転任の挨拶 2003年11月末日

 このたび,私は横浜国立大学環境情報研究院教授に着任し,東京大学海洋研究所を去ることになりました.
 1996年に当時の故松宮義晴教授に招かれて九州大学理学部助教授より東京大学海洋研究所助教授に着任して以来,水産資源学の発展と,水産資源学の理論の他分野への応用,生物多様性保全と持続的利用の社会的合意を目指して力を尽くして参りました.海洋研にいた田中昌一名誉教授の鯨類のフィードバック管理理論をエゾシカ保護管理計画に適用し,鳥獣保護行政における科学的計画的管理制度の先駆けとしました.また,ブリティッシュコロンビア大学の水産学者カール・ウォルターズ教授らが進め,陸海問わず世界の生態系管理の基本理念となったadaptive managementを順応的管理と訳し,日本の生態系管理に導入しました.
 3年前に松宮教授が急逝された後の教授人事で海洋研の皆さんに評価して頂けなかったことは,たいへん残念です.私は2003年11月までに56編の英文原著論文を出しました.数だけが評価対象ではありませんが,他の方と比べても十分に研究成果を上げていると思います.私に対しては,陸上の研究をしていること,応用研究や社会活動をしているなどの批判も寄せられていたようですが,海の研究も基礎研究も十分していたつもりです.基礎も応用も手がけることは時代の要請であり、海で生まれた理論を陸上に生かすことは、海洋研究の意義を広めるために必要なことだと今でも思っています。幸い,環境リスク論の日本における第一人者である中西準子教授の後任として横浜国大で採用して頂きました.
 秋になって、農学生命科学研究科の鷲谷いづみ教授が代表者である21世紀COEの生物多様性保全プロジェクトの海洋研における4名のメンバーの一人に急遽加えて頂きました.また、来春バンクーバーで開かれる世界水産学会議ではサブセッションリーダ***を拝命し、古典的MSY理論を超えた生態系管理理論を披露する機会を得ました。時代はそのうち変わります.皆さんが私を必要とする時代がくることと信じています.海洋研の皆さんからは多くのことを学ばせていただきました.今後ともよろしくご指導のほど,お願い申し上げます.

私の業績は下記のサイトをご覧ください.(Matsuda 56)
http://ecorisk.ynu.ac.jp/matsuda/gyoseki.html
**私の研究を紹介するNatureの記事 Size and the single sex cell 22 November 1999  HENRY GEE
http://www.nature.com/nsu/991125/991125-4.html
***Q3-1. Food web constraints to getting more fish and reconciling fisheries with conservation: Effects of fishing on increasingly smaller target species, including the effect on life histories. Food chain effects and fishery collapse. Session leader: H. Matsuda
http://ecorisk.ynu.ac.jp/matsuda/2004/040504.html