公開コロキアム  日本財団助成事業、統合的海洋教育・研究センター、水産資源・海域環境保全研究会

減る水産物、増える海獣−絶滅危惧の水産生物と持続可能な漁業−

主催: 横浜国立大学統合的海洋教育・研究センター(この行事の公式サイト) ポスター(掲示・配布お願いします)
後援: 日本水産学会日本生態学会WWFジャパン水産資源・海域環境保全研究会、海洋研究開発機構、水産総合研究センターほか(予定)
日程: 平成25年9月28日(土) 13時30分〜17時
場所: 横浜国立大学教育文化ホール大集会室 (交通案内)
参加希望者は下記の主催者まで「9.28公開コロキアム参加希望」と書いて、お名前、ご所属、連絡先(eメールまたはFaxまたはご住所)をお早めにお知らせください。

趣旨:2010年生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の際に、2020年までの戦略課題(愛知目標)が合意された。その中に、過剰漁獲 を避け、絶滅危惧種に対する漁業の深刻な影響を無くすこと(目標6)、既知の絶滅危惧種の絶滅を防止する。とくに減少している種の保全状況を改善 する(目 標12)がある。日本では一部の海産生物以外は絶滅危惧種一覧(レッドリスト)の評価を行っていなかったが、COP10を機に海産生物レッドリストを定めることになった。2013年2月にはニホンウナギが環境省レッドリストに 掲載され た。他方、かつて絶滅の危機にあったトドは、2012年の環境省レッドリストでは準絶滅危惧種に格下げとなった。他方、2013年7月のIUCNレッドリストマナマコなどが新たに登録された。近年の水産生物と海獣類の保全状況、レッドリスト掲載のワシントン条約と漁業への影響をおさらいし、海の自然と人類の未来について考える。

プログラム 各15分 講演要旨 

休憩 (13時より17時までポスター展示) 15分

パネル討論(90分) 水産物とレッドリストの役割

ポスター発表*

*上記に関連するポスター展示を募集します。(12名様に限らせていただきます)。お申し込みは下記主催者まで。

連絡先 
〒240-8501 横浜市保土ヶ谷区常盤台79-5 
横浜国立大学統合的海洋教育・研究センター 
Tel/FAX 045-339-3067 電子メール kaiyo@ynu.ac.jp (@を半角に変えてください)


交通案内(詳しくは横浜国大公式サイト参照 バス時刻表 学内地図) 横浜駅西口 9番乗り場から相鉄バス(13:01,13:16発)、11番乗り場から市バス202系統(13:00)乗車、いずれも岡沢町下車


講演要旨

ニホンウナギの絶滅リスク: 松田裕之(横浜国大)
水産生物の多くは個体数が不明で、代わりに漁獲量減少率で判定される。検討中の環境省海洋生物レッドリストでは資源量と減少率の両方を用いる方法が提案さ れているが、淡水魚でもあるニホンウナギは漁獲量減少率のみでIb類(EN)と判定された(IUCNのマナマコも同様)。いずれにしても、漁業として持続不可能といえる。今後ニホンウナギを国際管理する場合、日中台で同じ個体群を利用するため、共同で資源管理を行う必要がある。また中国や台湾のウナギ消費量も増えているとすれば、輸出入制限だけでは効果が無い。資源はかなり前から激減していたにもかかわらず、ファーストフード店で安売りされていた。それでもなお、安いウナギが食べられるかをまず心配するマスコミにも責任がある。

世界のクロマグロとワシントン条約: 山内愛子(WWFジャパン)
大西洋タラのモラトリアムが導入されて以来、主な漁業資源の状況は世界的に非持続的であると指摘する声が多い。そのため、持続可能な漁業資源の利用を目指した取り組みは、資源管理主体や生産者だけではなく、多様なステークホルダーに義務として求められるようになっている。こうした中、2010年3月に開催されたCITES・COP15では、1990年代より資源の減少と、科学的勧告に基づく国際的な資源管理の枠組み採択に関する懸念があった大西洋クロマグロに対し、附属書Tへの掲載を求める提案がモナコより提出された。この会議の行方に日本はもとより、世界中の耳目が集まった。本報告では、当時の大西洋クロマグロの議論を改めて整理し、現在、歴史的過剰漁獲状態にあり、初期親資源の4%にまで減少したとされている太平洋クロマグロの今後について、環境保全団体の立場より報告する。

急成長する中国のナマコ市場と日本産マナマコの生産: 廣田将仁(中央水研)
近年、ナマコ消費の活況に伴って、世界中から多くのナマコ類が中国に集まるようになった。その異常な値段の高さから“黒いダイ ヤ”とか“ナマコバブル”という言葉も生まれ、漁業者にも多くの収益をもたらしたが、懸念されるのは、むろん漁獲量の増加に伴う資源の減少と いう結果である。この懸念の元となるものは、最近の生産と流通のスピードアップにある。小難しく言うならば資本回転の速さということであろ う。周知のとおり、かつてのナマコ製品は石のように硬く乾燥され、加工するのに数十日、これを調理するのに約一週間かかっていた。それが、最 近では簡便な加工の登場により、加工に一日、食べるのに封を開けてすぐという有り様である。より多くのナマコを販売し儲けようとするビジネス の立場からは当然の技術革新であるが、資源が守られるかは心配なところである。ナマコは清代より前から格式高く使われ、日本でも重要な輸出品 として統制・管理されてきた歴史がある。それゆえ、獲り方、加工、流通のあり方、食べ方にもいろいろな知恵が蓄積されてきた。このような知恵 に基づいた利用のあり方を見直すことは将来にとっても無駄ではない。

