環境生態公開セミナーのお知らせ
2017年2月3日15:10-17:15 環境情報3号棟101室(交通案内 学内地図)
15:10 夏川遼生さん(慶応大学4年生)都市化により断片化された孤立林で繁殖するオオタカの繁殖成績に影響する環境要因
15:45 葉山雅広さん(東北鳥類研究所 小笠原支部)東北地方におけるクマタカの分布と繁殖に影響する要因
来聴歓迎します。
夏川遼生 慶応大学環境情報学部4年生
生態学の基本的な目的に生物の個体数変動に影響する要因とメカニズムを解明することがあげられる. 鳥類の個体群動態の解明には, 種や個体群の繁殖成績に影響する要因を示すことが重要である. 近年, 日本に生息するオオタカは, 都市部での繁殖が確認されている. しかし, 都市部においてオオタカの繁殖成績に影響する要因を示した研究はない. そこで, 2014~2016年に都市化により断片化された孤立林で繁殖するオオタカの繁殖巣あたりの巣立ち雛数を調査し(n=84), 巣立ち雛数と環境要因の関係を調査年と繁殖地をランダム効果に指定した一般化線形混合モデル(GLMM)を用いて解析した. 調査および解析の結果, 2014~2016年のオオタカの平均巣立ち雛数は1.7羽/繁殖巣であり, 巣立ち雛数には, 営巣木の樹冠閉鎖率が有意 な正の効果を, 隣接ペアの巣数が有意な負の効果をそれぞれ示した. 営巣木の樹冠閉鎖率が正の効果を示した理由は,捕食者, 直射日光, 風雨による影響を減少させるためと考えられ, 隣接ペアの巣数が負の効果を示した理由は, なわばり防衛による時間的コストの増大や, 種内競争による採食適地の減少が生じるためと考えられた.
東北鳥類研究所 小笠原支部 葉山 雅広
希少種の猛禽類であるクマタカの分布と繁殖に影響する要因について、D論としてまとめた内容からお話しします。なお、D論全文は岩手県立大学機関リポジトリ(総合政策研究科平成26年度)からダウンロードすることができますので、ご興味を持っていただいた方はご覧ください。
クマタカの分布に影響する要因
東北地方の6県(青森、岩手、秋田、宮城、山形、福島)で確認されたクマタカが営巣している地域とランダムに選択した対照区の地形や植生を比較し、解析を行った。既往研究でのクマタカの分布予測モデルは、いずれも地形的要素が重要であることを示していた。しかし、これらは道府県を単位にしたモデルが多く、多雪地域においては降雪量が地形や植生などの景観に強く影響していることが知られているものの、気象条件の違いを加味した広域での検討はなされていない。そのため、本研究では、年最深積雪深が50㎝以上の多雪地と50㎝未満の少雪地の営巣地を比較することで、クマタカの分布に影響する要因が異なっているのかを検証した。その結果、クマタカの繁殖分布に対して、地形的要因が作用する強さが多雪地と少雪地では異なっており、そこには地形と雪と植生の密接な関係がうかがわれた。
クマタカの繁殖に影響する要因
クマタカの繁殖結果に影響する要因を明らかにするため、山形県の北部で調査した。本調査地の森林はブナ林が広く占めているが、ブナは種子生産の年変動が大きい樹種であり、豊作となった後にはハタネズミとアカネズミの生息密度が爆発的に上昇することが知られている。クマタカはニホンリスやノウサギなどの小~中型の哺乳類、ヤマドリなどの小~大型の鳥類のほか、アオダイショウなど多様な種を採食する。クマタカが捕食する種にはブナの種子の消費者とそれらの捕食者が含まれており、これらの種はブナの結実状況によって生息密度が変動すると推測される。そこで、ブナの結実状況に着目してクマタカの繁殖に影響する要因を分析した結果、クマタカの繁殖結果に強く作用する要因は、前年のブナの結実状況によって異なることが明らかになった。
問合せ先 松田裕之 045-339-4362