【講義名】 

奈良女子大学大学院人間文化研究科
情報科学特別セミナーII=数理生態学から見た保全生態学
松田裕之

ご質問、ご意見は 164-8639 東京都中野区南台1-15-1 東京大学海洋研究所 松田裕之まで
tel.03-5351-6494 fax.03-5351-6492 email:matsuda@ori.u-tokyo.ac.jp

【開講時期】2002/8/5-7(集中)

【講義の目的】生態系は人為的影響がなくても絶えず変化する非定常系である。それらのダイナミクスを力学系やゲーム理論などの数理的手法を用いながら解説し、環境影響評価や生態系管理などに応用できる数理生態学の理論と手法の修得を目指す。松田裕之『環境生態学序説』(2000共立出版)詳しくはこのホームページhttp://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/lecture/nara-w02.htmlを参照。また、下記の から講義で用いるMicrosoft PowerPointファイルなどを落手可能。

8/5 1)サバの未来を読む(浮魚類の個体数変動機構、持続可能な漁業、非定常最適化

   2)ミナミマグロは絶滅するか(絶滅危惧生物の判定基準と持続的漁業)

8/6 3)ゲーム理論と協力の進化自然選択体験ゲーム、囚人のジレンマ演習)

   4)群集内の間接効果とその非決定性(Yodzisの理論)

8/7 5)野生生物管理(エゾシカ保護管理計画、不確実性、Feedback管理、齢構造)

【教科書】松田裕之(2000) 『環境生態学序説』共立出版
【参考書】R・アクセルロッド(1998) 『つきあい方の科学』(松田裕之訳、ミネルヴァ書房)、巌佐庸(1997)『数理生物学入門』,共立出版、重定南奈子(1992)『侵入と伝搬の数理生態学』

【担当教官から一言】 質疑は電子メールで行う。上記ホーム頁http://www.nat-museum.sanda.hyogo.jp/rsc/keitou/spx/dnld-spx.htmlから「自然選択体験ゲーム」を入手して体験しておくこと。

なお、期間中に情報科学科談話会 8月5日16-17時 も開催します。
「生態系管理とフィードバック管理」


No.1 サバの未来を読む(浮魚類の個体数変動機構)

密度効果の誤った検出方法(時系列解析)
カオスの判定方法(リアプノフ指数)
Tuljapurkarの理論
マイワシとタビネズミの個体数変動様式の相違点
魚種交替の3すくみ説(Heteroclinic cycle=May-Leonard軌道)
反証可能性と実証可能性の違い

魚はいつ、何歳から捕るべきか(1)
絶滅危惧生物の判定基準(ミナミマグロ問題)
ミナミマグロは絶滅するか、ミナミマグロは回復するか(逆ベビーブーム現象) 

浮魚類の個体数変動機構  マイワシの話 

問題:漁獲後資源量一定方策の長所と短所を述べよ/「泳がせ捜査」と未成魚保護の関係を述べよ/成長乱獲と加入乱獲の違いを述べよ

top


No.2 ゲーム理論と協力の進化 

自然選択体験ゲームSPXの破り方(人工生命と遺伝的アルゴリズム
進化的に安定な状態(ESS)と進化ゲーム
小型魚を守るべきか?とるべきか?

群集内の間接効果 exploitative competitionとapparent competition
襲い分けによる捕食者の共存 apparent mutualismとexploitative mutualism
群集内の間接効果とその非決定性(Yodzisの理論)
多様性と安定性

反復囚人のジレンマゲーム(実際にやってもらいます)
  アクセルロッド「つきあい方の科学」松田訳,ミネルヴァ書房
松田裕之・木村紀雄(訳)(2002)フェアプレーの経済学(Sigmund K, Nowak MA, Fehr E. The economics of fair play. Scientific American) ,日経サイエンス32(4):78-85 これに紹介されている「最後通牒ゲーム」も、実際にやってもらいます

top


No.3 エゾシカ保護管理計画と生態系管理

エゾシカの大発生 adaptive management)
道東エゾシカ20万頭説 目視調査による個体数推定法
ヒグマ問題
生態系と生物多様性を守る基本理念=世代間持続可能性
景観=遷移と自然撹乱のつりあいがもたらすモザイク(双六理論)
非定常性(阪神タイガース問題)
明示された目標と評価基準=反証可能性
自然の恵みの3つの価値

エゾシカ保護管理計画 北海道庁・道東地区保護管理計画 top


情報科学科談話会 8月5日16-17時 も開催します。
「生態系管理とフィードバック管理」 松田裕之

 人間が無視できない影響を与えている生態系は、不確実にしてもともと非定常である。これを望ましい状態に維持管理するには、当座の管理計画を定めて継続調査し、望ましくない事態の兆しが見えたら対策を実施するというフィードバック管理という考え方が有力視されている。エゾシカのような個体群管理なら個体数が減ったら保護し、増えすぎたら捕獲するなど、この方法はわかりやすい。けれども、より複雑な群集を管理する場合には、単純に各種の個体数に応じた捕獲圧の調節では全体を維持できない。
 例として、2,3の魚種と漁業者からなる漁業生態系を考える。この場合、総漁獲努力量をフィードバック管理しつつ、卓越種を集中的に利用するスイッチング漁獲が有効である。この方法を従来の方法(魚種別の一定漁獲率管理、フィードバック管理など)と個体数変動幅、定常点の安定性、総漁獲量について比較するとともに、生態系管理の展望を議論する。
 時間があれば、国際捕鯨委員会下関総会で議論された生態系管理と捕鯨の是非の論争について紹介する。
Comments on Yodzis(2001) Must top predators be culled for the sake of fisheries? TREE 16:78-84