個体群生態学会第32回大会ポスター発表(一般講演)2016年11月3-4日、定山渓
[P-11] オジロワシの生物学的潜在間引き数(PBR)と風力発電環境影響評価 Blog
松田裕之, 谷圭一郎(横浜国大), 島田泰夫(日本気象協会)
近年、累積影響が環境影響評価(EIA)でよく議論されるようになったが、希少猛禽類オジロワシの衝突死が北海道全体でどこまで許容されるかは1事業者の裁量を超えており、本来国が指針を作るべきである。個体群の存続可能性への影響が重要とすれば、PBR(生物学的潜在間引き数)という指標がその目安となる。マガンについては実際の衝突事例がほとんどなく、PBRよりけた違いに少ないことは明らかだが、オジロワシについてはそうではない。留鳥と越冬群の扱い方、直接の知見のない自然増加率の値にもよるが、すでにPBRを超えた人為死亡があるとも言える。他方、越冬群だけでなく、留鳥も依然として増え続けている。本研究では、シナリオ別のオジロワシのPBRの試算を示し、順応的管理を含む今後の風発EIAへの適用方法を議論する。
表1 PBRおよび年あたり風車衝突発見数の許容水準の案
越冬群全体 |
留鳥のみ |
|||||
個体数Nmin |
1,000 |
1,000 |
500 |
500 |
500 |
500 |
自然増加率Rmax |
9.00% |
4.00% |
9.00% |
4.00% |
9.00% |
4.00% |
回復係数Fr |
1 |
1 |
0.5 |
0.5 |
1 |
1 |
PBR |
45 |
20 |
11.3 |
5.0 |
22.5 |
10.0 |
人為死亡M |
14 |
14 |
9.3 |
9.3 |
9.3 |
9.3 |
風車衝突 |
31 |
6 |
1.9 |
-4.3 |
13.2 |
0.7 |
発見率 |
80% |
80% |
80% |
80% |
80% |
80% |
許容発見数 |
24.8 |
4.8 |
1.5 |
-3.5 |
10.5 |
0.5 |
表3 想定される論点
原案 |
予防側 |
非予防側 |
論点 |
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留鳥と越冬個体の扱い |
全体と留鳥のみと二通りに分けて扱う。 |
渡りと留鳥を別のESUとみなすべき。また、渡り個体は越冬期だけの人為死亡ならばPBRのさらに半分以下にすべきである。 |
別種であるとみなす十分な根拠がなく、全体で1つの個体群とみなし、留鳥のみへの配慮は不要である。 |
留鳥が遺伝的にESUとみなしえるかどうか。種の保存法などでどのような議論がなされているかを整理する。 |
|
個体数について |
それぞれ幼鳥を含めて約500羽程度である |
留鳥と渡り鳥に移動・遺伝的交流があるならば、別々の推定は困難 |
合計で1000羽である。ただし、渡り個体はより大きな個体群のごく一部である |
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最大増加率Rmaxについて |
明確な知見はないが、年5%と9%の二通りを想定 |
9%は高すぎる。 |
9%または19%という論文がある。実際の増加率は密度効果と人為死亡を含んでおり、Rmaxはこれより高いことに注意すべきである。 |
5%ならば、風発がなくても留鳥は増えていないはずで、現実には増え続けている。 |
|
回復係数について |
Fr=1.0(普通種並み)と仮定 |
少なくとも留鳥は絶滅危惧II類であり、Fr =0.5とすべき |
増え続けている種にPBRを設定する必要はない。トドでもアザラシでも、PBRを設定せずに個体数調整をしている。 |
PBRは個体数が減らないための担保である。 |
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PBRについて |
全体で20-45羽、留鳥のみで10-22羽 |
渡りと留鳥それぞれ5羽 |
全体で40羽だが、実際にはロシア個体群の一部であり、それだけ死んでも個体数は減らないだろう。 |
風車以外も含めた人為死亡は既に5羽を超えており、現実には増え続けている。 |
|
他の人為死亡について |
過去の報告から年13個体程度と仮定(留鳥のほうが滞在時間が長いので、渡りと留鳥で約8:5羽と仮定) |
死亡報告は全体の一部であり、人為死亡数は不明である |
鉛中毒は今後減ると期待できる。 |
以前からある風車以外の人為死亡を含めた増加率が観測できるなら、風車のみの死亡数を考慮することも可能。 |
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発見率について |
Kitano & Shiraki(2012)の半月後の残存率から80%と仮定 |
80%は死骸の残存率であり、発見率は調査努力に依存する |
努力する事業者が損をするような予測手法は好ましくない。地吹雪の原野などの立地もあり、調査頻度をそろえることは現実的でない。 |
雪解けの春に見つかることが多い。大型の猛禽類は残骸もなく持ち去られることはまれである。 |
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風発全体での許容 |
全体で7-27羽、留鳥で5-17羽 |
限りなく0に近くすべきである |
渡り飛来数、留鳥個体数を継続監視し、減っていないならば問題ない。 |
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温暖化防止による保全効果 |
気候変動緩和策への貢献を考慮し、順応的管理を推奨する。 |
緩和策への効果は不確実であり、通常の開発行為と区別すべきではない |
気候変動自体が希少鳥類の絶滅リスクを高めることが指摘されており、積極的に考慮すべき |
考慮するならば、設備容量でなく、風況も含めた正味の発電量予測の情報が必要。 |
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順応的管理の活用 |
許容水準より統計的に有意に衝突発見が多い場合に稼働制限を行う。 |
事後に行う順応的管理では不可逆的な影響を避けることはできず、予防原則を堅持すべき |
個体数が継続監視できていて、減少の兆しがない以上、積極的に順応的管理を採用すべき |
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累積影響の事業者負担 |
新規事業者だけが稼働制限するような措置は不公正である。初期の衝突を繰り返す風車の耐用年数が過ぎれば、累積影響は減るはずだ。 |
過去の経験を生かせば累積影響低減に努めることも可能だろう |