総研大講義

個体群生態学

松田裕之   更新

 個体群生態学は、四半世紀前には、当時の若手研究者から「終わった学問」とさえいわれていた。害虫防除、水産資源の乱獲、タビネズミの大発生などの諸研究が限界にさしかかり、進化生態学が魅力を持った時代のことである。しかし、その後の環境問題に正面から答えたのは、個体群生態学であった。絶滅危惧種、生物資源の乱獲と再生は、今日の環境問題の生物多様性と生態系保全の中の最重要課題の一つである。その発展を支えたのは、従来から個体群生態学者が備えてきた現場の問題に正面から答えるという応用力、その手法を理論的に整え普遍化する体系力、そして不確実性に対処する統計学のさらなる発展である。さらに、一見別の起源(最適化とゲーム理論)から興隆したかに見える進化生態学も、集団遺伝学と適応動態論の発展により、個体群生態学と融合したといえる。
 上記の視点から、個体群生態学の基礎、環境問題への実用事例だけでなく、学問の発展過程そのものを紹介し、科学発展のダイナミクスそのものを受講者とともに考える。詳細はhttp://ecorisk.ynu.ac.jp/matsuda/lecture/sokendai.htmlを参照。

1. 持続可能な漁業の古典理論とその限界
2. ミナミマグロの絶滅リスクと回復目標
3. 順応的管理とエゾシカ保護管理計画
4. 外来種問題(奄美マングース防除事業)
5. 辺野古米軍基地環境影響評価とジュゴンの絶滅リスク
6. 適応動態論と畏敬配偶の進化
7. 知床クマ保護管理方針
8. 個体群生態学の発展を支えたもの