知床世界遺産科学委員会 等での松田の意見

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リンク  
知床データセンター
知床財団
IUCN調査団報告書 英文和訳
環境省北海道釧路自然環境事務所知床世界遺産 科学委員会WG議事概要
愛知万博と知床世界遺産候補地問題の対応表
知床世界遺産候補地管理計画
 「知床」の世界自然遺産推薦
第一管区海上保安本部「知床沿岸環境対策室」

以後の意見は公開書簡のキーワードで[知床]を検索してご覧ください
2007-01-12
エゾシカ特別管理地区の目標捕獲頭数について
2006-12-16 北方四島問題としての知床世界遺産
2006-11-03 科学委員会海域作業部会の議事要旨とは
2006-10-27 海域管理計画への水産庁の関与について
2006-10-26 海域管理計画における漁獲量の取り扱いついて
2006-10-21 エゾシカWGへの書簡
2006-09-28 漁業者はエコツアーガイドになれる
2006-09-24 9.22オホーツク実学市民公開講座のお礼
2006-09-09 世界遺産科学委員会海域作業部会での松田の意見
2006-07-23 昨年度末の海域WGでの松田の主な発言
2006-04-08 科学委員会座長意見書
2006-04-07 海域管理計画について
2006-04-06 利用適正化委員会との連携について
2006-03-09 3.06函館 水産海洋シンポの報道
2006-03-07 3.10シンポジウム参加の呼びかけ
2006-03-05 エゾシカはまだまだ増えるか?
2006-02-21 世界遺産エゾシカ管理計画での議論
2006.1.20 科学委員会座長意見「今後の知床世界自然遺産登録地に関わる科学委員会と地域連絡会議の関係、及び、科学委員会の位置付けについて

 この間の登録の経緯に関する資料(下記科学委員会座長意見書、コメントを除く)は環境省サイトを参照
2005.5.29 IUCN技術評価書(英文・仏文和訳
2005.3.24 IUCN再度の意見に対する政府回答
2005.3.14 IUCN再度の意見に対する 科学委員会のコメント
2005.2.2環境省記者発表IUCNからの再度の書簡概要
2004.11.5政府のIUCNへの回答 (英文,和文
2004.10.14科学委員会 座長意見書 
2004.8.20 環境省記者9.24記者発表IUCNの書簡概要 

2005-06-01 知床世界遺産 科学委員会への書簡
2005-05-26 (6.1公開) 6月27日講演予定 海洋フォーラム
2005.3.25 科学委員会に関する北海道新聞の報道記事について
20053.12 Re: 海域WG助言修正案 050311について
2005.3.11 (6.1公開) 海域WGへの書簡 re:海域WG助言素案
20052.25 知床世界遺産問題:今朝の新聞記事
20052.24 (3.25公開)知床世界遺産: 初回WGの日程
2005.2.23 (3.12公開) 知床世界遺産候補地 規制強化のアイデア
20052.19 (3.25公開)知床世界遺産問題 海域WGへの書簡
20052.18 (3.25公開)知床世界遺産候補地 科学委員会への投書
20052.17 (3.25公開)知床世界遺産候補地 海洋G 関係者各位
2005.2.16 知床世界遺産候補地問題(2.2付けIUCN文書へのコメント)
2004.11.5 書簡
2004.11.4書簡
2004.10.29科学委員会の答申と地元の合意について
2004.10.13付け 電子書簡
2004.10.12付け の電子書簡(2005.5.30公開)ロシアとの関係
2004.10.11付け の電子書簡
2004.10.8付けの 電子書簡
2004.10.7付けの 電子書簡
2004.9.28付けの 電子書簡


2004.9.28付けの松田の科学委員会座長向けの書簡
知床財団 ○○様(科学委員会に転送自由)

 座長から問い合わせのありました【IUCN意見についての】件について,私見を述べます.

1.推薦地の海域部分が沿岸1kmに限られ、しかもそれが緩衝地域とされていること
2.50基のダムのサケへの影響調査が急がれること(魚道整備等の対策が必要)

 まず,最も問題なのは,このIUCN文書が8月下旬付けで公式に送付されたにもかかわらず,科学委員会には9月末になるまで具体的には知らされず,北海道新聞が欧州で取材してIUCNが公式に指摘を認めたあと,日本政府が対応に乗り出したという点です.
 ほとんど,1999年に愛知万博で博覧会国際事務局(BIE)に批判されたあとの通産省の対応とそっくりだと思います.新聞に出るかどうかはIUCNの批判自身とは無関係であり,この間の対応の遅れは問題解決に致命的な打撃となる恐れがあり,たいへん遺憾です.
 私は,愛知万博の環境影響評価委員を務めていましたので,上記の対応との類似を身にしみて感じます.

 IUCNが指摘したという事実のあとで表立った対策を採らないのは,(BIEのときと同じく)相手を説得する可能性のあるうちは省庁間の関係で公にできない(要するに,従うつもりがない)ということと推測されます.
 つまり,愛知万博では,省庁間の意思疎通が欠け,1999年秋にBIE視察の折に指摘された批判を秘匿し,2000年1月に中日新聞が暴露するまでなんら対策を採らず,報道後に初めて抜本的な計画変更に着手しました.愛知万博の教訓を,愛知万博でも当事者だった環境省も含めた日本政府がなんら生かしていないことを物語っています.

 批判された点を解決せずに,世界遺産登録を拒まれる道を歩むことは,日本政府にとっても大きな損失であり,(愛知万博のときと同じく)そのような選択はしないだろうと期待します.しかし,省庁間の合意はできていないことでしょう.早く問題を全国民の前に明らかにし,解決に向けた取り組みを始めるべきです.

 具体的な問題については,私の見解は下記のとおりです.
1.IUCN視察前にも,漁業管理についていっそうの対策を講じるよう意見を申しました.海外の海洋保護区(MPA)の保護策が最善といえないというのは自由ですが,MPAは最も情報が少ないときに有効な方策であり,きちんと情報をとって管理するならいざ知らず,漁獲量以上に有効な情報のないまま,MPAを作らないで持続的利用ができるという反論は,まったく説得力がありません.
2.不勉強にして,50基ものダムがあるというのは知りませんでした(いただいた管理計画の資料を見ても,ダムの記述はほとんどありません).サケの保護とダムの撤去は世界の趨勢であり,居住区ならいざ知らず,世界遺産候補地で魚道も作らないダムがたくさんあることは,反論の余地がありません.
 あくまで一般論ですが,魚道はすべての遡上する魚介類に有効とは限りません.ダムを建設したときの理念は,おそらく「自然遷移にゆだねる」世界遺産候補地の管理計画とは異なるものだったと推測します.理念が変更されたなら,ダムを撤去することも検討すべきです.50基すべてのダムについて,早急に,撤去,魚道設置などの対策の必要性とその生態学的社会的意義を検討すべきだと思います.

