の重要性を、アジアを初めとする世界に情報発信する絶好の機会である。この機会に、日本国内にとどまることの多かった里山・里地・里海の議論を国際展開し、生物多様性・生態系分野における学術面での日本の国際的プレゼンスを高めることは重要であると考えられる。また、里地にはため池や水田などの湿地も含まれることから、2008年のラムサール条約第10回締約国会議で採択された水田に関する決議の実践への示唆を含め、ラムサール条約における人間の管理下における湿地保全の重要性の評価に関する議論の進展にも大きく貢献し得ると考えられる。
緊急性:自然共生モデル、特にそのアジアモデルについて、G8環境大臣会合、2008年「生物多様性のための行動の呼びかけ」、「クリーンアジア・イニシアティブ」、洞爺湖サミット、エコアジアなどで重要性が認識されるなか、こうした日本政府が推進する政策について、国際的な共通性や科学的な重要性を明確化する必要がある。特に、21世紀環境立国戦略で提唱されたSATOYAMAイニシアティブを推進し、生物多様性条約第10回締約国会議での日本の国際貢献につなげていくためには、これまで十分な科学的検討が行われてこなかった里山・里地・里海の生態系サービスの客観的かつ統合的な評価に基づく政策提言が急務の課題である。

<研究の目的・達成目標(アウトプット)>
研究の目的:ミレニアム生態系評価の概念フレームワークを適用して日本の里山・里地・里海がもたらす生態系サービスを総合的に評価し、生態系の改変が著しい現状を大きく見直し、生物多様性・生態系サービスの持続的な保全・利用の在り方を提唱することにより、自然共生社会に向けた政策オプションとそのアジアへの展開の可能性を提示すること
各サブテーマの目標(アウトプット):
(1) 里山・里地・里海の生物多様性・生態系サービスの保全・利用の戦略展開:里山・里地・里海の生態系サービス、生物多様性、人間の福利に関するトレードオフ分析、シナリオ解析を通じた、自然共生社会のための政策オプションおよびそのアジア展開の方向性を提示。
(2) 生態系サービスの変化に関する直接・間接的要因の分析:里山・里地・里海の生態系サービスの変遷に関わる直接的・間接的要因を、それらの生態系サービスへの影響を構造化することにより分析し、事例に基づいて生態系サービス変化を時系列で評価。
(3) 長期的・広域的な視点からみた里山・里地・里海の定量的な評価:里山・里地・里海について、その利用・維持・管理を歴史的に検証すると同時に、数値モデル解析により、日本の景観構造の特徴を地形・土地利用・生態学的観点から解明することによって、里山・里地・里海を生態学的に定義し、各地の里山・里海の人口動態の将来予測と食料自給率の予測を行う。
(4) 里山・里地における生物多様性と多面的機能の統合的な評価:生物多様性、食料・バイオマス生産を含む供給サービスおよび調整サービス等の統合的評価に基づき、生物多様性を維持しつつ生物資源の持続的利用を可能とする里山・里地管理基準(生物資源利用と生物多様性維持の両立を可能とする里山・里地管理の最適解)を定量的に提示。
(5) 里山・里地・里海の文化的価値の評価:里山・里地・里海がこれまで培ってきた文化的価値を論理化して評価するとともに、生物資源の持続的利用における伝統的知識やコモンズ管理の役割を検討し、その発展的継承に関する目標と手法を提案。


最終報告書