非定常系としての海洋生態系の保全と管理
 海洋生物資源の多くは乱獲され、すでに世界の総漁獲量が頭打ちになったと言われるが、底引き網でとる底魚は1970年代から漁獲量は飽和し、浮遊生物食の浮魚は今なお漁獲量が増え続けている。しかし、イワシやサバなどの浮魚の資源量は種ごとに見れば大きく変動しながら共存している。我々は、非定常な生物資源を持続的に利用する新たな方途を見いださねばならない。本講演ではそのための単純な指針を提案する。
松田裕之(東大海洋研)

FAOの4つの提言

 1997年の世界食糧農業機構FAOの報告REVIEW OF THE STATE OF WORLD FISHERY RESOURCES: MARINE FISHERIESによると、世界の水産資源の過半数の魚種は乱獲により漁業が減少に転じているか、これ以上の漁獲増が見込めない状態にあるという。その一方で、1995年12月に催された京都会議よると、特に途上国の人口増加による水産物食物需要は今後も増え続け、1994年度に7500万トンあまりだった需要は、2010年には1億1千万トンに増加するという試算もある。

 FAO(1996)は持続可能な漁業について、次の4点を強調している。(1)いかにして乱獲を減らし、漁獲量を制限するか。(2)いかにして混獲と投棄を減らすか。(3)いかにして漁場と海岸の環境劣化を減らすか。そして(4)不確実性と危険性にいかに対処するか。

 実は、乱獲されている魚は種数こそ多いが、漁獲量はそれほどでもない。世界の総漁獲量は1988年に1億トンを超えた。それ以降は一進一退の状態である。1994年現在、世界の浮魚類の総漁獲量は約4500万トンである。図1aからわかるように、浮魚類の漁獲量は変動しつつも増え続けている。

 それに対して底魚類の総漁獲量は約1800万トンである。図1bのように1985年から1987年にかけては約2200万トンであったが、スケトウダラの漁獲量減少とともに底魚類の漁獲量は減少に転じている。

減った魚は禁漁にすること

 豊漁期のサンマやマイワシの漁獲量は、乱獲を避け、持続可能な漁獲量を得るために抑えられるのではない。豊漁貧乏で値崩れが起こり、採算がとれなくなるために抑えられるのである。実際、サンマでは出漁調整が続けられてきた。したがって、浮遊生物を食べる浮魚類の漁獲量は、豊漁期にはさらに増産可能である。[松田1997、この内容については松田『「共生」とは何か』も参照) しかし、低水準期には浮魚類も乱獲されている。このような年変動の大きい生物資源を持続可能に、かつ有効に利用するには、高水準期と低水準期で漁獲圧を変え、過度の低水準期には禁漁することが望ましい。(Matsuda et al. 1992)

種もみを残すこと

 持続可能な漁獲圧を決めるのに、ある魚を漁獲しなければ将来どれだけ子孫を残すかを表す「繁殖価」という概念が有効である。[Matsuda et al. 1994]繁殖価は若い頃は成長とともに増え、高齢化とともに減る。特に、加入齢に達した時点での繁殖価(生涯産卵数の期待値)に対応するspawning biomass per recruit (SPR)という指標が用いられる。[松宮 1997]漁獲圧が高いと長生きせず、生涯産卵数が少なくなる。漁業のないときの生涯産卵数の期待値に比べて、漁業があるときのそれが3割から2割にしかならないようだと、漁獲圧が強すぎると考えられている。このような管理指針は、1997年から施行された国連海洋法条約に基づく漁獲可能量(Total Allowable Catch=TAC)を決める際にも利用されている。

大人と子供,どちらが大切か

 非定常資源に対してはその年の産卵親魚量(spawning biomass)または全資源量を基準にした管理方策が提唱されている。先ほど紹介したように成魚量がある基準以下だと禁漁することが奨励される。しかし、実際には成魚が少なくても未成魚が多ければ、近い将来成魚が増えることが期待できる。漁期後の資源量を一定にする方策は翌年の加入量が予測できないことを前提にした理論であり、未成魚の数がある程度わかっていればより効率的な漁獲方針が立てられる。勝川・松宮(1997)は新たな指標として全個体の繁殖価の総和を考え、産卵ポテンシャル(spawning potential SP)と名付けた。SPが基準値以下なら禁漁とし、基準値以上ならその上前を漁獲する。この方針は成魚量を基準にするより禁漁年数が少なく、資源量の推定誤差に対して頑健であることが示されている。