横浜国立大学 環境情報研究院 松田裕之


2004.10.7付けの 電子書簡
科学委・シカWG各位

松田です

 ○○委員が@モニタリング・インベントリ項目として提案した下記の意見に賛成です.これは海洋保護区(MPA)の候補地を科学的に探る上でも必要です.
”・過去のデータの収集とデータベース化。
     これまで蓄積されてきた漁獲データ等(漁協や水試が保持)や哺乳類や海鳥の分布や個体数などを地図上に落として可視化(GIS化)し、過去からの種々の海洋環境(水温、水深、海底環境)と合わせることにより、海の状態やそこに棲む生物が過去から現在にどのように変わってきたかを把握(現状把握)、現在の問題点を整理することが最も大切である。海の中の変化は可視出来ないので、それを可視できる手段が必要で、そのためにも海洋GISの基盤を作成し、過去のデータをデータベース化することが最重要だと考える。
・知床の「海の生物相」のリスト作成およびモニタリング優先種の選別。
 知床の海には多くの生物が生息しているが、海の生物には回遊するものも多い。各生物が知床の「海」をどの時期、どこを、どのように(繁殖or餌場or成長等)利用しているのか、各生物の状態(絶滅危機等)をリストにすることにより、知床の海の特徴を把握でき、その上でどの種をどのようにモニタリングしていくべきかを考えることができる。”
 実際に設置が合意できるかは,そのあとの問題であり,科学委員会としては上記のような情報をもとにして,できるだけ現実的なMPAの候補地を複数選定すべきだと思います. ただし,MPAの面積を固定する必要はないと私は考えています(場所は固定します.場所を毎年変える場合は輪採制という別の概念です).これは,Kai & Shirakibara (in press,Fish Sci)に保護区面積のフィードバック制御という理論が提唱されたことに基づきますが,情報が少ないときに設定したMPAは,その後のモニタリングによってより正確な情報が蓄積され,生態系の状態が変化した場合には,保護区面積を増やしたり,減らしたり,場合によってはゼロにすることが可能です.
 持続可能な人と自然のかかわりという点で合意されているなら,持続的な漁業と生態系保全が立証されるまで保護区を設け,順調ならその面積を減らしていくということは,合意されやすいと思っています.
Kai M & Shirakihara K (2004) A feedback management procedure based on controlling the size of marine protected areas. Fish. Sci. in press (必要な方は私か○○に請求してください)
横浜国立大学 環境情報研究院 松田裕之


2003.10.8付けの 電子書簡

科学委員会・エゾシカWG各位

 座長助言案拝読しました.今までの議論を踏まえ,たいへん良く書かれていると思います.
 その後,ダムについてもWGを作るという提案が○○委員から出されており,これも海域保護と同様の文言に盛り込んではいかがでしょうか.
 また,この助言の成案は,環境省に提出すると同時に,HPなどで公開されることを望みます.
 日本の環境行政において,科学委員会が機能し,定着するかどうか,非常に重要な局面を迎えていると認識しています.

横浜国立大学 環境情報研究院 松田裕之


2004.10.11付け の電子書簡(抜粋)

科学委員会委員各位様,

・・・
 MPAには明確な定義はありません(NoTakeZoneという言葉もありますが,MPA=NTZとは限りません).上記の保護管理水面が何らかのMPAの定義に合致するならばすでに設置していると説明すればよいし,そうでなければ,面積の多寡はともかく,MPAを設置すると答えたほうがよいと私は思います.
 必要なら,世界遺産候補地を返上するという選択肢も地域協議の場で残しておいてもよいでしょう.そうでないと,議論がすすまないかもしれません.本来は議論を尽くしてから回答すべきだと思いますが,時間がありません.
 MPAの面積の改変は国際的に認知された方法ではありませんが,先日文献を紹介したように,adaptive managementの一環であると説明すれば,理解していただけると期待します.IUCNが納得したら,(エゾシカの順応的管理と似たような)面積改変のための科学的基準を至急WGで準備し,地域を含めた場で合意する必要があります(これなしには,認められないでしょう).
横浜国立大学 環境情報研究院 松田裕之


Date: Tue, 12 Oct 2004 13:12:15 +0900

科学委員・エゾシカワーク各位 & 財団事務局様

>●P2L19:IUCNの指摘は「1kmしかない」であり、この個所での修正にはならない
>・・・科学委員会として”1km以上の拡
>大”を意味するものでないことを確認しあえるなら、原文のままでよいと思います。
 上記○○委員のご意見に納得しました.

>●座長修正文のP2下段から2行目:「科学委員会としても・・・・憂慮している。ロ
>シアに協力を呼びかけるとともに、」を入れておくべきか、削除すべきか困惑
 下記を改めて調べてみました.結論から言うと,削除してもよいと思います.ただし,コメントとしては残しておいてもよいと思いますから,科学委員会で指摘された「発言」として,議事録に残してはいかがでしょうか.

