持続可能な水産物の地域格付けの評価手法の開発(案)

2017.6.16作成 2017.7.31最終更新 松田裕之(横浜国立大学)

(1) 研究目的
 近年、内外で持続可能な水産物を消費者が選別するための認証や格付け評価が盛んである。海外では海洋管理評議会(MSC)認証制度などがあるが、国内ではマリンエコラベルジャパン(MEL)のほか、格付けの取り組みとして2012年8月に公表したWWFジャパンの寿司ガイドなどがある。ただし、これらについては批判もある。評価手法の客観性、透明性、更新頻度など、モントレー水族館のSeafood Watchのような欧米の推奨リストに比べて十全とは言えない。せっかくの民間の環境配慮が正当に評価されない事態が生じるのは、環境保護活動に負の影響を与えかねない。特に、Conservation Internationalが提唱した海洋健全度指数については、福島原発事故以後の放射性物質への注意が足りないことまで指摘されているという。
 ふくしま海洋科学館でも、Happy Oceansという独自の推奨リストを作っており、水族館内で寿司屋を開いている。水族館が資源量の安定した「ねた」を中心として提供することで、教育効果も期待できる。さらに、来年11月5~10日にふくしま海洋科学館で世界水族館会議が開催される。福島県を想定し、どのような水産物を推奨することが持続可能性を担保し、持続可能性を消費者とともに考えるうえで有効か、その方法論を、日本の水産庁の水産資源評価、Seafood Watchなどの国際的な格付け制度、原発事故のひざ元の福島で何ができるかという観点から検討する。

(2) 研究内容:
 日本の水産物の持続可能な利用の信頼性が問われている。一つの問題は、日本の水産庁の漁獲可能量(TAC)制度の根拠となる資源評価が信頼されておらず、水族館や環境団体が官製の資源評価を利用しても信頼されないことである。これはアジア発のMSC(海洋管理評議会)漁業と言われた京都ズワイガニ漁業の認証が更新できなかった際にも問題となった。
 しかし、日本の水産庁と水研機構による資源評価自体は詳細な情報が集約されている。独自に国際的に信頼される格付けをする材料とすることは可能である。また、フードマイレージを考慮することで、持続可能であっても輸入品ばかりに頼らず、国産の水産物を推奨する地域格付け基準も可能と考えられる。海外においても、Saving Seafood Investigationのように地域格付けがSeafood Watchの格付けと異なる例がある。それは地域振興など、地域社会の持続可能性を総合的に追求する取り組みを目指し、持続可能な開発目標(SDGs)全体への評価が必要となるだろう。さらに、東北産の水産物の放射性物質調査の結果は詳細に公開されており、福島産を含む水産物を推奨することも可能と考えられる。さらに、福島産の水産資源は操業自粛により回復している資源が多々あると考えられ、むしろ、持続可能な水産物として評価される。
 さらに、格付け制度には福島産水産物に関するリスクコミュニケーションおよび持続可能な開発のための教育(ESD)への貢献も期待できる。水族館としてすべきことはふくしま海洋科学館が検討しているが、これをモデルケースとして、地産地消の水産物を推奨するための地域限定の格付け制度の在り方を検討する

(3)関連する研究・活動実績

水研機構の資源評価外部委員、ユネスコにおけるSDGとESD、放射線リスク、Pew海洋保全フェローの実績を生かし、地域の持続可能な発展に資する水産物利用の方途を消費者とともに考え、学びあう方法論を確立する。


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