【講義名】 数理生態学(Mathematical Ecology)
【開講時期】毎年開講、後学期 【単位数】1−0−0
【担当教官】松田裕之非常勤講師(長津田・G5棟3階)
【講義の目的】生態系は人為的影響がなくても絶えず変化する非定常系である。また、生物の生き方は、自然淘汰を通じて進化してきた。それらのダイナミクスを力学系やゲーム理論などの数理的手法を用いながら解説し、環境影響評価や生態系管理などに応用できる数理生態学の理論と手法の修得を目指す。
【講義計画】集中講義を行う。詳しくはこのホームページhttp://ecorisk.ynu.ac.jp/matsuda/lecture/tokodai.htmlを参照。下記の から講義で用いるMicrosoft PowerPointファイルを落手可能。
1)サバの未来を読む(浮魚類の個体数変動機構、持続可能な漁業、非定常最適化)
2)ゲーム理論と協力の進化(自然選択体験ゲーム、囚人のジレンマ演習)
3)絶滅の恐れとは何か(マグロの絶滅確率、植物Red Data Book、環境Risk論)
4)野生生物管理(エゾシカ保護管理計画、不確実性、Feedback管理、齢構造)
【教科書】松田裕之(2000) 『環境生態学序説』共立出版
【参考書】R・アクセルロッド(1998) 『つきあい方の科学』(松田裕之訳、ミネルヴァ書房)、巌佐庸(1997)『数理生物学入門』,共立出版
【科目履修上の条件】 特になし
【成績評価】講義直後に提出する小レポートにより評価する。また,以下の課題について,メールにてレポートを提出し,その後の受講者と講師とのメール討論に参加すること.
原科幸彦(2003.6.23日経新聞経済教室「『戦略的アセス』導入急げ」)にある「公共事業を適切に選ぶためには合理的で公正な判断が必要である.(中略)例えばPIをやれば環境アセスメントはやらなくてもよいという声も耳にするが,これは間違っている.PIをきちんとやると言うのであれば,環境アセスメントはその必須事項である」という主張の根拠を,本講義の内容に結びつけて論じよ.その際,以下の単語を用いること(ゲーム理論,不確実性,合意形成,順応的管理,反証可能性).
【担当教官から一言】 質疑は電子メールで行う。上記ホーム頁http://www.nat-museum.sanda.hyogo.jp/rsc/keitou/spx/dnld-spx.htmlから「自然選択体験ゲーム」を入手して体験しておくこと。
No.1サバの未来を読む(浮魚類の個体数変動機構)
カオスの判定方法(リアプノフ指数)
マイワシとタビネズミの個体数変動様式の相違点
魚種交替の3すくみ説(Heteroclinic cycle=May-Leonard軌道)
反証可能性と実証可能性の違い
問題:漁獲後資源量一定方策の長所と短所を述べよ/「泳がせ捜査」と未成魚保護の関係を述べよ/成長乱獲と加入乱獲の違いを述べよ
No.2 進化生態学と個体群生態学の統合
被食回避と採餌努力のトレードオフ Houston-Abrams論争
捕食者が増えると被食者も増える? 弱気な植食者
群集内の間接効果 exploitative competitionとapparent competition
襲い分けによる捕食者の共存 apparent mutualismとexploitative mutualism
食物網グラフ理論 Link-Species比例則、Cohenの区間グラフとSugiharaの穴
群集内の間接効果とその非決定性(Yodzisの理論)
多様性と安定性の逆理
自然選択体験ゲームSPXの破り方(人工生命と遺伝的アルゴリズム)
反復囚人のジレンマゲーム(実際にやってもらいます)
アクセルロッド「つきあい方の科学」松田訳,ミネルヴァ書房
雌雄同体魚の卵の取り引き
No.3 絶滅の恐れとは何か(保全生態学)
人口学的揺らぎと環境揺らぎ(人口学的MVPと遺伝的MVP)
偏微分をめぐる3つの逸話(生物拡散、量的遺伝模型、人口揺らぎ)
集団存続可能性解析(Population Viability Analysis)
絶滅危惧生物の判定基準IUCN Red List categories
環境庁版植物レッドデータブック 植物Red Data Book 環境庁の頁
環境化学物質のリスクと予防原理(precautionary principle) 1995リオ宣言
参考書 中西準子『環境リスク論』(1996,岩波書店)、ロドリックスJV(1994)「危険は予測できるか!化学物質の毒性とヒューマンリスク」(宮本純之訳、化学同人)、中西準子「環境問題空騒ぎ」(新潮45)国立犀潟病院 臨床研究部 池田正行「狂 牛病の正しい知識ーあなたも,”ゼロリスク探求症候群”?ー」
No.6 エゾシカ保護管理計画と生態系管理
エゾシカの大発生 と順応的管理(adaptive management)
ヒグマ問題
生態系と生物多様性を守る基本理念=世代間持続可能性
景観=遷移と自然撹乱のつりあいがもたらすモザイク(双六理論)
非定常性(阪神タイガース問題)
明示された目標と評価基準=反証可能性
自然の恵みの3つの価値