 平成16年度魚種別系群別資源評価票(ダイジェスト版)のスケトウダラの各系群オホーツク海南部では「資源の回復のためには、現在より漁獲水準を引き下げることが必要 ロシア水域の漁獲状況の情報収集が必要 ロシアもTACを設定して漁獲規制を実施している(東サハリン海域:5千トン) 」とあります.
根室海峡
「1986〜1992年度には、ロシアのトロール船団が、本海域周辺において15千〜172千トンの
漁獲をあげた。ロシア側の報告によると、データのある2000年および2003年度(9月末まで)
の漁獲量は、10千トンおよび1千トンであった。」「本海域に分布するスケトウダラについ
ては、若齢期の情報もロシア水域での分布と回遊の情報もなく、資源と漁獲の関係を検討
することは難しい。しかし、本海域のように狭い海域で、産卵群を対象に漁獲を行なえば、
その効率は索餌期に比べれば高いと考えられ、資源に全く影響を及ぼさないとは考えにく
い。産卵親魚の保護という観点からすれば、漁獲量のほとんどが産卵親魚であり、その漁
獲量が最大時の1割を割り込むような状況では、何らかの回復のための措置を考えるべきで
ある。そこでABClimitは過去5年間の漁獲量の平均値×0.7、ABCtargetはABClimit×0.8と
した。なお、ロシアは「南クリル」海域(オホーツク海側、太平洋側を含む)の2004年の
TACを10千トンと設定している。 」とあります.
 水研側でも現在日ロの科学者交流などを通じて情報の収集に努めていると認識している
ようですので,我々がロシアだけを悪者にするような記述はしないほうがよいでしょう.
 なお,この「生物学的許容漁獲量」の答申から中央漁業審議会を経て実際の漁獲量が設
定されます.(これはまだだと思いますが・・・)


2004.10.13付け 電子書簡

科学委員会委員各位様

たびたびすいません.
(中略)
 私が申したのは
1)現時点で推薦地自身を1kmから拡大することは合意が難しいだろうし,桜井委員の陸棚域の趣旨からも,その必要はないだろう.
2)海洋保護区を登録地の周辺に拡大することは,漁民を含めた合意があれば制度としては可能だろう
ということです.それを今から持ち出す必要はないと思いますが,IUCNのコメントどおりだと思います.私は,大いに期待しています.それには,時間をかけ,国内できちんと合意をとることが大切だと思います.

 問題は
1)MPA内で何をどう保護するかということ
2)候補海域のどこにMPAを作るかということ
3)その理念をどう定め,面積を変更する基準をどうするか
4)それらをいつまでに,どのようにして合意するか
ということだと思います.
 MPAの定義はhttp://www.pac.dfo-mpo.gc.ca/oceans/mpa/what_e.htmによれば
All Marine Protected Areas under the Strategy would: Be defined in law(法律で定義する)
Protect all or a portion of the elements within a particular marine environment Ensure Minimum Protection Standards prohibiting:
ocean dumping dredging the exploration for, or development of, non-renewable resources
とあります.このminimumをクリアするのは,難しくないでしょうが,IUCNに指摘され
た趣旨からすれば,すべての漁業を禁止する必要はないでしょう.保護の水準を上げた場
所を,明確に定義したMPAとして設定すればよいと思います.その定義が一見して抜け
道だらけと言われなければ,説得できると思います.

 私の理解では,MPA内では定置網漁業はやめたほうがよいと思います.ただ,もう少
し複合的に考えて,中核区域は原則魚網禁止,そのほかにさまざまな保護区域を設けるこ
とも可能です(後者は,すでにやっていることと関連付けられるはずです).生態系の健
全性にいくつかの指標(管理計画に明記する必要があります)を設けて,それを満たせば
中核区域は縮小(消滅)させ,もし再び悪化すれば拡大(復活)させるようにしてもよい
でしょう.
 大事なことは,漁業が産業として成り立ち,生態系も健全に維持される状況を実現することだと思います.それがこの管理計画の理念だと理解しています.

横浜国立大学 環境情報研究院 松田裕之


10.29 科学委員会の答申と地元の合意について

科学委員会・エゾシカWG各位
 松田です.

 IUCNへの回答期限が11・5?まで延びたと聞きました.
 10・14の科学委員会の答申の後,新聞記事をいくつか拝見しました.朝日・毎
日・読売の道内版には答申の内容が紹介されていましたが,肝心の道新には報道がな
く,昨日から今朝にかけて,道新では「新たな規制をもらず」ということ羅臼の漁業者
と大筋で合意したと報道されています. 
 道新の読者は,科学委員会の存在さえ忘れていることでしょう.
 海洋保護区は,もともと生態系保全と持続可能な漁業の両立を図るものです.もちろ
ん保護区内では漁業が大きく規制されますから,そこで操業していた漁業者にとっては
死活問題ですが,保護区を定めることで,周辺海域での持続可能な漁業を保障するため
の制度です.たとえば下記サイトには,持続的漁業sustainable fisheriesという言葉
が並んでいます.http://mpa.gov/mpa_programs/federal_programs.html
 仮に漁業の操業海域内のごく一部に保護区を設ける場合,その分だけ漁協全体として
規制を受けるのでしょうが,ある漁業者だけが漁業ができなくなるのですか?
 最大の問題は定置網でしょう.
 多利用統合的海域管理計画では,ますます持続可能性を検証せずに利用を高めるとい
う印象を受けます.多目的ダムのようなものですね.

 科学者としては,MPAを設けろということはできません.しかし,世界遺産登録申
請のあとのIUCNからの意見を,現在進めている回答が満たしているかどうかを科学
的に検討する責務があると思います. 申請は,あくまで地元の合意によるものです.
 新聞報道だけでは真実はわかりませんが,@科学委員会の意見が地元に反映されてい
ないこと,A保護のレベルを上げろというIUCNの意見と29日付道新記事の見出しで
「新たな規制盛らず」および本文最終段落の”漁業者は「すでに相当の自主規制を行っ
ている」と反発”という報道内容が合致しないことは明白です.

 通常の事業などの有識者会議/検討会などでは,科学者が納得すれば事業を円滑に進
めることができるでしょう.今回はそうではありません.IUCNが納得することが大切です.われわれの責務は,IUCNの意見を事前に予測し,対応を準備すること,対外的にはわれわれが対応していることでIUCNの信頼度を高めることだと思います.
この違いを,(愛知万博のときもそうでしたが)行政のかたがたは理解されていないように思います.
 さて,報道だけではなんともいえませんが,IUCNが納得するか,その前にわれわれが納得するか,そもそもわれわれは地元との合意内容になんら関与できなくてよいのか, 皆さんのご意見をお聞かせください.
 なお,科学委員会の答申を公表するはずでしたが,まだです.いつになるのかも教えてください.


