IUCN Guidelines to Apply Categories to Marine Fish (in English)
TRAFFIC Oceanea "A Review of the Southern Bluefin Tuna Fishery" (in Japanese)
日本水産学会秋季大会(1996年10/10-12、九州大学箱崎地区)講演要旨
【目的】今年、世界自然保護連合(IUCN)の新基準に基づく絶滅危険種(Red Data List)が海産魚類でも列挙され、ミナミマグロ、西大西洋クロマグロ、南大西洋ビンナガマグロが危篤(critically endangered)と報告された。たしかにマグロ類の減少は深刻だが、絶滅の恐れがあるのだろうか?この報告の妥当性を個体群生態学的に吟味し、(1)新基準の問題点と(2)漁業資源の絶滅危機を評価する手法の開発、それに基づく(3)ミナミマグロの絶滅危機の評価を行う。
【方法】(1)IUCNの基準Aでは、過去3世代の親の減少率が80%以上の種を危篤とし、基準Eでは次の3世代の間に絶滅する確率が50%以上の種を危篤とする。絶滅確率は現存個体数、減少率の平均と分散に依る。この2つの基準が同じ程度になる現存個体数を求める。(2)現在までの減少率で500個体まで減る確率を絶滅の恐れの指標とする。(3)ミナミマグロ成魚資源尾数の推定値の30年間の変動からその年変動率の対数の平均と分散を求め、絶滅の恐れを見積もる。
【結果】(1)基準AとEが一致する現存個体数は2500個体程度であり、ミナミマグロに基準Aを当てはめるのは誤りである。(2, 3)ミナミマグロでは過去30年間の平均減少率は7.2%/年であり、この減少が今後も続くと敢えて仮定しても、3世代後(45年後)の絶滅の恐れは10-55で無視できる。ただしこの仮定では100年後の絶滅の恐れは99%と試算され、危急種と判定されかねない。今後も資源管理は極めて重要である。
【目的】持続可能な漁業を目指して乱獲を防ぐには、漁獲努力を減らす代わりに漁期を短くしたり、若齢魚を保護するのが有効である。本講演では、漁期制限と漁獲開始年齢を考慮して、持続可能な最適漁獲政策を考える。マサバ漁業を例に、まき網とたもすくい網漁業の漁期とそれぞれが取るべき年齢を考える。
【方法】ダイナミックプールモデル(Beverton and Holt 1957)を拡張したモデルにマサバ太平洋系群のデータを適用する。さらにこのモデルにおいて、SPR(加入当たりの産卵量)、YPR(加入当たりの収穫量)を求め、さまざまなSPRにおいてYPRが最大になるような漁期を計算機を利用して探す。SPRが高いほど加入乱獲を防ぎ、YPRが高いほど短期的な収穫が増える。比較のため通年漁期の場合と漁期を産卵期終了後の半年間と固定した場合についても考える。また、使用したパラメータの誤差を考え感度解析を行った。
【結果】シンプルな漁期政策でも最適漁獲政策に近くなり効果的である。ただし、通年漁期や最適な漁期では4歳から漁獲するのが良いが、産卵後半年漁期では3歳から漁獲するのが良いことが分かった。つまり、3歳までに生む産卵量が重要であることを示唆している。さらに、漁獲圧を大きくかつ、漁期制限を短くしてもその政策が最適漁獲とならず、むしろ一定の漁期の間に中庸の漁獲圧をかける方が持続可能な漁獲量が上がることが分かった。