2003年の書簡 2002 2001 2000 1999 1998 1997
1999.期日不明 米国における猛禽類の保全について=環境化学物質と生態系管理をめぐって=
9.3 IUCNレッドリスト規準改定案と見直しの経緯について
1999.8.27 野生生物保護管理の基本的な性格と特徴
1999.6.22 万博会場予定地の種子植物絶滅リスク評価
1999.2.12 「海上の森ボーリング工事と環境影響評価についての質問書」に対する回答
1999.1.1 新年の挨拶
1999.1.1
1999 昨年父が亡くなり、喪中にて失礼します。
昨年は、以下のことをやりました。
1)
エゾシカ保護管理計画
2) 植物の絶滅の恐れを定量的に評価
3) 愛知万博環境アセスメント
4)
琵琶湖セタシジミ回復計画
1)エゾシカ保護管理計画が実行に移され、論文もまとめました。研究者の描く方針を行政が取り上げる様子を実感できたことは、私の人生にとっても大きな経験でした。幕末に匹敵する時代の節目にあって、幕末の志士とはほど遠い天下り志向の官僚ばかり目にしていましたが、未来への展望と責任感をもった北海道の研究者や行政官と知り合えたことにかすかな光を見ました。
3)植物レッドデータブックでは絶滅の恐れ(リスク)を数理模型により定量的に評価することが徹底され、私も一役買うことができました。2000種に及ぶ日本の植物の個体数、分布域、減少率の基礎情報を使えば、各地の開発が及ぼす希少種への影響も定量的に評価することができます。2005年日本国際博覧会(愛知万博)の環境影響評価(アセスメント)の検討委員になった私はこの手法を使うよう提案しましたが、意外にも環境庁が後込みして実現しませんでした。里山の自然をどう評価し、どう守るのか、この「日本固有」の問題に対し、私が今まで手がけてきた数理生態学はほとんど役に立ちませんでした(岩波「科学」8月号)。昨春の生態学会では自由集会で愛知万博問題を取り上げ、委員として情報公開と合意形成の仲介をする新たな役割を示すことができました。北米の生態系管理と順応管理について学び、その手法を日本に紹介することにしました。日本を代表する保全生態学者である筑波大学の鷲谷いづみ助教授と共著で昨年末の「応用生態工学」創刊号に「生態系管理および環境影響評価に関する保全生態学からの提言(案)」をまとめ、今年3月の生態学会ではそれに応える数理模型の自由集会を企てています。万博アセスメントは今年施行される環境影響評価法の先例になることという閣議了解があり、会場候補地自身の自然を守ることと同時に、環境影響評価の手続き自身が問われています。ところがアセスメント中に大規模なボーリング調査を行うなど、アセスメントを軽視すると見られる動きがあり、年末の12月27日には4名の委員とともに現地を自主視察して愛知県と保護団体の双方から意見を聞く機会を作りました。
4)琵琶湖のセタシジミはこの四半世紀に漁獲量が6000トンから200トン以下に落ち込みました。淡水真珠母貝であるイケチョウガイは1992年に2kgの漁獲量を記録したのを最後に漁業がなくなり、今や琵琶湖全体で1万個体以下でほとんど若い個体がいないという絶滅の危機に瀕しています。滋賀県水産試験場の研究者が頑張ってセタシジミ漁の網目を大きくし、子供を獲らないようにするよう県と漁協を説得しています。彼の熱意を援護するため、網目を大きくした場合のセタシジミ回復予測の数理模型を考えました。漁業者に過度の期待を抱かせることはできませんが、このままじり貧になるよりも1年我慢してじり貧をくい止め、数年後に子供の貝が増え始めて回復することが期待できます。琵琶湖は世界でも有数の古代湖であり、固有種に恵まれ、漁業も盛んです。しかし、湖岸開発による生息地破壊、公害と富栄養化、乱獲、ブルーギルとオオクチバスなどの外来種の大発生という環境問題に悩まされています。琵琶湖の生態系を守るための研究者と市民の輪を広げるために今年は力を注ぎたいと思います。
本年もどうぞよろしくお願いします。