11.4書簡

科学委員会・エゾシカWG委員各位

松田です

(下記を書いたあとで石城さんのメールを拝見しました.たいへんご苦労様でし
た.石城座長のご尽力に敬服します.梶委員のメールにもありますが,合同事務
局から何を付託されたかを明確にする必要があります.場合によっては,科学委
員会の解散という選択肢もあると思います.
 繰り返しますが,我々はIUCNが満足する,かつ地元で合意可能と考えられる回答を助言したのであり,それに「不快感」を公然と示したということは筋違いです.愛知万博の2000.1.13中日新聞報道に「あなた方の選択だ.万博の理念と引き換えにできない」とあるように,IUCNとしては世界遺産登録に必要なことを助言したのであり,それを満たすかどうかは日本側の問題です.)

「第7回知床世界自然遺産候補地地域連絡会議」および下記HP
http://www.sizenken.biodic.go.jp/park/higashihokkaido/topics/8/
で公開されたIUCNへの回答案を拝見しました.どんな訳語が使われるかが重要です.
 海洋保護区(MPA)という言葉を使っていないのは大問題(登録が認められな
い可能性があります)ですが,下記5点を見る限り,禁漁区を例に漁業活動を管
理する新たな取り組みを決め、モニタリング項目も専門家(科学委員会と理解)
の意見を求めつつ策定することとあります.これは評価できます.
 しかし,長期的な管理海域においても、推薦地内海域にはじめから限っていま
す(調査海域には周辺が含まれている).これではIUCNの意見を否定しているこ
とになります.
 さらに,多利用型統合的海域管理計画の訳語が問題です.常識的にはたとえば
integrated marine management program for multiple utilization などとなる
のでしょうが,これでは「利用」だけが前面に出て,protected areaとは理解さ
れないでしょう.つまり,IUCNの意見を正面から否定したものになります.MPA
は明確な定義がないのだから、MPAを作るといって、実質的にはそれほど変わら
ないものができたかもしれませんが,あえて相手の助言を否定する道を選びまし
た.
 また自主管理をどう訳すかも問題です.漁協ベースの管理ということで,
community-based managementとするなら,これは海外でも評価され始めた(今年
5月の世界水産学会議の講演要旨などを参照.ただしこれは科学的な知見も含め
た管理です)ものですからよいのですが,たとえばvoluntary regulationなどと
訳すと,評価されないかもしれません.
 短期的にも保護のレベルを高めるというIUCNの意見にも,なんら答えていませ
ん.

 いずれにしても,科学委員会がこれから下記の項目にどこまでかかわるか,それが担保されるかが重要です.科学委員会の意見書が回答案提示まで公表されず,かつ結果としても回答案に反映されたとはいえません.我々の意見が合意形成の際に提示もされず,反映されないなら,科学委員会は解散するほうがよいでしょう.

○推薦地内海域を世界自然遺産地域として保全するため、今後、同海域及びその
周辺海域における持続的な水産資源利用による安定的な漁業の営みと海洋生物や
海洋生態系の保全の両立を目標とする海域の多利用型統合的海域管理計画を策定
する。
○この管理計画においては、これまでの漁業関連のルールを基調として、主要な
水産資源の維持の方策及び海洋生物・生態系の保全管理の措置並びにそれらのモ
ニタリング手法、遊漁をはじめとする海洋レクリエーションのあり方等を明らか
にする。
○多利用型統合的海域管理計画の作成に当たっては、推薦地及びその周辺海域に
おける海洋生物、漁業活動や遊漁の実態調査を実施し、専門家の助言を得て、漁
業者をはじめ地域関係者の合意のもとに今後5年から10年程度を目処に作成す
る。
○短期的には、2005年から漁業者・漁業団体と連携して、専門家の意見も聞
きながら推薦地を含む沿岸海域において、スケトウダラ等主要魚種の産卵等に重
要な海域の特定のための調査を実施するとともに、海洋生物、漁業活動などの詳
細なモニタリング調査を実施する。
○その調査結果を検証したうえ、水産資源及び海洋生物・生態系の保全管理の観
点から、現在、漁業者・漁業団体が自主的に設定しているスケトウダラの資源管
理のための禁漁区や禁漁期間を例として、推薦地内海域の漁業活動を管理する新
たな取組みを検討し、知床世界自然遺産地域連絡会議で2008年までに明らか
にする。

 いずれにしても,これはIUCNの意見を満たしていないと思います.
 海外でダムの撤去が検討されている事例でも,もともと不要だったものはあり
ません(フーバーダムはニューディール政策の産物といわれてますが).この説
明でIUCNが納得するならば,はじめから意見を言うことはなかったでしょう.

 河川工作物については,私の認識が違っているかもしれませんので,正確な情
報を寄せてください.回答書案の「住民」とは漁師の番屋にすむ漁師を含むので
すか.そこに戸籍を置く住民がいるのですか?
 番屋というのは,増水で壊れても漁業者は避難可能であり,再建可能なものだ
と理解しています.増水頻度によりますが,一般の住居(これもリスクはゼロで
はない)に比べて,増水リスク対策の必要性はもともと低いはずです.その点,
具体的にどのように検討したのか,データがありますか?(中西・益永・松田編
「演習 環境リスクを計算する」参照)
 ふだん枯れた川だから魚道が必要ないということですが,この場合のふだんとはどの程度の頻度でしょうか?いついかなるときでも遡上はないと理解してよいのでしょうか?個別の例は知りませんが,たとえ数十年に一度の遡上でも,それが個体群維持の上で重要であることは数学的に考えられます

 トドの駆除について意見を求めなかったIUCNは,十分日本の状況を理解した上で意見を述べていると思います.


11.5 書簡
科学委・シカWG 各位

松田です

1)意思疎通が十分でなかったこと、
2)科学委の役割についての認識にずれがあった。・・と言うことです。
>普通はこのような委員会は、事務局側が用意した議題についてだけ議論した
>り、諮問を受けた内容だけに答申する、と言うことのようです。合同事務局はそ
>のような姿を想定していたのに、委員会が自律的に動き出したことに当惑していると
>言うのが実態でしょう。

おっしゃることがわかりません.9・26付けの事務方からのメールでは石城座長より,末尾のような問いかけがあったはずです.
 座長回答案はこれに即したもの(すなわち,IUCNの意見に対する回答への助言)だったと思います.作業部会を立ち上げるというのは,科学委員会がそのような対応をすることがIUCNを説得するために有効と判断したからだと理解しています.

 たしかに,IUCNの意見に対して,どのような立場から回答するかについては,何の付託も受けていません.しかし,世界遺産登録に必要な対応を助言すると考えるのが自然であり,我々はそのように対処したと思います.

