環境研究総合推進費 H23戦略研究開発プロジェクト構成研究課題

S-9 アジア規模での生物多様性観測・評価・予測に関する総合的研究(代表:矢原徹一)

FY2011-FY2015(目的

第1班:生物多様性評価予測モデルの開発・適用と自然共生社会への政策提言(代表:宮下直)

目的

サブテーマ6:生物多様性フットプリントの評価指標の開発

横浜国立大学 代表:金子信博 分担者:松田裕之、本藤祐樹 PD:西嶋翔太, D3:種田あずさ

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サブテーマ6の目標

森林伐採等の土地利用が絶滅危惧種に与える影響を評価する指標として、生物多様性への負荷(BF :Biodiversity Footprint)を定式化する。この指標を用いて、海外の森林を伐採し輸入する場合のBFから、輸入が国外の絶滅危惧種に与える影響を定量的に評価する。

本課題では、生物多様性のうち絶滅危惧種の評価に絞る。生物多様性フットプリント(BF)評価に必要な情報として、①アジア諸国における植生図、②絶滅危惧種リスト、③絶滅危惧種の分布域、および④特に農林水産物と観賞用動植物の物流分析が必要である。すべての分類群でこれらの情報が揃うわけではないが、木本植物、一部の草本植物については本学で集約したアジア植生図及びサブテーマ4から、猛禽類についてはサブテーマ1から、土壌生物については分担者金子の研究ネットワークから基礎情報を得ることができるが、他のサブテーマ及び関連研究者からのデータを元に手法を開発する。そのための特別研究員(PD)を雇用する。5年間で、これらの分類群についてのBF評価手法を開発し(松田)、BFの少ない農林水産業の土地利用のあり方についていくつかの地域で検討し(金子)、開発された評価手法に基づくBFが,ライフサイクル評価の視点から,製品や技術の評価および消費行動の評価において如何に応用可能かについて検討する(本藤)。

人間活動の生態系への負荷を評価する手法としては、エコロジカル・フットプリント(EF)が広く知られている。しかし、これは伐採した森林等の面積を評価するものであり、その森林に生息する絶滅危惧種への影響は評価されない。そこで、生物多様性への負荷(Biodiversity Footprint,以下BF)を評価する手法を開発する。その上で、木材輸入により海外の森林を伐採した場合などのBFから、EFと同様に負荷の輸出入を定量的に評価する。

H23 まず「手本」としてのEFの長短所を総括し(全員)、BFの評価手法の考え方を提案する(松田)。その上で、森林、遺伝子、陸水、海域の各チームとブレインストーミングを繰り返し、各生態系で深刻なBFの因子を抽出する(全員)。特に、森林チームと協働して必要なデータベースと必要項目の洗い出しを行なう(PD)。EFとBFを統合的に取り扱うために土壌炭素の増減を指標として土壌生物の多様性指標を抽出する(金子)。絶滅危惧種評価に関係する交易の情報を整理する(PD)。
H24 森林では植生ごとの絶滅危惧種の検討対象種リストを作る(PD)。遺伝子ではマメ科植物と土壌生物に注目し、絶滅危惧種の検討対象種リストを作る(松田・金子)。陸水では魚類など水産資源の絶滅危惧種について検討対象種リストを作る(松田)。海域では沿岸底生生物などの局所的絶滅危惧種の検討対象種リストを作る(松田)。
H25 上記の各生態系について、BFの評価手法を開発する(全員)。
H26 上記の各生態系について、BFの低減方法を検討する。また、新技術や新製品の導入が,ある地域のBFを低減させる他方で,別の地域のBFの増加をもたらすといったトレードオフの存在について解析する(本藤)。
H27 エコロジカルフットプリント評価と付き合わせ、より統合的な生態系・生物多様性への負荷の実態を検討する(松田、PD)。また、交易によるBFの輸出入の実態を明らかにし、我が国における財・サービスの需要が間接的にもたらす生物多様性への影響を分析することで、今後の消費行動のあり方を生物多様性の観点から検討する(本藤)。さらに、多様性の保全と生態系機能の確保の双方をめざす新たな農林水産業の姿について提案する(金子)。

