東京大学工学部
「システムプランニング」

松田裕之

質問、意見は 164 東京都中野区南台1-15-1 東京大学海洋研究所  松田裕之まで tel.03-5351-6494 fax.03-5351-6492
email:matsuda@ori.u-tokyo.ac.jp

H.Matsuda photo

進め方:前半を松田が担当する。出席とレポートで評価する。事務に提出する履修届以外に,私宛てに以下の要領で電子メールを出して欲しい.matsuda@ori.u-tokyo.ac.jpにsubjectを「system planning」とし、本文1行目に「学籍番号,氏名」の順にコンマで区切って書く.2行目以降に質問や要望などを自由に書くこと。講義中の質問には原則として電子メールで返答する.昨年までの質疑応答の一部は拙著「環境生態学序説」の問題提起のページに掲載した。
参考書:松田裕之「環境生態学序説−持続可能な漁業、生物多様性の保全、生態系管理、環境影響評価の科学 」(共立出版2800円)
松田裕之「
『共生』とは何か」(現代書館) 以下の文中に(○章)とあるのは、「環境生態学序説」の章番号,(松田,○頁)とあるのは、「共生とは何か」で紹介されている頁を表す。 その他、各週の講義のたびに紹介する。
各週の講義内容は以下の通り
1. 非定常系としての浮魚資源
2. 最適化問題と水産資源の持続可能な有効利用
3. 不確実性と非定常性に備えた野生生物の管理計画
4. 持続可能性、生態系サービスと快適さを評価する環境問題
5. リスク評価と予防原理に基づく保全生態学
6. CyberneticsとSynergetics=ガイア仮説と地球共生系


目次に戻る

1. 非定常系としての浮魚資源(第1章)  世界の魚種のうち、半分以上は既に十分漁獲されているか、乱獲されているという(世界の漁業の現状FAO水産庁)。しかし、イワシなどのプランクトン食浮魚(うきうお)類は資源が豊富であり,鯨類は人類の漁獲量の数倍の魚を食べていると言われる(鯨類研究所).問題は,これらの浮魚類の資源量が時代とともに大きく変動する非定常系であり、安定した漁獲量が期待できないことである.イワシはタビネズミと並んで変動幅の大きな生物として知られている.なぜ変動するのか,その仮説をいくつか紹介する.

 Keywords: リミットサイクル,カオス,スイッチング捕食、クジラ,イワシ


目次に戻る

2. 自由競争と漁業の乱獲問題、最適化問題による持続的利用(第2章) OHP(PowerPointfile)
 
漁業で獲る魚は無主物ないし共有物、つまり誰のものでもないとされ、誰でも自由に参入できる産業であるとされた。このような漁業のあり方は国内問題としては否定され、漁業を行うには自由に売買できない漁業権が必要であり、農水大臣許可、知事許可が必要な漁業もある。国際的にも、国連海洋法条約概説)により自由参入から規制管理へと移りつつある。これは時代に逆行しているように見えるが、その背景を考える。魚類などの野生生物資源は親を残さないと次世代の子供が産まれない。乱獲は生態系に影響を与えるだけでなく、長期的な経済的利益をも損なう。それにもかかわらず、なぜ乱獲は生じるのか。乱獲を防ぐための手だてには、どんなものがあるか?(松田、153-185頁、216ー218頁)
 魚介類は小さいうちに獲るべきか、大きくなってから獲るべきか。従来は資源を次世代に残すことは考えず、いかに有効に利用するかを最適化問題で解いてきた。持続可能性という制約を考慮しても、条件付き最適化の技法で解くことができ、それは直感的な解釈が可能である。マサバ(松田170-176頁)とセタシジミの例を用いて紹介する。

 Keywords: 最大持続収穫量、共有地の悲劇、未定乗数法、加入乱獲、成長乱獲、割引率、繁殖価

目次に戻る

3. リスク評価と予防原理に基づく保全生態学(第3章,第4章)
 現代は、生命の誕生以来、第6の大量絶滅の時代と言われる。人間の環境への負荷が増えすぎた今日、もはやすべての野生生物への悪影響を根絶やしにすることはできない。絶対安全ではなく、危険性(risk)の低い政策を選ばなくてはいけない。ところが生物の絶滅の恐れ(IUCN Red List Categories)は、限られた情報と実証されていない前提に基づいて計算せざるを得ない。さらに、人々はまだまだこのような相対的な危険性という考え方に不慣れであり、少しでも危険だとわかったものは極力避け、実証されていない危険性には目をつぶってしまう。危険性をどう科学の俎上に載せるか、植物レッドリスト環境庁の頁)と環境化学物質の事例をもとに紹介する。
 Keywords: 危険性評価、危険性・便益性評価、予防原理、risk communication
 参考文献:
鷲谷いづみ・矢原徹一(1996)『保全生態学入門』(文一総合出版)、中西準子(19955)『環境リスク論』(岩波書店)、J.V.ロドリックス(1994)『危険は予測できるか』(宮本純之訳、化学同人)