 科学委員会の役割についての認識にずれがあったということならば,合同事務局がどのような認識を持っていたか,具体的に説明してください.
 この回答は,事務方(知床財団)からではなく,合同事務局(環境省)から直接回答いただきたいと思います.

>このような委員会における日常的なメーリングリスト上での意見交換というの
>は、国レベルの委員会的な組織では前例がない

 MLという形ではなく,このメールのように委員全員+事務局宛の同報送信でしたが,少なくとも,愛知万博検討会議では日常的に議論していました.そのことは環境省もよくご存知のはずです.

 下記,了解しました.
>1:メーリングリスト上での論議は、リストのメンバー全員にオープンにされ、
建設的な論議を行うこと
>2:メーリングリスト上で論議される内容は、構成メンバーが自由に提起する
ことができる。
>3:科学委・シカWG委員は、メーリングリスト上での論議の内容をメンバー外
に漏らさない。外部への情報発信が必要と考えられる際には、座長に提案し、座
長は合同事務局側と協議する。
>・・・と言うようなことを想定しています。


2.16 知床世界遺産候補地問題(2.2付けIUCN文書へのコメント)

IUCN文書ファックス拝受。
 2度目の機会をいただけるとはよかったですね。私は、1度目の日本の対応が不完
全だとみなされ、そのまま没になると思っていました。

 しかし、2度目の要求はかなりあからさまなものです。ここまで言わないとわか
らない日本側の姿勢に業を煮やしたともいえるでしょう。
 これだけ具体的に要求されては,ほかの手段でこたえることはできなくなりまし
た。(科学委員会助言でも,直ちに登録海域増加するとは言わなかったと思いま
す)http://www.rinya.maff.go.jp/puresu/h16-11gatu/1102b1.pdf
 海洋保護区という名前にはこだわらないでしょうが,少なくとも、日本各地にあ
る既存の保護区と同等のものを設置することは必要でしょう。
 下記原田さんの文献に,伊勢湾のイカナゴ量における保護区のことが載っていま
す。これは面積を毎年変える実例です(日本で数少ない、成功し機能している沿岸
資源管理の実例といってもよい)。

 海域管理計画の保護には,我々が主張している陸と海の関係も含めた保護も含ま
れます。したがって、河川についても、よりいっそうの保全策を考えるべきです
(IUCNの対応が不十分なために,おそらく、撤去という選択肢は遠のいてしまった
かもしれません。しかし、科学委員会としては撤去も含めた保全策を総合的に検討
すべきであり、最終的には道知事の判断も参考にしましょう)
http://www.env.go.jp/nature/isan/shiretoko/
「サケ・マスが遡上できるような魚道の設置については、既に一部の河川において設
置されているほか、専門家の意見を聞きながら設置を検討している河川もあるが、
通常は涸れ沢となっている部分に設置されている河川工作物など魚道設置が必ず
しも必要でない場合もあることから、今後も専門家の助言を得つつ設置の必要性を
調査し、必要とされたものについては、逐次魚道の設置等を行う用意がある。」
 科学委員会としては、この魚道の設置等には撤去も含まれると考えるべきだと思
います。河川工作物自身が必要でない場合もあるわけですから。

(中略)

http://www.fis-net.co.jp/~aquanet/aq-1/04-08.html
2004年8月号 水産資源管理のための海のゾーニング
三重大学生物資源学部生物圏生命科学科教授/原田 泰志

松田裕之



2.18 知床世界遺産候補地科学委員会への投書
○○様、皆様(○○さん、○○さん)

 私が予言したとおり、今回の事態は、2000年の愛知万博の迷走と類似の事態をたどっています。2・2IUCN文書は、2000年2月に万博協会がパリのBIE(博覧会国際事務局)に出向いて説明し、改めてあからさまに計画見直しを求められた事態に対応します。今回は日本側から(少なくとも表向きは)打診していないので、いきなりIUCNが却下する可能性がありましたが、親切にも二度目の意見を出してきたと理解しています。
(後略)
【追加: 愛知万博との類似性についてまとめた表を
http://ecorisk.ynu.ac.jp/matsuda/2005/EXPO-Shiretoko.htmlに掲載しました。】


Date: Thu, 17 Feb 2005 18:29:41 +0900
海洋G 関係者各位 【】は今回加筆
(前略)
 重要なことはfeasibility,つまり実現可能性です。生態学会 自然再生事業指針案には、【2−5 科学的命題と価値観にもとづく判断(自然再生事業指針(案)より)という】記述があります。「このような問題を科学的に検証し、関係者に判断材料を提供し、合意形成を支援することが生態学の役割である」ということです。
 そのためには、漁業者の意見も聞きながら,解を探す必要があるでしょう。実現可能な解があるかどうかは、やってみなければわかりません。
 ただし、「IUCN【の意見を取り入れ】と漁業者【が受け入れられる】の解を探す」という位置づけでないと,おそらく、どちらを満足することもできないでしょう。投稿論文で言えば、校閲者を納得させる改訂を行うという目的に絞ることがそれに対応します。「(IUCNにも漁業者にもおもねることなく)あくまで自分の主張を貫く」という姿勢では、論文が受理されがたいのと同じように、世界遺産登録も難しいでしょう。【中略】(多少不満があっても)論文の校閲意見を取り入れなければ受理されないのと同じく【末尾に酒井氏の金言を追加します。ご参考まで】、IUCN意見を取り入れなければ登録はかなわないと私は思います。【中略】

酒井聡樹 これから論文を書く若者のために の鉄則15
http://hostgk3.biology.tohoku.ac.jp/sakai/ronbun/korekara/korekara.html
15. レフリーコメントとにかく従え できないとこだけ反論だ ホー!
・・・あなたの目的は、これらの人々に議論で勝つことではなく論文をアクセプトさせることだ。自分の主張をはっきり述べた後は、「私の説明不足だったので説明を加えた」とか「表現が悪かったので表現を改めた」とか一歩身を引くこと。
10) 手紙の冒頭では、レフリーのコメントがとても貴重であったとゴマをすること。

