哺乳類学会97年ポスター発表(札幌、97年10月10日)

エゾシカのFeedback管理の可能性

松田裕之(東京大学海洋研究所)

 北海道東部に分布するエゾシカは、近年個体数が増加し続けている。しかし、その絶対数や死亡率はよくわからない。不確実な知見をもとに個体数の大発生と激減を防ぐよう管理するには、feedback管理と呼ばれる手法が知られている。これは、個体数が増加傾向にあるときには捕獲圧を強め、減少傾向にあるときには捕獲圧を弱めるという管理方針である。
 けれども、捕獲圧の調整は個体数の増減の翌年または翌々年に行われる。そのため、被食者(シカに対応)と捕食者(捕獲圧に対応)の個体数変動に似た振動現象が生じ、適正規模に一定に管理することはむずかしい。被食者と捕食者系が安定になる最大の要因は被食者の密度効果だが、シカではよほど高密度にならない限り、目立った密度効果は期待できない。そのため、単純なfeedback管理ではかなり振幅の大きな増減を繰り返す恐れがある。
 そこで、目視調査などの相対的な個体数指数を用いて、それがある上限基準値を超えた場合に捕獲圧を強め、別の下限基準値を下回った場合に捕獲圧を弱めるようなfeedback管理を考える。それぞれ減少措置、増加措置と呼ぶ。個体数を過大評価は捕獲率の過小評価につながり、過度の減少をもたらす恐れがある。逆に、個体数の過小評価は大発生を抑えられない恐れがある。不確実な情報から減少措置の捕獲圧を決める場合、確実に個体数が減少するよう、かなり強めの捕獲圧に調整する必要がある。逆に増加措置中は思い切った保護策が必要になる。したがって、個体数の推定誤差が大きいほど、個体数振動の幅が大きくなり、個体数上限値を高めに設定せざるを得なくなる。今回の発表では、個体数推定値の不確実性の度合いとfeedback管理により予想されるシカ個体数の変動幅の関係について予測する。
 以上は、梶光一氏、宇野裕之氏、齊藤隆氏、平川浩文氏との共同研究に基づいている。
エゾシカ管理計画