変動するクロマグロ資源における漁獲割当とその取引制度の検討

〇松田裕之・竹本裕太・森宙久(横浜国大・環境情報)

【目的】クロマグロ(Thunnus orientalis)は、近年大きく資源が減った国際資源として国際的に厳しい漁獲枠制限が課され、国内においてまき網や沿岸漁業などへの漁獲枠が割り当てられている。しかし、その割当根拠が不明確であり、かつ一部地域の定置網漁業で枠を大幅に超過していることが社会問題となっている。変動する資源の漁獲枠の配分については、2009年春季大会でも、機械的に過去の実績から均等配分することの問題点を指摘した。本研究では、クロマグロを想定し、魚価が高く、漁具効率が低く、努力費用の低い漁業1と、その逆の漁業2の間での漁獲枠の配分を考える。個別の漁業者の振る舞いではなく、2つの漁業種間での配分方法を検討する。
【方法】加入量の年変動、漁業1と2の魚価の比、漁業1の漁獲量の上限を考慮して、漁獲枠の定率配分制度とその上で漁獲枠を取引する制度、魚価の高い漁業1への漁獲枠を維持して余剰分を漁業2に配分する制度を考える。漁獲可能量は一定の生物学的許容漁獲量によって決まり、資源量は正確に推定できると仮定する。
【結果】①両漁業から得られる漁獲高を最大にする漁獲枠の配分は、漁業1にほぼ一定量の漁獲枠を割当て、余剰分を漁業2に割当てる方策である。②各漁業への割り当て配分比を前年の実績にかかわらず固定する場合、漁業1の配分比が少ないほど、純利益の総和も少なくなる。③漁業種間での取引があるとき、各漁業の純利益を最大にする取引量は、事前の漁獲枠の配分や譲渡額によらない。各漁業の得る利益は漁獲枠の配分方法に依存するが、譲渡額を適当に選べば、純利益の総和は最適配分に一致する。これらの結果から、異なる漁業間での漁獲枠配分は純利益を最大にする上で必ずしも効率的な制度とは言えないが、漁獲枠の取引を認めれば、効率的な配分が実現することが示された。また、このような漁獲枠配分を導入した場合に予想されるさまざまな問題点について議論する。