 IUCNに「おもねらない」という言葉は若干心配です。上記の【酒井氏鉄則15の】姿勢が大切だと私は思います。


2.19 知床世界遺産問題 海域WGへの書簡

○○さん、皆さん

 本日はわざわざ東京までお越しいただいてありがとうございました。
 本日ご説明いただいたことを踏まえ、意見を述べます。

1)国・道のほうから漁協に対して、世界遺産のために新たな漁業規制はしない(2・
18の漁協への公約)
2)登録海域をsubstantiallyに広げる(IUCN2・2文書の条件)。
3)海域(生態系)の保護を強化する(IUCN2・2文書の条件)。
4)持続可能な漁業は世界遺産知床管理計画の必須の構成要素である(IUCNも認知)

以上4点を同時に満たす解を探すことになると理解しました。

1)今後も漁協の自主管理(community-based management)を基本とし、漁協が、持続可
能な漁業のために、資源保護の新たな対策を示す。これは漁協が遺産登録に協力してい
ただける場合で、義務ではありません。私(あるいは科学委員会)としては、彼らが協
力しなくても、新たな規制をしないという公約した合同事務局側に、遺産登録の責任が
あるものと認識しています。

2)国と道が、世界遺産登録を最優先課題とし、省庁間、道内各課の枠を超えてこの問
題に取り組む。現状では、登録はきわめて厳しい事態であり、IUCNからの具体的な要求
に答える必要があることを認識する。(愛知万博の跡地利用計画取り下げに匹敵するよ
うな大胆な対応策が必要)そのことを【地元の自民党】幹事長にも説明する。

3)漁業者の反対で遺産登録できないという事態は、漁業者のためにできる限り避ける
べきである。漁業継続に気遣う点では、IUCNも国や道に劣らない。(!)今後、世界的
にトド保護の圧力が増す可能性が高い。海外の保護運動勢力は漁業との共存は考えてい
ない。彼らもまたIUCNを利用しようとしている(IUCNは各国政府、環境団体という多様
な構成要素からなる。多様な意見を出すが、国際的な信用を重視する組織である)。い
ま、IUCNに「管理されたトド駆除を含む遺産登録」を認めさせることは、漁業継続の上
で千載一遇の機会である。(注1)

4)自主管理である以上、漁業補償はありえない(この点、確認してください)。ただ
し、世界遺産登録に向けた新たな取り組みに対する補助金という考え方が取れないか、
早急に検討してください(漁港建設、防鹿柵設置などは1/3から2/3程度の補助金がつく
はず。それと似たような枠組みを作れないか)。これはきわめて重要なことだと思いま
す。可能な場合でも、補助金を希望するかどうかは、漁業者の選択です。

5)私の認識では、科学委員会の役割は、合意形成の支援です。IUCNが納得できる条件
を見極め、その中で、漁業者も取り組める対応策が可能かどうか、科学的知見を助言す
ることです。今回の場合、新たな規制はしないというのが合同事務局の公約ですから、
決めるのは漁業者であり、合同事務局ではありません。合同事務局に招聘された科学委
員会よりも、むしろ漁協に招聘された科学者がいたほうが望ましいでしょう。

 おざなりの回答では、IUCNは納得しません。2度も意見を述べてきたのですから、彼
らも抜本的な回答が来ることを期待しているはずです。結論としては、遺産登録推薦、
条件付推薦(referその年に登録可能)、再提出(将来登録可能=要確認)、非推薦
(永久に無理)の4段階ありえると聞いていますが(詳しい規定文書がありましたらお
願い)、私の予想を以下に述べます。

1)推薦 となるのは、今回十分な対応を行った場合です。縦割り行政の壁がなく、遺
産登録を至上命題とするなら、これが可能です。相手はこうなることを期待しているで
しょう。そのためには、漁業の保護だけでなく、陸と海の連携についても、よりいっそ
うの具体的な配慮が必要です。
2)条件付推薦 となるのは、推薦に至る条件がそろうと将来十分に期待できるが、時
間的に回答が間に合わない場合です。
3)再提出 となるのは、形の上では対応したと回答したが、中身(特に1番目の保護
レベルを上げること)が伴わず、抜本的に時間をかけたほうがよいと判断した場合でし
ょう。
4)非推薦 となるのは、対応したと回答していないか、上記の条件が将来もそろわな
いと判断された場合でしょう。この場合は、日本から取り下げるのがよいと私は思いま
す。回答案を見て、科学委員会はこの助言も検討すべきです

 いずれにしても、26日には、漁業者の方にも自主管理の取り組みについて説明いた
だきたいと思います。また、できれば水産庁か道の水産担当者から、スケトウダラのオ
ホーツク系群のABC(生物学的許容漁獲量)を上回るTAC(漁獲可能量)が設定されてい
ることについて説明していただきたい。これは、対外的に、持続可能な漁業が行われて
いるとは理解されない事態です。
 ロシアの「乱獲」が管理を不可能にしているかもしれませんが、だから日本もたくさ
んとるというのは、IUCNには理解されません。たとえば、水産庁に適正漁獲のない国か
らの水産物輸入を規制する(マグロのOPRTの例がある)などの対策を示し、日本主導で
持続可能な漁業への展望を示すべきです。

注1)夏に札幌で開催される国際哺乳類学会では、国際捕鯨委員会科学省委員会前議長
のJudy Zeh女史(米国代表)が基調講演を行う。"Can whaling be managed to
protect whales and whalers?" (捕鯨は鯨と捕鯨業者を保護するように管理できるか?
)、このように、漁業資源と漁業者を守ることが重要です。まだこれは世界標準ではあ
りませんが、「持続可能な開発と生物多様性保全」の両立は生物多様性条約に明記され
た考えであり、日本の生物多様性国家戦略の方針でもあります。 反捕鯨団体などがこ
れを否定しようと、IUCNは今回トド駆除の禁止などとは一言も言っていない。彼らの認
知を得た遺産登録は大変意味があることです。


Subject: Re: 知床世界遺産候補地 規制強化のアイデア
Date: Wed, 23 Feb 2005 09:28:28 +0900

知床財団 ○○様 科学委員会の皆様

松田です

下記については、最大の利害関係者である水産庁にもしらせてください。

論点を整理します。
「IUCNの指摘した保護レベルを高めることと保護水面拡大」
「合同事務局がすでに漁協に約束した 新たな規制はしない」

これらを同時に満たす解は、 
「漁協が今まで行ってきた自主管理を進めて、保護レベルを強化する」
以外にはありません。 どんなに非常識といわれても,それが論理的な必然です