未成魚を保護し、成魚を獲ること

 未成魚を小さいうちに獲っていては漁獲量を増やすことはできない。たとえば、100gの未成魚を獲るより、それが1kgにまで成長してから獲る方が得である。成長までに自然に死ぬかもしれないが、その生存率が10%以上なら、やはり成長してから獲る方が得である。成長を待たずに若い魚を獲ることを成長乱獲と呼ぶ。 ところが持続可能な漁業のためには、さらに徹底した未成魚の保護が必要である。かりに100gの未成魚が1kgの成魚になるまでの生存率が20%とする。100gの未成魚は、獲らずに海の中を泳がせていれば、漁獲量への貢献の上でも、卵を産んで次世代に子孫を残す意味でも、潜在的に成魚の2割、つまり200g分の価値をもつ。それを100gの未成魚の時点で獲れば、漁獲量への貢献の上では成魚の1割の価値はある。ところが、子孫を残す意味では全く貢献の機会を与えずに獲ってしまうことになる。

主要魚種を魚種交替とともに切り替えること

 図1aをみると、浮魚類の漁獲量は全体としてはそれほど大きくは変動していない。日本でマイワシが減っても、ペルーでカタクチイワシが豊漁になるなど、魚種により豊漁期がずれているためである。ただし、北太平洋のマイワシは日本近海と北米西海岸で同期して変動することが知られている。

 日本の全国漁獲量の年変動の大きさをみても、マイワシ漁獲量だけの変動ほどではない。特にサバ類が豊漁になる前の1950年から1965年頃にかけては、カタクチイワシ、アジ類、サンマの漁獲量が多かったことがわかる。

選択性の高い漁業技術を開発すること

 乱獲と混獲を減らす方法は、無差別な漁獲ではなく、選択性の高い漁業技術が必要である。単に網目の大きさを変えて大きい魚を獲るという意味だけではなく、魚種を選別して獲る技術が肝要である。乱獲を防ぐためには漁獲量を下げる必要があると思われるかも知れないが、必ずしもそうではない。まず、資源が回復すれば少ない漁獲努力でも多くの漁獲を期待できる。前述のように、未成魚を保護して成魚だけを選択的に漁獲すれば持続可能な漁獲量を増やすことができる。混獲を防ぐためにも選択的漁業が重要である。すなわち、資源量の少ない魚種を保護して主要魚種だけを選択的に漁獲すればよい。

 今までは少ない費用で一網打尽にする漁具を開発してきた。しかし、このような漁具効率の向上は、持続可能な漁業という制約の下ではあまり効果がない。獲れる魚の数は限られているので、漁具効率が上がれば操業日数を縮めることになる。[]持続可能に獲れる成魚の数に達する前に、未成魚を獲りすぎたり、個体数の少ない他種を獲りすぎて操業を止めざるをえなくなる。漁具開発の見直しが必要である。  こうした技術開発は今までにも行われてきた。しかし、まだ不十分である。混獲を減らすという持続可能な漁業が実現できるかどうか、そこに21世紀の水産業の存亡がかかっていると言っても過言ではない。我々は、まだ技術開発や漁業管理の提言に短期的な費用と便益の関係にとらわれすぎている。

情報公開

 なお、漁業管理を進める上で、今後は情報公開が欠かせない。FAOのホーム頁からは多くの情報が取り出せる。国債管理を進めるためには管理方針を定める根拠となる漁獲量などの基礎資料を公表して議論する必要がある。また、漁業者と水産業界に連なる生産者側の意見だけでなく、消費者、環境論者などの意見も交換して漁業政策を進めなくてはいけない。日本の農水省も、そして我々研究者も、情報公開に努めるべきである。公表している資料は誰でも自由に使えるようにするのが肝要である。農林水産統計の電子媒体での公表も進んでいる。漁獲量は掲載されていないようだが、生産額などはホーム頁で公開されている。持続可能な漁業を進めるために、国も水産庁も研究者も、情報公開を進めるべきである。

参考文献

勝川俊雄・松宮義晴(1997)産卵ポテンシャルに基づく水産資源の管理理論.水産海洋研究 61:33-43.

Kawasaki, T. and M. Omori. 1988 Fluctuations in the three major sardine stocks in the Pacific and global trend in temperature. In Long-term changes in marine fish populations, a symposium held in Vigo, Spain, 18-21 Nov. 1986, (ed. T. Whatt and M. G. Larraneta), 37-53.

松田裕之(1997) 永続するマイワシ資源の大変動−持続可能な漁業の新たな課題−.日本の科学者. 32(4):28-32.

Matsuda, H., Kishida, T. & Kidachi, T. (1992) Optimal harvesting policy for chub mackerel in Japan under a fluctuating environment, Canadian Journal of Fishiries and Aquatic Science, 49:1796-1800.

Matsuda, H., Wada, T., Takeuchi, Y. & Matsumiya, Y. (1992) Model analysis of the effect of environmental fluctuation on the species replacement pattern of pelagic fishes under interspecific competition, Researches on Population Ecology, 34:309-319.

Matsuda, H., Fukase, K., Mitani, I. & Asano, K. (1997) Impacts per unit weight in catch by two types of fisheries on a chub mackerel population. Researches on Population Ecology 38(2):219-224.