成果


S-9全体の目的

拡大第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)に先だって発表された「生物多様性概況第3版」(GBO3,2010年5月22日発表)は、「2010年までに生物多様性損失を有意に減らす」という国際的に合意された「2010年目標」が達成できず、「生物多様性損失はさらに深刻化している」という結論を下した。また、同じく5月に環境省が公表した「生物多様性総合評価」(JBO)でも、「人間活動にともなうわが国の生物多様性の損失は全ての生態系に及んでおり、全体的にみれば損失は今も続いている」と結論された。しかしながら、これらの評価のほとんどは、モデルにもとづく定量的評価ではなく、専門家の判断による定性的評価にとどまっている。生物多様性の現状をより定量的に把握し、より客観的な将来予測を行うには、さまざまな空間・時間スケールのデータを総合的に評価可能なモデルを開発し、現時点で利用可能なデータに適用する研究開発が急務である。また、このようなモデルから得られる評価・予測をもとに、国内外の政策決定における科学的基盤を強化することが重要である。具体的には、生物多様性国家戦略などの国内政策、アジア各国の政策、CBD戦略計画やIPBESの国際評価などへの貢献が求められている。
 環境研究総合推進費平成23年度戦略的研究開発領域課題では「研究推進の考え方」として、以下の重点課題をあげている。
① 日本およびアジアスケールでの生物多様性損失評価を可能にするモデル・手法を開発する。このため、衛星画像よる信頼度の高い損失評価法を開発するとともに、戦略的に重要な地上観測データのデータベース化を早急に実施し、生物多様性損失評価に活用する。
② 種多様性が深く関わる生態系機能・サービスを適切に評価する指標・モデルを開発する。
③ 保護区設定にあたって、どの地域・海域を優先すべきかを決定する手法を開発する。
④ IPBES、CBD、REDD+などの国際的協議において説得力のある提言を行う。
 本研究は、公募領域2-5と密に連携をはかりながら、①各領域の研究開発のギャップを埋める、②モデル構築・統計解析などの点で各領域を支援する、③各領域から得られるアウトプットを総合し、環境政策へのアウトカムに結び付ける、という3つの役割を果たす。これらの研究を通じて、上記の4つの重点課題に応える。


第1班の目的

公募領域1の研究開発の目的は、以下の3つに要約される。
① 遺伝子・種や個別生態系にまたがる複合的な生態系(モザイク景観:里山や農業環境など)における生物多様性の定量評価と将来予測を行い、公募領域2-5の研究開発のギャップを埋める。
② アジア規模での生物多様性の総合評価を可能にするモデルを開発し、公募領域2-5のアウトプットから、政策提言を導く。
③ これらを総合することにより、より強固な科学的基盤にもとづく、自然共生社会への提言を導く。
公募領域2-5の研究開発によって以下のようなアウトプットが期待され、また以下の政策課題への貢献が求められている。

領域 期待されるアウトプット 必要とされる政策提言
遺伝子・種 レッドデータブック 
ホットスポットの地図
絶滅危惧種を守るために有効な対策・優先順位
保護区以外にあるホットスポットの保全指針
森林生態系 生態系サービスの地図 森林機能の地図 生態系サービスを考慮したゾーニング指針
REDD+における生物多様性評価指針
陸水生態系 湖沼・ため池・河川・湿地の健全度ランキング 健全度の低い湖沼・河川の自然再生事業指針
健全度の低いため池・湿地の生態系管理指針
海洋生態系 海洋保護区候補海域の地図 サンゴ礁・藻場・干潟の健全度地図 持続可能な漁業管理のための海洋保護指針
サンゴ礁など脆弱な生態系の管理指針

 公募領域1の達成目標は、第一に、これらのアウトプット・政策提言が全体として整合性を持ち、かつ科学的に妥当なモデルに依拠し、十分な客観性を持つように、支援することである。したがって、上記の表にリストされたアウトプット・政策提言のセットを整えることが、公募領域1のアウトプットである。第二に、公募領域2-5間をまたがる課題(農業環境、貿易による他国への負荷)について、定量評価のための新たな指標(生物多様性フットプリントなど)を開発し、国内およびアジアにおける適用研究を行い、農業や貿易・開発援助のあり方についての政策提言を行う。


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