目次に戻る

4. 不確実性と非定常性に備えた野生生物の管理計画(第5章)
 北海道のエゾシカは、乱獲と大発生の繰り返しであった。1998年、大発生したエゾシカを適切に管理するために、道東地区
エゾシカ保護管理計画が公表された。この計画は私を含めた生態学者の意見を取り入れて作られている。その骨子は、エゾシカは自然状態でも変動するものであり、生存率、繁殖率、個体数などがよくわかっていない。このように非定常で不確実な野生生物でも、監視(monitoring)を続けていけば個体数を適切な範囲に維持することができる。これはFeedback制御と呼ばれる工学的手法の応用であり、近年、生態学では順応的管理(adaptive management)と呼ばれる。この管理計画は鳥獣保護法改正の手本でもある。
Keywords: Feedback制御、順応性adaptability、改善責任accountability、Tuljapurkarの理論、監視monitoring、情報公開disclosure、管理手続きmanagement procedure


目次に戻る

5. CyberneticsとSynergetics、囚人のジレンマにおける協力の進化(第6章,7章)
 システムには二通りある。cybernetics(制御系)とsynergetics(協同系)である(松田119-152頁)。神経系・免疫系・内分泌系は前者の典型で、目的を達成する上で効率的なシステムである。生態系や人間社会は後者の典型であり、各要素が独自の目的を持ちながら、相互に孤立しては存在し得ず、密接に関連している。
 生態系や人間社会は協同系であり,全体の利益でなく,個々の利益(生物の場合は「利己的遺伝子」)を追求する.ではなぜ協力関係が発生し,維持できるのかをアクセルロッド「つきあい方の科学」(松田訳,ミネルヴァ書房)にしたがって紹介する.また、自然淘汰を体験するゲーム(兵庫県博のダウンロードサービス)を通じて,生物進化のメカニズムを紹介する.講義の前にこのゲームを入手して体験されることを勧める.

 問い:企業のあり方として「ホロニック・マネジメント」という概念があるらしい。上記のシステム論との関係づけて紹介せよ.
 Keywords: 薬剤耐性、間接効果、襲い分け、利己的遺伝子、群淘汰


目次に戻る

6. 持続可能性、生態系サービスと快適さを評価する環境問題(第8章,10章)
 1996年にアメリカ生態学会がまとめた生態系管理に関する委員会報告をもとに、生態系保全の基本的な考え方を紹介する。放置すると遷移する生態系がところどころ自然かく乱を受けて後戻りし、不均一なモザイクとして維持される(移りゆく自然を保全することの矛盾)。その意義は、私たちの世代が享受してきた自然の恵みを次世代の人々に残すこと(持続可能性)である。自然の恵みとは、農林水産業で利用できる生物資源としての価値だけでなく、分解・浄化・酸素供給などの生態系サービス、快適さ(amenity)などを含めた自然資産の見積もりなどを紹介する。また、持続可能な発展(sustainable development)の是非を巡る議論、人口・食料・資源問題を紹介する。今年から施行される日本の環境影響評価法に見られる環境アセスメントの考え方と比較する。
 Keywords: 開放系、リスク管理、遷移、自然かく乱、メタ集団、景観landscape
 原科幸彦編『環境アセスメント』(1994,放送大学教育振興会)



レポート課題(松田担当分:6月末までに機械系事務室に提出または松田宛に電子メールで提出すること)
 原発や新幹線などのシステム管理の例において、不確実性、非定常性、リスク管理、説明責任、非決定性、適応管理、危険性の周知(risk communication)などの概念が具体的にどう取り込まれているか(あるいはどう取り込むべきか、取り込む必要がないか)を自由に論ぜよ。あなたが取り上げたシステム管理の例と、講義で紹介した生態系管理との性格の違いも考察せよ。その際、参考にした文献などを明記すること。 先頭に戻る