科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)基盤研究(C)(一般)20K06180 2020-2022
松田 裕之
①資源動態モデルの不確実性、種間関係や環境変動を考慮した代替モデルでも成り立つような各魚種のABC決定規則を提案する。②単一魚種でなく、代替魚種の資源状態も考慮した複数魚種のABCを一括して決定する規則を提案する。③各漁業種の中長期的な経営戦略に関係者が納得できる資源管理の政策決定システムの提案を目指す。それらを解決する重要な理念は「生態系アプローチの12原則」にある「管理目標は社会の選択」、「不可逆的影響を避けるための順応的管理」、「入口規制や自主管理の効果をTAC等の出口管理に反映する」ことと考える。漁業者や環境団体が納得できる頑健な管理目標を定めることが重要である。
本研究は3つの要素からなる。それぞれ研究協力者とともに進め、水研の西嶋翔太博士など、水研などが進めるデータ解析との相違などについてのコメント、東京大学大気海洋研究所の牧野光琢教授とニッスイ中央研究所永野一郎博士には彼らが知りえる海外の実態、国内の他の制度との政策学的比較法の助言等を随時仰ぎつつ進める。
①魚種交替やレジームシフトを考慮した資源管理モデルを開発する。複数のモデルで頑健な資源管理方策を検討する。魚種交替については仮に魚種交替理論(3すくみ説、松田業績A8)が予測したように、マサバの高水準期は早晩終わり、マイワシが優占するかもしれない。今後資源が減少期に入ることも考慮し、それでも将来の資源枯渇に備えて漁獲率を控えたほうが良いか、減少期に入る前にある程度漁獲率を高めたほうが良いかを検討する。また、現在のABC決定規則は産卵親魚量(SSB)のみを指標として用いているが、未成魚もある程度考慮した産卵ポテンシャル(PRP、業績A40、A45)を指標として用いることを試みる。クロマグロについては既に予備的な解析を進めている。特に工夫がいるのは雌雄別に漁獲するズワイガニ、ベニズワイガニや性転換するホッコクアカエビである。未成魚豊度の情報を生かすことで、より合理的な資源管理が可能となるはずである。競合関係にある同じ漁場の2種のABC決定規則を理論的に検討する。②前項では種間関係やレジームシフトを考慮しても、なおABCを魚種ごとに定めることを想定したが、より明示的にある魚種のABCを決める際に、当該魚種の資源状態だけでなく、他魚種の資源状態も考慮するABC決定規則を検討する。特に、相対的に資源量が多い魚種に優先してTACを配分するスイッチング漁獲(業績A46、A49)の有効性を検討する。これを、同一漁場で種間関係があると考えられるマサバとマイワシ、さらに、種間関係はないが代替資源となりえる太平洋と大西洋のクロマグロなどについて、スイッチング漁獲に基づくABC決定規則を最新のデータを用いてより具体的に検討する。③加工利用の側からも、両種が代替資源として機能するならば個別の漁獲量でなく、代替資源の漁獲を連動させた経営戦略が必要である。漁業の利益は漁獲量に比例するものではなく、各代替資源の需給バランスや中長期的な設備投資に左右される。これらについては牧野教授博士、永野博士と議論しつつ進める。申請期間は申請者の定年までの3年間とする。その間に大きく発展するめどがつけば、新たに分担者を迎えて後継計画を準備する。
漁獲可能量 順応的管理 環境変動 魚種交替 生態系アプローチ
漁業法が改正され、多くの魚種で漁獲可能量(TAC)制度対象となることが要請されるようになった。資源再建計画見直しの手順や意思決定手順も整いつつある。しかし、いくつか問題がある。①生態系に基づく漁業管理(EbFM)が提案されて久しいが,漁獲可能量(TAC)決定規則は国際的にもいまだに単一資源モデルであり,EbFMに即した発展が期待されている。②レジームシフトが十分考慮されず、順調に回復しているマサバでもかなり抑制したABCが設定されている。③クロマグロなどではTAC決定過程と漁獲枠配分過程の関係が不明確であり、漁業者の反発が根強い。本研究では,「産卵ポテンシャル」「コースの定理」と「スイッチング漁獲」という生態学と経済学の概念を用いて,現実のABC決定過程を別のモデルで検討するとともに,EbFMに即したTAC決定規則を提案し,TAC魚種の資源管理にも資するEbFMの発展を目指す。
Link 生態系アプローチに基づく漁業管理とは