生態系アプローチに基づく漁業管理とは
2019年10月13日作成 2020年4月8日最終更新 松田裕之(業績リスト,研究室)
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日本学術会議 「提言 わが国における持続可能な水産業のあり方―生態系アプローチに基づく水産資源管理―」松田メモ(リンクの一部は松田による)
- 海洋生態系とその生物資源の持続可能な利用を図るためには、単一種の管理方式を補完するように、不確実性を持つ生態系の動態に対応する生態系アプローチに基づく水産資源管理に拡張すべきである(iii頁)
- 徹底した現状分析に基づく将来ビジョンと目標を定め、その目標を達成するために、不可逆的な被害のおそれがある場合には完全な科学的な確実性がなくてもその防止を行う予防的アプローチ(iii頁)
- 常に現状をモニターし随時評価して見直しと修正を行う順応的管理(iii頁)
- 生態系アプローチ型管理:本管理方式では…予防的アプローチと…順応的管理を取り入れる。順応的管理では科学者と利害関係者によるモニタリング調査研究、及び両者に政策決定者を加えた組織によ る評価と合意形成による共同管理のフィードバック体制を構築すべきであろう。共同管理のガバナンスは、生態系の健全性のもとに水産業の持続性が可能となるように三者の合意形成を図ることが基本となる。そのため、生態系アプローチ型管理の実現には、沿岸社会との連携を図りつつ生態系の多様性を維持すべきである。また、科学者はこれま でのように専門分野での科学的深化に努めるとともに、生態系生態学の研究をベースと する自然科学と沿岸社会における経済学や政策学に関する研究などの社会科学とを合
わせた学際的な科学研究体系の確立を図る必要がある。( iv頁)
- 科学者、行政関係者及び漁業者の三者の科学情報に基づく緊密な話し合いによる共同管理co-management(P9)
- 生態系アプローチ型管理の実現には、沿岸社会との連携を図りつつ生態系の多様性を維持すべき(iv頁)
- わが国の調査研究機関や高等教育機関が100年以上にわたりモニタリングにより蓄積してきた海洋の環境と生物資源のデータは、海洋生態系を評価して変動予測を行うために重要である(iv頁)
- 世界的に水産物需要が増加し生産量が拡大する中で、最近の日本の水産業は生産及び消費の両面において縮小傾向にある。(P1)
- Future Earth (2014)(1)では、解決を目指す地球規模の大課題をあげているが、海洋生態系と水産業に関係する課題として、①すべての人へ水、エネルギー、食料を提供する、②人間の福祉を支える陸上、淡水及び海洋の各生物資源を保護する、③変化する生物多様性、資源、気候のなかで、持続可能な農漁村の開発を促進する、④人々の健康を改善する、そして⑤公正で持続可能な消費と生産のパターンを探る、ことがあげられている(P1)
- 日本学術会議では、2003年の政府諮問の「地球環境・人間生活に関わる水産業及び漁村の多面的機能の内容及び評価について」に対して2004年に答申を行った[2]。また2011年3月11日の東日本大震災、特に大津波が与えた未曾有の大災害からの水産業への復興に向けて2011年に東日本大震災対策委員会・食料科学委員会水産学分科会が、2014年に食料科学委員会水産学分科会が提言を行ってきた[3,
4]。(P1)
- 1990年代以降、沖合漁業の生産量は後述するように、数十年間隔で起こる海洋生態系の転換(2)(レジーム・シフト)で生じた魚種交替でマイワシ資源量が激減して著しい影響を受けた。(P2)
- 資源水準が低位の系群が平均45%(38~51%)と半数近くを占め、その83%(69~93%)が減少あるいは横ばい状態となっている。(P3)
- Ichinokawaら[5]は、…わが国の漁獲量の61%に相当する37系群について最近の資源状態を評価した。その結果、それらの約50%が過剰漁獲及び過剰漁獲状態と評価された(P3)
- FAOは、…さらに地球上の多くの生態系で生物多様性が低下し、一部の構成種の生存が漁業の過剰利用や外来種の侵入により脅かされている現状に鑑み、1995年に「責任ある漁業のための行動規範」を採択した。*これは漁業への生態系アプローチ(Ecosystem Approach to Fisheries, EAF)の考え方を示している。(P4)
- 生物多様性条約第5回締約国会議(2000)において生態系アプローチの12原則が採択された。(P4)
- 漁業では、海洋生態系の食物網において栄養段階の上位種に最初に高い漁獲圧がかかる 場合が多く、また種レベルあるいは個体群レベルでも成長が遅く高齢で性成熟する大型魚
から個体数を減少させる傾向にある[35]。過剰漁獲でマグロ類やサメ類などの大型種が減少すると、カタクチイワシなどの小型種やクラゲ類が多くなり、漁業対象種の栄養段階が
低下するという現象が 1980 年代に欧米などの各国で起こった[36]。生態系の構造の攪乱は、 数多くの栄養カスケード効果 (4)が働くことで増幅される[37, 38]。(P9)
- 生態系に基づく管理(Ecosystem-based Management)あるいは生態系ア プローチによる資源管理の展開が必須である[41]。漁業管理への生態系アプローチは、不確実性に基づく順応的管理と予防的措置、生態系に関する知見、インセンティブに基づく 自治的管理が要素となる[25]。(P10)
- 水産資 源の生態系アプローチ型管理においては、食物網、栄養カスケード、生物種間の相互作用、 生態系サービスなどの生態系の構造と機能をモニターしつつ、種あるいは個体群レベルで
水産生物資源を管理していくことになる。その実行においては、適切な生態系指標や生態 系レベルでの管理目標、管理基準の設定が重要である。(P10)
- 水産資源の生態系アプローチ型 の水産資源管理のために、そのビッグデータの管理と解析から海洋生態系評価と生物資源 の変動予測システム確立のための研究体制とシステムを構築していく必要性がある。この ような観点から、水産学分科会では「第 23 期学術の大型研究計画に関するマスタープラン (マスタープラン 2017)」において「マリンビジョン・ネットワーキング計画:地球環境
変動に対応するビッグデータ解析システム利用の広域沿岸水域生態系解析と海洋生物資源 の持続的利用のための研究所点の形成」を提案した(計画番号26学術領域番号15-1)[48]。(P10)
- 現状から判断する限り、わが国における水産資源 管理の将来目標は、①水産資源の回復とその利用のあり方、②水産資源の生産の場であ る海洋生態系、特に沿岸生態系の構造と機能の復元、そして③海洋生態系のモニター体
制の確立とモデル化が必須である。それらの目標に向かってバックキャスト的手法を取 り入れて、段階的に持続可能な水産資源管理の確立を行っていくべきであろう。(P12)
- 生態系アプローチ型管理の実現には、沿岸社会との連携を図りつつ生態系の多 様性を維持することが基本となる。したがって、科学者側はこれまでのように専門分野
での科学的深化に加え、生態学の研究をベースとする自然科学と沿岸社会における経済 学や政策学に関する研究などの社会科学とを合わせた学際的な科学研究体制の確立を
図る必要がある(図3)。(P13)