ゼニガタアザラシの保護管理: 山本麻衣(環境省)
ゼニガタアザラシは、環境省のレッドリストにおいて絶滅危惧U類に選定されていることから、鳥獣保護法上の希少鳥獣に指定され、原則として殺傷を伴う有害鳥獣捕獲ができないこととなっている。しかし、えりも地域においては、サケ定置網漁を中心として当該種による漁業被害が深刻であり対応が必要となっている。このため、環境省では、昨年度より「ゼニガタアザラシ保護管理検討会」を設置して対応を検討している。
 ゼニガタアザラシの法的位置づけや生息状況、被害状況とともに、昨年度以降の対応の経緯と今後の方針について紹介する。

ラッコ来遊、もうひとつの背景: 本間浩昭(毎日新聞)
 北海道東部の海岸に、2009年ごろから、野生のラッコがこれまでにない頻度で来遊するようになった。釧路川に現れた「クーちゃん」と名付けられた雄のラッコの話題が全国ニュースになって以来、複数の目撃情報も多くなった。なにしろ1962年に標津町で初めて定置網に死体が揚がって以来、常に単独の出現で延べ120頭程度だった目撃情報が、たった1年で塗り替えられてしまうほどの異常な増加である。もちろん、目撃情報の多くは、鼻の傷跡などの写真撮影による個体識別で「クーちゃん」とみられるが、それ以外にも根室市モユルリ島沖、えりも町襟裳岬などで複数頭が定着し、同市納沙布岬では最大で4頭が同時に目撃されている。では、なぜ彼らが急に道東地域に来遊するようになったのだろうか。単なる北方四島水域での個体数の増加だけでは説明できそうもない。ラッコの若い雄の中には、生まれた海域から離れて「パイオニア」として生活する個体が知られているが、それ以外にも原因がありそうである。どうやら、水面下でヒトとラッコのエゾバフンウニをめぐる争奪戦が起きているもようである。

絶滅危惧種から外れたトドの未来: 山村織生(北水研)
我が国のトドは、起源個体群回復を受け、昨年の環境省RDB見直しにおいて絶滅危惧(EN)から準危惧へ変更された。一方北海道沿岸のトド漁業被害は年額15億円近辺で高止まりしており、被害に悩む漁師は魚離れによる魚価の低迷や燃油高騰によるコスト増加により瀕死の状態にある。嘗て被害対策として無制限に行われてきたトド採捕は個体群の激減を招きEN指定の主因となったが、1994年より漁業法による管理下に置かれ、2008年以降はPBR(保全目的の保守的指標)により管理されている。本指標のもと最近5年間で採捕上限数は2.2倍に増えたが、漁師からの評価は芳しく無く、相変わらず減らない被害への不満が渦巻いている。しかし仮に、よりリベラルな指標で採捕水準を大幅増大しても、検知可能な効果が得られるのは数十年後であり、その場合トドは再度EN指定を受けることとなろう。もはや対症療法的な採捕数の調整で問題の解決は不可能である。海獣被害を、漁村を取り巻く諸問題の1ピースとして捉え、総合的な施策を考えるべき時期に来ている。

危機に瀕するIWC国際捕鯨委員会の管理機能: 加藤秀弘(東京海洋大)
さすがに近年では、“鯨=絶滅危惧”という様な図式を直ちに思い浮かべることは無くなった。事実、コククジラ東系群など嘗て乱獲によって減少した多くの鯨種系群が、適切な資源保護と管理によって見事に立ち直った例は数多い。極めて保守的に作られている“レッドリスト”に掲載されることにさえも違和感がある鯨種も多く、全鯨類86種のうち、シロナガスクジラやコククジラ西系群など数種を除けば、当面の絶滅リスクは減じている。一方、絶滅リスクはむしろその管理機関であるIWC(国際捕鯨委員会)の方にこそ危惧される。IWCは、第二次大戦後に締結された国際捕鯨取締条約(1946年署名;1948年発効;日本は1952年加盟)に準拠し、長きにわたり世界中の捕鯨活動をコントロールしてきた国際機関である。しかし、世界世相に左右されること多く、1960年代までの捕鯨国主導の操業追認的管理、1970年代の世相を反映した急激な過剰保護的管理を経て“商業捕鯨モラトリアム”年代に入る。しかし、既に科学的問題点が解決された以後でも、持続的利用サイドと反捕鯨サイドの二極的膠着状態が続き、解決の糸口が見えない。