 ただし、Aさんの【以下の海獣類保護に関する】解は、ある意味では、おもに地元漁協以外に規制を加えるというものです。これが上記の漁協への説明に合致するかは、漁協に約束した内容を公式に説明いただいていないので、判断できません。

 しかし、これは世界遺産だけの問題ではありません。
1)世界遺産区域でツチクジラの捕鯨を禁止することは、日本政府が【沿岸捕鯨を】知床の海洋生態系保全と両立しないと認めることです。そんなことはIUCNも言っていない。昔、米沿岸の流し網漁業を数年だけ延命させるためにIWCでのモラトリアム留保を撤回したのと同じです。筋が通らないものです。目先の利害だけでものを言うべきではありません。
2)トド駆除禁止も同様です。これから世界的にトド保護の世論は高まります。保護運動家の大半は漁業との両立など省みていないと思います。世界遺産地域でトド駆除禁止を日本側から打ち出せば、早ければ数年後、遅くとも四半世紀後には、ほかの場所にも波及するでしょう。逆に、ここでトドの資源管理と両立させる世界遺産をIUCNに認知させることは,たいへん大きな効果があります。
 トドがどこに来遊するかは10年単位で変わります。今来遊しないからといって、将来も知床近海に来遊しないかどうかは、トドが上陸する岩場があるかどうかも検討すべきです。

 これらはともに、IUCNが求めるかどうか心配していたもので、日本側の説明を聞いたあと、具体的には求めなかったものです。せっかくの成果を無に帰すのは、私は反対です。

 しかし、新たな規制を設けず、自主的に保護強化するよう漁協に求めた上で、漁協がAさんの提案を自主的に望むなら,私には反対できません。結果的に漁業者に下駄を預けたのは「お上」のほうなのですから。
 世界遺産登録のために縦割り行政の壁を越えて抜本的な(愛知万博での跡地利用計画断念に匹敵する)対応が必要だと述べたのは私です。日本が捕鯨政策を転換し、トド駆除も禁止するとなれば、それを満たす条件であることは、私も同意します。ただし、それは漁業の死を意味すると私は思います。


Date: Thu, 24 Feb 2005 12:59:15 +0900
Subject: Re: 初回WGの日程
海域WGの皆様、

先日紹介した原田泰志さんの解説に,京都府の海洋保護区(ズワイガニ漁業)の例が載っています。うちのpost docの牧野光琢君が経済的,制度的側面からのこの研究を進めていて,昨日説明していただきました。そのときの発表資料をいただきましたので、関連する部分を添付します。

京都(や北陸)では、1983年に狭い海域ながら漁業者が自主的に海洋保護区(操業禁止区域)を作り,それが漁獲量を増やす効果があることを実感し、1998年からは半分ほどの海域を保護区に指定しているとのことです。

【中略】
保護区は持続可能な漁業を促すために考えられた制度であり,なぜそれを作らないことを始めに決めてから議論しなくてはいけないのか,たいへん残念なことです。京都の成功例をどう思っているのか、知床の漁業者のご意見を伺いたいと思います。

必要なければ、途中で保護区をやめてもよいと思います。それは、資源管理がうまくいっている(保護区に漁業促進の効果がない)ことがわかれば、それでよいのですから。


知床世界遺産問題 今朝の新聞記事
Date: Fri, 25 Feb 2005 11:23:33 +0900

直接はなしを聞かないとなんともわかりませんが,IUCNが求めているのは、持続可能な漁業と生態系保護との両立のはずです。 持続可能な漁業は漁業者の自主管理によって、漁業者の責任において行う。 ただし、ロシアとの関係、トドの来遊可能性など,外部との関係を無視できない状況に対しては、水産庁と道が可能な限り持続可能な漁業が可能になる環境を整える ここまでは合意できるのでしょうか?そのためには、水産庁が来てくれないと、何もできないと思います。「新たな規制を設けない」というだけで水産庁が当事者として関わらなければ、事態は解決しません。ロシア側とまたがった資源については,「共有地の悲劇」が生じている。すぐに解決できなくても、せめて来て,当事者として展望を説明していただかないと,合意できないでしょう。
 そして、IUCNは新たな管理(保護レベルを上げること)が必要だといっている。その具体的な方策については,漁協と話し合うしかありません。○○水試にも提案していただきたい。
 今後の管理計画を合意し,実施するのは国内問題であり、IUCNがいちいち口を出すわけではない。海WG(あるいは別の管理組織)が今後きちんと機能し、持続可能な漁業とトドなどの資源管理がきちんとできていれば、そこで合意形成すればすむことです。そのためには、互いの信頼関係が何よりも大切です。
 IUCNは,海獣のために魚を保護しろといっているのであって,持続可能な漁獲量を増やすためではない。しかし、漁業との両立を認め,トドの駆除さえ禁止を求めなかったのはたいへんな成果です。IUCNは合意したことは守ります。決裂すれば、将来別のことを日本に対して言う可能性があります。

 さて、海域を増やすのは,斜里側と羅臼側、両方必要なのでしょうか?それはどのような原則に基づくのですか?


 Date: Fri, 11 Mar 2005 05:05:13 +0000
3.11 海域WGへの書簡 re:海域WG助言素案
○○様、皆様

早速のお返事ありがとうございました。新聞報道された自主規制の拡大は、私が条件として述べた「新たな規制を求めない」「保護レベルを強化する」の唯一の論理的な解であった「漁業者が自主的に強化する」に該当するものです。漁業者側が出した最大限の前向きの回答であり、深く敬意を表します。 関係諸機関は、この漁業者の取り組みに答えるべきだと思います。

下記の件ですが、第2回WGの議事録には、「多用された」とお返事いただいた「自主管理」という言葉も出てきません。自主規制と自主管理は違うものです。重要なのは、community-based managementという言葉でIUCNに回答することであり、議事概要
に反映していただきたいと思います。ただし、緊急に重要なのは回答案ですので、急ぎません。
 以上、宜しくお願いします。
松田裕之


