川の自然再生セミナー 第4回順応的管理の技術と方法

9月12日 10:10-11:10 発明会館 

「順応的管理の考え方」松田裕之

ビデオ(約60分133MB) 講演録(18MB) ビデオの再生方法

 2005年に日本生態学会生態系管理専門委員会は「自然再生事業指針」(26原則)を公表した(全文はhttp://ecorisk.ynu.ac.jp/matsuda/2006/060912.htmlより参照可能。以下の資料も同様)。また、横浜国立大学は21世紀COE「生物生態環境リスクマネジメント」の取組みとして、「生態リスクマネジメントの基本手順」をとりまとめた。それより前、サイモン・レヴィンは著書「持続不可能性」(文一総合出版)で生物多様性保全のための8つの戒めを提案した。そのいずれにおいても、順応的管理が推奨されている。日本の新生物多様性国家戦略、生物多様性条約締約国会議の生態系アプローチ(取組み)でも同様である。
 順応的管理は著名な生態学者Crawford Hollingによって提唱され、水産学者のCarl Waltersなどが水産資源管理理論に適用し、発展してきた。生物の個体群動態などの不確実性や非定常性に対して、仮説検証型の管理計画の立案と管理実施後の継続監視を通じた検証(順応的学習)と状態変化に応じて方策を変える(フィードバック制御)を二つの柱とする。それは国際捕鯨委員会(IWC)科学委員会が合意した改訂管理方式(RMP)に反映された。日本では、1998年度からこのRMPの理念を応用した北海道東部のエゾシカ保護管理計画においてその先駆例がある。
 本講演では以下の諸点を強調する。
@管理計画においては実証された定説だけでなく、未実証の仮説に基づいて立案されていること。したがって、どのような仮説を用いたかを明記し、それをどのように検証するかの調査計画を立てること。たとえば道東エゾシカの個体数の12万頭説は1998年当時の仮説であり、2000年には行政文書の中で20万頭説に改められた
A状態変化に応じて方策を変えるといっても、その変え方を予め「アルゴリズム」の形で決めておくこと(RMPでは鯨の資源量に応じた捕獲枠決定アルゴリズムCLAを合意)。単に「状況に応じて臨機応変に方策を(後から)変える」というのは似非順応的管理であり、最もしてはならないことである。
B管理の成否を判定する具体的な評価の諸基準(Benchmarks)を定めること。また管理の目的(抽象的理念)と計画の具体的目標を区別すること。たとえばミナミマグロ保存委員会は持続可能な利用を目的としているが、2022年まで資源量を現状維持することという目標を定めている。後者は、2022年までに成否を評価することができる。
C不確実性を考慮したリスク管理を行うこと。さまざまな不確実性を考慮すれば、ある計画が絶対に成功するとはいえない。どの程度の失敗するリスクがあり、何が起きたら失敗するかを予め想定すること。不確実性には、観測誤差、環境変動などで一定の方策を採っていても個体数などが増減する過程誤差、それに管理方策が正しく実行されない実行誤差がある。それぞれ具体的にどのような不確実性因子があるか、その大きさを見積もることは極めて困難だが、フィードバック制御をうまく設計すれば、大きな不確実性に対しても失敗するリスクを低く抑えることができる。
Dそのためには仮想現実モデルという数理モデルが多用されるが、たとえモデルを立てなくても、(一通りではなく)さまざまな事態を予想し、それぞれに対する対策を立てることが必要である(想定内)。1年後、3年後、10年後に自分とその後任者が何を言うかをさまざまに想定し、準備しておくことが重要である。
Eこれらのことをさまざまな利害関係者とともに合意を図り、信頼関係を築き上げることが重要である。
 順応的管理は、水産資源や野生動物などの個体群管理においては明解である。しかし、生態系的取組みのもとでどのように行うかは、理論的にも未熟である。管理者、科学者、利害関係者に必要なことは、順応的生態系管理が未熟であり、管理の実施において、F「現在の自分たちの判断が過っているかもしれない」という自覚をもって望む責任と謙虚さである。

参考文献


                     財団法人 リバーフロント整備センター
       第4回「川の自然再生」セミナーの開催案内について

 拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
下記のとおり、9月12日(火)に当センター主催(国土交通省後援 予定)による『第4回「川の自然再生」セミナー』を開催いたしますので、ご案内申し上げます。
平成15年1月に自然再生推進法が施行され、各地の河川で自然再生の取り組みが進められています。各地の取り組みは個々に試行錯誤をしながらすすめられているのが現状です。
本セミナーはこれまで各地の取り組みの事例紹介や情報交換の場として好評を得ており、自然再生の技術向上に貢献してきています。また昨年は『合意形成』や『目標設定』に関するテーマを設け開催してきました。
第4回セミナーは川の自然再生に関して、「順応的管理の技術と方法」をテーマにしてモニタリング、管理等へ継続的な取り組みに対する考え方を示すとともに各地の情報提供を行い、「自然再生」に関心を持たれている方の知識の習得、啓発を目的として開催します。

別紙の開催案内をご参照いただき、万障お繰り合わせの上、ご参加いただければ幸いです。ご多忙中の中、恐縮ですが、皆さまの多数のご参加をお待ち申し上げます。略式ながら書中にてご案内申し上げます。

                   記

日  時:平成18年9月12日(火) 10:00〜17:00
場  所:発明会館ホール
(東京都港区虎ノ門2-9-14  TEL03-3502-5499)
プログラム:添付ファイルまたはリバフロのWEBサイトを参照ください      http://www.rfc.or.jp/
受 講 料:1,000円(テキスト代として当日徴収いたします)
申し込み・問合せ:@氏名 A勤務先(会社名) B郵便番号 C住所 D電話番号EFAX番号FE-mailアドレス をご記入の上、FAX及びEメールにて下記までお申し込み下さい。
申し込み先:〒102-0082 東京都千代田区一番町8番地一番町FSビル3階
(財)リバーフロント整備センター 技術普及部 土門・伊藤(将)
E-mail:g-fukyu@rfc.or.jp  Tel:03-3265-7121  Fax:03-3265-7456
主  催:(財)リバーフロント整備センター
後  援:国土交通省(予定)