Date: Sat, 12 Mar 2005 09:12:02 +0900 (JST)
3.12 Re: 海域WG助言修正案 050311について

環境省の○○様、海域WGの皆様、関係各位

早速の修正案、ありがとうございました。
 まず1箇所追加提案です(今頃ごめんなさい)
「持続的な水産資源利用による安定的な漁業の営みと海洋生物や海洋生態系の保全の両立」という素案を桜井座長は「・・・漁業の営みと海洋生態系を構成する種と多様性の保全の両立」と訂正されました。これでは生態系の保全(食物網の維持など)が明示的に含まれません。多様性保全と生態系保全を併記するのが通常ですから、一方だけを書くのは誤解されますので、「・・・漁業の営みと海洋生態系とそれを構成する種の多様性の保全の両立」としてはいかがでしょうか。
 環境省の改定案は、むしろ生態系保全を併記した部分がいくつか見られます。私はそれを支持します。

 私の意見は、末尾に記した2箇所を除いて十分に反映されています。

【中略】

さて、私の意見が反映されない以下の2点ですが、

7)「漁獲統計などから資料が得られるすべての魚介類」と明記するのは、漁業関係者に対し不安感を助長させる可能性があるので単に「魚介類」という表現にとどめました。
 繰り返しますが、IUCNも納得させる必要があります。先日のWGでは、出席した漁業者からはむしろ主要魚種という表現より全魚種のほうが歓迎されたと思います。単に魚介類では、意味不明です。 最終判断は座長に一任します。

8)B管理体制の「・・・一般市民からの意見を集約し、合意形成を図る」についても、先のWGでは、外部からの様々な意見への不安感が漁協から示されていたということですが、私は記憶にありません。第1回WGで説明責任はこれからは市民(漁業者)の側にもある。これはたいへんなことだが、今後は必要と私は述べました。これは、IUCNを説得する上で、きわめて重要なことです。生産者だけの意見を聞く管理計画では、欧米標準の合意形成過程の基本を満たしていません。本来は利害関係者として環境団体も加えるべきです(十分合意できる人を紹介できます)。せめて、public commentは必要であり、おそらく実際に実施するはずです(知床管理計画でも実施したはずです)。それを明記しないのはいけません。

 漁業者と話し合って感じたのは、何もマイナスがないという説明が、かえって漁業者に不安感を与えているということです。世界遺産に登録される利点と負担を彼らも判断したいのに、真実を知らされていないと感じている。この点は、環境省と認識が違うようです。関係省庁との合同事務局内の協議でも、おそらくこの一言で、新たな対応を検討されない事態を招いたのでしょう。すでにしてしまった約束(世界遺産による新たな規制を求めない)は反故にできませんが、「漁業者に不安を与える恐れのある表現を避ける」という姿勢が、漁業者の理解を得るのに有効だとは、少なくとも上記2点に関しては、私は思いません。繰り返しますが、全魚種の保全は、漁業者にとっては当然のことです。漁業が成り立たなくなる魚種はあるかもしれないが、資源が絶滅するような魚種はないでしょう。全体として、持続可能な漁業を目指しているはずです。

【中略】

 1回目の意見のときからIUCN意見を迅速に科学委員会に提示して意見を求め、科学委員会と漁業者が当時から直接議論し、科学委員会意見を反映してIUCNに返答していれば、このような事態にはならなかったでしょう。私は、自分の意見に固執しているのではなく、与えられた条件(新たな規制をしない、保護レベルを上げる)のもとでIUCNと漁業者が認めるだろう解を探しているつもりです。これはたいへんな難題でしたが、漁業者の英断により活路が見えてきました。1回目の返答で環境省はIUCNが納得すると思っていたと報道されていますが、私は1996年から2000年にかけてミナミマグロを絶滅危惧Ia類種に掲載したIUCNと彼らのレッドデータブック掲載基準改訂で議論していた経験と通常の論文校閲の経験から、1回目の回答ではIUCNは納得しないと予想していました。環境省の見通しが甘かったことは客観的に証明されています。

以上です。 座長、宜しくご検討ください。

あくまで、コメントは科学委員会が作るものですが、ご意見は、合同事務局も関係各位も、自由に述べていただくことを私は歓迎します。シカWGでも、事務方は自由に意見を述べていて、かつ論点整理の役回りもわきまえていただいています

松田裕之


2005.3.25 科学委員会に関する北海道新聞の報道記事について

北海道新聞2005/03/15付記事海域部分、200メートル以浅の大陸棚に拡大を 知床の遺産推薦で科学委」によると、「知床世界自然遺産候補地科学委員会(委員長・石城(いしがき)謙吉北大名誉教授)は十五日までに、環境省東北海道地区自然保護事務所(釧路)に対し、《1》拡大範囲は水深二百メートル以浅の大陸棚一帯《2》海域管理計画の策定時期は当初の「五−十年」から「三年以内」に早める−の二点を助言した。 」とし、助言の内容として「科学委は、漁業と海洋生態系の保全を両立させるために新たな規制は必要なく、漁業者が現在行っている自主規制で十分との見解を示した 」とあります。これは科学委員である私の認識とは異なります。

 「新たな規制は必要ない」のではなく、「新たな規制はしない」という環境省の地元への約束が先にあったのであり、我々は、「IUCNが求める海域の保護水準を高める」ことと「新たな規制はしない」ことを同時に満たす、世界遺産登録のための解を探したのにすぎません。その結果、「漁業者の自主規制を強化すること」が必要と主張したのです。実際に、羅臼漁協はスケトウダラ漁業の自主規制を強化しました。政府がやって補償すべきことを、漁業者は無償で自らやったということになります。

 また、北海道新聞2005/03/25付記事(4面)によると、IUCN日本委員会理事の吉田正人氏の発言として、これでIUCNの理解が得られるだろうということでしたが、登録されるかどうかはまだ不透明です。少なくとも、3年後の海域管理計画の完成までは、実質的にIUCNの監視下におかれることになるでしょう。
 今回の回答は、前回のIUCNへの回答のように、相手の意見を取り入れていなかった回答ほどひどくはありません。しかし、政府が血も汗も流していない姿は外国にもわかるでしょう。今日開幕した愛知万博の合意形成とは全く異なります。漁業者が自らこうむった犠牲を肯定的に評価するか、政府の無策を否定的に評価するかは、何ともいえません。いずれにしても、水産庁を含む政府は、世界遺産登録により漁業者に新たな犠牲を強いたとは認識していません。これは、愛知万博の妥協とも全く質の異なるものです。